031 因果応報……?
おスシを提供してくださっているお店の名前は『キラク』、気楽に来て欲しいという意味合いと、喜怒哀楽の喜びと楽しみから取ったお店の名前なんですって。
ゲイルは最初こそ恐る恐るという様子だったけれど、まずは食べやすいサーモンからということで一口食べてからは、もう人が変わったかのようにパクパクと食べ続けていたわ。お酒も進んじゃって、飲みすぎて歩けなくなっちゃったわね。お会計を済ませた後、キャロルちゃんが肩に担いでくれて、魔導馬車まで運んでくれたわ。
『そういえば、どうしてベルリーネが首都なのに議会はフランフェルにあるの?』
「随分昔に、商売と政の場を分けたのじゃ。貴族の影がチラつく場所では、自由に商売がしにくいという意見が多くてな。まあその結果、ベルリーネは安全じゃから国防の観点からフランフェルが全てのマギアを所有するという偏りが起き、魔獣の増加傾向も相まって議員がフランフェルに全員移ったからというのが正しいな」
『フランフェルからしたら、ベルリーネは要らないってこと?』
「ジャルマーは貴族制度を廃止しておるからな。今や貴族が持っていた特権階級の地位は、大手の商会長が持っている状態じゃ。そんな商会長に追い出されるようにフランフェルへ移り住んだこともあり、元貴族の議員はベルリーネを嫌っておるぞ」
『え~……。トウキョーとオーサカみたい……』
なるほど、そんな事情があったのね。だからマギアをこちらに全く回さないのかしら?
『でも、マギアがこっちに居ないと、不安になったりしないのかな?』
「冒険者が魔獣を狩り、魔獣発生の兆候も観測されておらぬ。周辺での被害もほぼ皆無じゃった故、壁の外でまで商売をしておる者が居たのじゃ。じゃが、今は違う」
『やっぱり、この前のスタンピード?』
「うむ。スタンピードが起きる前は、儂の商会がマギアを修復して完成させた時どころか、ハンガーを建設した時から反対運動が大きかった。自由貿易都市で巨大兵器をチラつかせ、武力を誇示するとは何事かー……とな?」
『それが今では反対意見ゼロ? 都合が良すぎない……?』
「人間なんてそんなもんじゃ。いざ危険だとわかれば力に縋り、簡単に手のひらを返す……それに、まだ反対意見はゼロというわけではないぞ?」
『え、まだ反対って言ってる人居るの!?』
「スタンピードはヒルガオ商会が人為的に起こしたもので、マギアの必要性を正当化しようとする強硬策だ~と言っておるぞ」
呆れた。死ぬほど危険な状態になっても、まだ自分達のプライドを優先しようとする人が居るのね。
まあでも、その気持ちは少しだけわかるわ。重大な任務中に腹痛が来た場合、極限まで追い込まれた時に命よりも腹痛のことが頭をチラつくことがある人を何回か見たことがあるもの。今回のネームレス部隊の下っ端もそうだったようにね。そういう人達は死ぬまで優先順位を間違え続けるものよ。
「未だにそんなことを言っている連中は、周りから白い目で見られておるがの」
「エメラルダ商会が流し続けているデマという可能性は?」
「…………ないとは言い切れんのう」
エメラルダ商会……。強引な手段で荒稼ぎしている商会で、世界各地に支店を持っていると聞くけど……。あの人も命よりプライドを優先しがちな人よね。
そもそも、そんなにお金を稼いで何がしたいのかしら。ヒルガオ商会を目の敵にしているし、ベルリーネでも評判は良くない。居場所がないのにここから出ていかない理由があるのかしら。
「どうしてベルリーネでの商売に拘るのかしら」
「エメラルダがか?」
「ええ、もう散々負けていて居場所がないでしょう?」
「ここから出ていったら、完全敗北宣言になってしまうからじゃろうな。ここは世界でも有数の巨大商売都市、このまま出ていったとなれば敗北者のレッテルが貼られてしまう」
「このままここに居ても、同じだと思うけど」
「浮き沈みというものは誰にでもある。ここからまだ巻き返せるかどうかは、エメラルダの腕次第じゃな」
そういうものなのかしら。わからないわね、商売の世界は……。
『逆に、潰しちゃえーって思わないの?』
「悪いことをすると自分に返ってくるものじゃ。因果応報、という言葉の通りじゃな」
「ぅあ……。ヤバい、吐きそう……」
「これも、因果応報というものかしら」
「これゲイル! ここで吐いたらゲロルと呼ぶからの!!」
「ゲイル様に気分が落ち着くネックレスを、少しだけお貸ししても宜しいですか?」
「そうね、ここで吐かれたら大変だもの」
イヴちゃんにあげたネックレス、これを身に着けていればきっと暫くは落ち着いて居られると思うけど、酒酔いにも効くのかしら?
「う? お? おっ……んがぁああああ……」
「落ち着くどころか、お眠りになりましたね……」
『お姉ちゃんも結構飲んでたけど、酔わないの?』
「私はお酒が効かないの。酔うと気分が良くなるって聞くけど、感じたことはないわね」
「水のように飲んでおったのう……。それにゲイルが対抗して飲むから、こんなことになるのじゃ……」
「寝てしまったのでしたら、外して返して頂きましょうか」
「寝ている間に吐かなければ良いがの」
「……もう少し、着けておきましょうか」
効いたけど、眠ったわね。この状態で外したら、眠りながら気分が悪くなって吐いちゃうのかしら。よくベニーが飲みすぎて、メアリーに介抱されていたのが懐かしいわね。
「そういえば、キャロルちゃんはどう? 魔導馬車の運転も練習していたわよね」
「あっ……。あ~……」
キャロルちゃんに魔導馬車の運転の話題を振った途端、私とエルちゃん以外の全員が険しい表情になったわね……。これはまさか、相当酷いということかしら……?
「システィーナよ。キャロルに乗り物を触らせてはならぬ」
「え? どういうことかしら?」
「魔導馬車のみならず、マギアの操縦もやめておいたほうがよいかと」
「う~……」
「キャロルがハンドルに触った途端、魔導馬車のタイヤが破裂した。そしてエンジンキーを回したら、エンジンが吹き飛んだのじゃ」
「それも3台連続で、です」
『3台連続!?』
「それは、何かあるわね……」
魔導馬車の座席に座る分には問題ないけれど、運転しようとすると突然トラブルが発生するのね……。それは酷い以前に、運転不可能の領域ね。エルちゃんですら見抜けないキャロルちゃんの能力が、恐らく邪魔をしているのだと思うけど……。
「座るだけなら問題なかったので……」
「今もこうして座っていて問題がないものね」
「それで、明日は体術訓練ではなく射撃訓練をしようと思っていたところでして……」
「今日はゲイルが来たから、急遽体術訓練になっていたものね」
「はい。セシリー様やメカニックの皆様に作って頂いた、特別製のアサルトライフルを使用する予定です」
「77口径のアサルトライフルね」
「もうあれは連射できる大砲じゃて、アサルトキャノンじゃろ……」
確かに、アサルトライフルというよりは、アサルトキャノンと言うのが適切かもしれないわね。装弾数も少ないでしょうし、制圧には向かない兵器かもしれないけれど、相手を脅かすにはこれ以上ない威力の兵器よね。
『あ! もしかしてあのマガジンを使うの!?』
「はい。あのマガジンです」
「あらあら、私に内緒のお話し? 内緒にしないで聞かせて欲しいわ」
「指が2本分程の大きさの弾丸ですから、どうしても装弾数に問題が出てしまいました。マガジンもそれに伴い巨大なものに。ですので、逆に大きなマガジンであることを利用して、マガジンをマジックバッグ化したのです」
『マジックマガジン! これならいっぱい弾が入るよね!』
「これにより装弾数は300発となり、広域制圧能力も獲得致しました」
あら、凄いパワフルな方法で装弾数問題を解決していたのね。銃本体より、マガジンのほうが高くなっちゃったんじゃないかしら……。
「ちなみに、使用した魔石はフォートレスタートルのものです」
『あのデカクズ魔石、トリプルワールドの補助ありなら精錬出来たんだよー! まあ拳大から小指ぐらいまで小さくなっちゃうんだけど……。それでも十分使えるよ、ちょっと容量が小さいけど!』
「…………エルちゃん」
あのデカいだけで使い道のない魔石が、マジックバッグの能力を発揮できる程度には使えるようになった……!? そ、それは……!! 大革命よ、エルちゃん!!
「つまり、私が保管しているデカいだけのクズ魔石が、全部マジックバッグに使える程度の能力になるということかしら?」
『……え゛』
「システィーナ様、お待ち下さい。フォートレスタートルの魔石は、どの程度お持ちになられているのですか?」
「フォートレスタートルと同じぐらいの使い道がない魔石は、売れないから沢山保管してあるわ」
「やめるのじゃ、これシスティーナ! マジックバッグからマジックバッグを取り出すでない! 埋まりたくない!!」
「大丈夫よ、魔石保管用の鞄には1000個ぐらいしか入っていないわ」
この鞄の中に眠っている、いつか使えるかもしれないと取っておいたデカクズ魔石が、遂に……。
『お姉ちゃん……?』
「なぁに?」
『その鞄、あと何個あるの……?』
「20個よ」
『み゛ゃ゛』
あらあら? エルちゃんが可愛い声を出したと思ったら、複雑な表情で眠ってしまったわ。でもこれで遂に、一番容量を圧迫していた魔石の使い道が出来たということよ。全部をマジックマガジンにしなくて良いから、沢山入る小物入れ程度の鞄を作って量産したら、ヒルガオ商会の商品として売りに出せるのではないかしら。
「そなたの妹の体が弱かったのは、そなたがこうして負担をかけるからではないのかえ……?」
「そんなことはないわ。病気になる前までは元気に走り回っていたもの」
「3歳の頃に、システィーナ様以外のご家族全員が病気になられたと聞きましたが……」
「私もなったけど、運良く軽症ですぐに治ったわ。手足が動かなくなり、体の機能がどんどん衰えていく病気よ」
思い出したくないわね……。村全体にこの病が広まって、私達も全員倒れてしまって……。運良く軽症で済んだ人は治ったけど、重症化した人は皆死んでしまったの……。
「……システィーナよ、歳は20じゃったな? フィレンツェのどこの出身じゃ?」
「トールという村よ。村と言っても、人が少ないだけで大きな村だったわ」
「病に倒れ死んだ者は、手足の先が黒くなっておらんかったか?」
「…………なっていたわね。それが流行り病の特徴だって」
ヒルガオ会長は長く生きていらっしゃるから、この病の正体を知っていたりするのかしら? エルちゃんが調べても全然わからなくて、どのお医者様が見ても匙を投げるばかりで……。
「今から12年前、死を呼ぶ黒き竜なる天災級イノーマスの出現が観測された。しかも子供が居たようでな、フィレンツェのパーリス南部にて頻繁に狩りをしている姿が目撃されておる。その竜の体からは魔素の瘴気が漂っており、近付けば魔に侵され倒れるという。特に瘴気を発していたのは子供のほうで、成竜のほうは吐息を浴びなければ近づいても害はなかったそうじゃ。その病の症状はな、手足が痺れ動かなくなり、内蔵の機能が低下して、最後には手足が黒くなって死に至る」
「12年前のパーリス南部……」
『トールは、パーリスの南だったよね……』
それじゃあ、エルちゃんが侵されていた病の正体は……。
「黒き竜の病。その病はそのように呼ばれ恐れられておった。しかしある日を堺に、この黒き竜の病はパタリと症例が報告されなくなった。同時に死を呼ぶ黒き竜とその子供も観測されなくなった……。噂では、子育てに失敗してしまったとか、住処を変えたなどと言われておるが……」
私が9歳の頃に狩った、黒い大きなトカゲが原因だったのかしら?
『お姉ちゃん、森で大きな黒いトカゲを狩ったって言ってたよね……?』
「かなり臭かったし、これはこのままにしておけないと思って狩ったわね。大きくて綺麗な魔石だったから、初めてのマジックバッグ作成の実験台としてエルちゃんにプレゼントしたわ」
「システィーナ様、もしやそれはトカゲではなく、あの……」
「あ~……。システィーナ様は女神……」
「目撃証言がなくなったのは、まさか……。いや、その頃から怪力じゃったのか……?」
多分、そうなると辻褄が合うわね。森に近かった家のほうが重症化しやすかったし、エルちゃんも森で遊ぶのが好きだったものね。両親も森で木の実やきのこを拾って来るのが日課だったし、私は森には近づかないほうだったから……。
「いやでも、成竜のほうはそれから暫く各地で暴れ回っておったはず。怨嗟を嘆く黒き暴竜と呼ばれ、多くの討伐隊がこれを討伐せんと立ち上がった。右目を潰し追い詰めたと思った時に逃げられてしまい、それ以降は報告例がない……。各国の冒険者ギルドで、この竜の調査を常に出し続けておるぞ」
『お姉ちゃん!! 右目の潰れた黒い竜だって!!』
「同じようなドラゴンを、単独任務中に狩ったわね……。ズタボロだったし、任務の邪魔だったから」
「か、かっ……!」
「もしや、システィーナ様のご飯になったという……」
「ご、ごは……っ!?」
なるほど、エルちゃんを病気にした悪いドラゴンは、私の知らぬ間に報いを受けていたのね。エルちゃんを苦しめた仇、いつの間にか討っていたみたいだわ。いえもちろん、違うドラゴンだったかもしれないけど……。うーん、右目の潰れた黒いドラゴンなんて、そうそう被らないわよね……。
「超弩級を超える、天災級じゃぞ!? 魔石は、どうしたのじゃ!?」
「ホワイトリリーのエンジンコアだけど」
「こぉっ……!!」
「いけない、ゲイル様失礼します。さあ、この気分が落ち着くネックレスを」
「うっ……!? やべえ、吐く……!!」
「儂よりゲイルが大変じゃて、マズいて……」
大変だわ、気分が落ち着くネックレスも量産しないといけない気がするわ。でもこれ、金色に光る小さな兎から取れた希少な魔石だから、なかなか作れないものなのよね……。またどこかで見つけられないかしら、金色の兎……。
『今日のことは、忘れずに記録しておかないと……。ごめん、やっぱり明日にする……』
「ダメじゃ、儂は少し横になる……。もう、もうお腹いっぱいじゃ……」
「う、ご……。んがぁあああ……」
「今日は、全員ダウンしてしまいましたね」
「システィーナ様は女神」
「キャロルも考えるのをやめていますね」
そうね、結構遅い時間になってしまったものね。今日は帰ってゆっくり休みましょう。続きはまた明日、ゆっくりと話をすれば良いものね。





