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030 知ることの恐怖

「……要約すると、あー……。儂の商会は、ロムナ帝国に喧嘩を売ったということかえ?」

「違うわ。喧嘩を買ったのよ」

「いやあ変わらん、大差ないのじゃ~……!!」

「この長距離で、動いていない相手とはいえ武装を狙って当てられるのか……」


 ヒルガオ会長は頭を抱え、ゲイルは映像球を抱えてずーっと巻き戻しと再生を繰り返しているわね。

 それに喧嘩を売っただなんて、人聞きが悪いわ。所属不明機を撃墜しただけだもの、全面的に悪いのはロムナ側だわ。魔獣を扇動して攻撃を仕掛けてきたのを含めれば、喧嘩を売ってきたのも向こうが先よ。


「そうか、大型イノーマスはフランフェルに、魔獣はベルリーネへと流れるように追い払ったのか……!」

「そなたちゃんと話を聞いておったか? システィーナがさっきそう言っていたぞ」

「え? あ、そう?」

「ゲイルの任務には、ベルリーネ側で起きたスタンピードの調査も含まれているのね?」

「そうそう……。あ! やべえ、言っちまった!」


 ゲイルの任務は大きく分けて3つね。

 1つ目はヒルガオ商会が持つマギアとパイロットの調査。恐らく、フランフェルの議会はこちらが所有に適さないと判断したら、何か難癖を付けて取り上げる気なんでしょうけど……。ゲイルはそんなことをする気はないって感じね。

 2つ目はベルリーネの防衛能力の調査。今までベルリーネが襲撃されたという事例は1件もなく、冒険者による魔獣の駆除も行き届いているから世界的に見てもかなり安全な場所。それに他国に攻め込まれたとなれば、フィレンツェとロムナ以外の非常に親密な周辺各国が黙っているわけがない。だって、そんなことをしていたら次は自国の番になってしまうものね。

 3つ目、スタンピードの原因の調査。偶然なのか、それとも人為的なものだったのか、裏で動いているのはフィレンツェとロムナのどちらかを調査する任務もあったのね。つまり、フランフェルの議会も今回の件はかなり訝しんでいた、ということになるわね。


「まあまあ、信頼に足る人物が居れば協力して貰えとは言われてたんだ。大丈夫だろ!」

「議会にはどう報告するつもりじゃ?」

「ん~……。ぶっちゃけた話、フランフェルはベルリーネ側を見捨てるつもりだったんだ。だから、強いマギアなんだったらってことで欲しがってる……」

「弱いマギアだったと報告すれば、ゲイルの調査能力を疑わざるを得ない。ベルリーネ側に寄り添った報告は、あまり良くない結果になりそうね」

『わあ、お姉ちゃんが凄くまとも……!』

「昔、報告が面倒だからって人のミスを庇った時、レネガル総隊長にバレてゲンコツを100発ぐらいくらったことがあるもの。あれは痛かったわ」

『100発はやりすぎ……』

「そんな、100発もゲンコツをされるほど何を庇ったんじゃ……」


 あの時メアリーのことを庇った内容は、確か……。


「撃墜したロムナの機体を調査しようとした隊員が操縦席から降りて、地雷原に踏み込んでしまって動けなくなっていたから、地雷が爆発するより早く回収すればいいかと思って私も降りてその隊員を担いで走っただけよ」

「最悪のケースは、2人とも死亡で無人のマギアが2機も発生する状況だったじゃないか……」

「でも生きているわ」

『お姉ちゃん、それは100発じゃ足りないかも……』

「1000発ぐらいゲンコツを受けてもおかしくないのう……」


 でも結局、それがキッカケで相手の特殊部隊名や諸々を知るキッカケになったのよ? 悪いことばかりじゃなかったと思うのだけど……。


「まあとにかくだ、暫くこっちに滞在する予定なんだ。何か上手い言い訳をさ、一緒に考えてくれよ~」

「上手い言い訳……。難しいわね」

「そうじゃのう~……。おお、ところでシスティーナよ!」

「はい?」


 あら、ヒルガオ会長がちょっと元気になったわね。これは、ご飯のお誘いかしら?


「ハンガーで何かメカニック達が何かを作っているそうじゃが、そなたの指示かえ?」

「え? 私は特に何も。予備のパーツを作って欲しいとは言ったけど」

「何かを一生懸命に作っている様子だったね。そこでイヴちゃんやキャロルちゃんに出会って、トレーニングに付き合っている内に~……まあ、この流れだ!」

「誰も知らんのか。イヴは何か聞いておらぬのかえ?」

「いいえ、特には……」

「そうだそうだ、俺の機体もハンガーの空きスペースに格納させて貰ったんだ。その御礼を言い忘れていたよ! ヒルガオ会長、ご協力に感謝致します!」

「まあ空いておるのじゃから何も問題はない。ついでじゃから、なにか気になることでもあれば直しておくと良いぞ」

「ありがとうございます。明日にでも点検をさせて頂きます!」


 ハンガーで何かを作っていた……。セシリーちゃんかフラフィーちゃんが新しい風になって、何かピーンと来て作っているのかしら。でもホワイトリリーには私の指示や許可なく新しいパーツは取り付けないようにって言ってあるし、うーん……?


「あ……。エルちゃん、こっそりハンガーの様子を調べてるでしょう?」

『えええ~!? どうしてわかったの~!?』

「お顔に書いてあったもの。今調べてますって」

「おいおい、離れた場所を調べる魔法なんてあるのか? 初めて聞いたぜ」

『あっ! えっとね、これは……。エンジンかな?』

「エンジン……?」


 エンジン? エンジンがどうしたのかしら。


『多分だけど、小型のエンジンを作ってるんだと思う! ホワイトリリーを模倣して、新しいマギアを作ろうとしてるんじゃないかな!』

「なんじゃとー!?」

「あらあら、それが成功してしまったら、大手のマギアメーカーが泡を吹いて倒れちゃうわね」

「まあ見様見真似で作ると、大体どこかしらにトラブルが出て大惨事が起きるもんだが……」

「でも完成品が目の前に2つもあるなら、見様見真似だとしてもある程度のものが完成しそうね」

「2つ? ホワイトリリーだけじゃ…………あっ!!」

『グッドレスポンスも、弄ったりせずに外側から構造を調べてるみたい』

「見るだけなら別に良いって、俺……言っちゃったよ……」


 熱意がある人間に、見るだけなら良いなんて言ったら……それは、隅々まで見られちゃうわよ?

 もし、量産型の製造を目指しているのであれば、大まかな部分はどうにかなるかもしれないけど……。計器や冷却システム、エンジンコアの問題が付きまとってくるわね。私が分かる範囲で、今度しっかりと教えておこうかしら。


「まあ、人類の英知の結晶であるマギアは、イノーマスに勝利した人類の象徴だ。作ってみたくなる気持ちはわかるが、三日三晩で出来上がる代物じゃない」

「イノーマスに勝利した? 本当にそう言えるのかしら」

「…………この話題は、衝突しそうだな?」

「アトラス大陸とムゥ大陸の惨状に目を瞑れば、概ね勝利と言えるでしょうけども」


 人類はイノーマスに勝利した。世界的にはそう言われているけれど、アトラス大陸とムゥ大陸の状況を知っている人間からすれば、勝利なんてとても言えない。言えるはずがない。


「俺はアトラスとムゥの惨状を聞いたことしかない。見たことがないんだ、赦してくれ」

「天災級のイノーマスが犇めく、悍ましい魔の大陸よ。人類が消えた大陸、敗北の象徴……」

『えっ、そんな場所が、あるの……?』

「私も初耳です」

「儂も聞いたことがないのう。アトラス暦のアトラスと、何か関係があるのかえ?」


 そうよ。アトラス暦とは、このアトラス大陸とムゥ大陸が強く関係している。レネガル総隊長と共に遠征に行くまでは、私もこの大陸の存在を知らなかった。私達を怖がらせるための嘘だと思っていたもの。


「……かつて、この世界に存在しなかった大陸と、噂されているわ。西の海を渡った先に、アトラス大陸は存在するの。ムゥ大陸は更にアメリカーナ大陸を横断したその先の海にあるとされているわ」

「俺の聞いた限りでは、アトラスには失われた古代の財宝が眠ってるーとか、まあそのぐらいなんだが」

「イノーマスは自然発生したんじゃない。このアトラス大陸とムゥ大陸から、渡ってきたのよ」

『ノーデータ……。検索しても、出てこないけど……』

「親父も行ったことがあると言っていたな。アトラスは人類敗北の象徴、その敗北から何年経過したか忘れないために、アトラス暦とされているとかなんとか……」

「そう。その通りよ……。あの大陸で最初に、人類が敗北したの。それから世界各地にイノーマスが渡って大地を汚染し、魔獣が発生するようになった……レネガル総隊長は、そう言っていたわ。私もこの説を信じている。実際、この目で見てしまったから」


 人類の敗北の象徴、アトラス大陸……。もう二度と、あんな恐ろしい場所には行きたくない……。


「じゃが、そんな場所が昔から存在していたなら、もっと早く世界中に魔獣が散っているはずじゃろ?」

「転移してきた、なんて言われているわ。元々この世界には存在しなかった大陸だそうよ」

「一気に嘘くさくなってきたな」

「キャロル、どう考えますか?」

「システィーナ様は女神。間違って、いません」

「なるほど。参考になりました」

『イヴちゃん、それは思考停止っていうんじゃ……』

 

 最初にアトラスが、続いてムゥが……。超大型イノーマスが世界中で現れるようになったのは、ムゥ大陸が転移してきてからという話よ。

 この世界はイノーマスに勝利なんてしていない。もしも勝利しているなら、この世界にイノーマスが新たに現れること自体がおかしい。汚染は広がり続け、奴らは生息圏を拡大し続けている。現に私達は決まった箇所にまとまって生活をするしかなくなり、どんどん居場所を追いやられている。


「だから、人類同士が争っている場合じゃないのよ。イノーマスは根絶しなければならないのに……」

「それは俺も賛成意見だ。人類同士が争っても、イノーマスに横槍を食らって滅びるだけだ」

「それは間違いないのじゃ。戦争なんぞ、している場合ではないというに……」


 暗い話になっちゃったわね……。でも、私はあの光景を絶対に忘れたりなんかしない。イノーマスに占領された大地を、蹂躙された文明の痕跡を……。


「気晴らしに、何か食べに行くかの? この前の店の隣に、スシなるものを出す店があるのじゃ。生の魚は食うたことがあるかえ?」

「いやあ、生の魚なんて危険だから食ったらヤバいって!」

「一度食べてみたいと思っていたの。私は行きたいわ」

『お寿司!? 絶対行く!!』

「あら、エルちゃんはスシを知っているのね?」

『うん!! えっと……本で読んだことがあるの!! 凄い美味しいんだよ!!』


 あらあら、本で読んだことがあるだけで、凄く美味しいって言い切るなんて。エルちゃんったらせっかちなんだから。


「そなた達も行きたいのであれば連れて行くが、どうするかえ?」

「ぜひ、ご一緒させて頂きたいです。キャロルも、よろしいですか?」

「うむ、全く問題ないぞ! むしろこれからも一緒に来るがよい!!」

「ありがとうございます。感謝致します、ヒルガオ会長」

「あ、りがとう、ございます!」

「おいおい、生は流石に……」

「あら、意外と度胸がないのね」


 ゲイルさん、知らないものを知るのがそんなに怖いのかしら? これまで問題を起こしていない、高級料理街に並び続けている店ということは、それだけの実力があり美味しいということよ? 約束された美の味、知らずに帰っても良いのかしら。


「ああ!? 俺も行きます。ええ、同行させてください」

「生の魚以外もあるそうじゃから、まあ口に合わなければそれを頼めばええじゃろ」

「いえ、ぜひそのスシとやらを。食べさせて頂きます」

『ゲイルさん、煽り耐性ゼロだ~……』


 良かった、一緒に来てくれるのね。うっふふ、イヴちゃんったらニヤニヤしてるわね……。わかるわよ、これで一緒にご飯を食べたことになるから、さっき聞き入れたお願いを消化出来ちゃうものね? 一石二鳥で思わずニヤけちゃったのね?


「では参るか!」


 スシ、初めてだわ……。任務中に体調が悪くなったら大変だから、よくわからないものは食べられなかったもの。生のお魚なんて、尚更! 楽しみだわ、どんな味がするのかしら? エルちゃんが楽しみ過ぎて、目がキラキラしているわね。更に楽しみになってきたわ……!!


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