029 報告会
『――パワーはある、だがまだまだヌルいなぁ! 攻撃が直線的、素直に突っ込むだけじゃ当たらんよ!』
『お姉ちゃん、どうするの!?』
「ん~……」
まさか、ベルリーネに戻って来るなりこれとは、思いもしなかった展開ね。
昨日、ゆっくり戻るとは言ったけど、流石に半日で戻ってきたら『本当に調査してきたのか?』って言われかねないと思って、他の地域の調査をしながら次の日戻ることにしようってことにしたんだけど……。まさか、既にグッドレスポンスのパイロットが来ているとは思わなかったのよね。
『――どうした、他に手札はないのか? そんなんでどうする、ええ!? 考えろよ、相手よりも頭を使うんだ!』
『困ったね、これは……』
「う~ん……」
結構熱い男みたいなのよね、彼。最初は軽い運動のつもりだったんでしょうけど、予想以上にやれるものだから、お遊びモードから闘争モードに入っちゃったみたいなのよ。もうかれこれ1時間弱、バッチバチにやりあっているのよね……。
『――うがぁあああああ!!』
『――地面を蹴り上げて土煙か、考えたな!!』
彼と、キャロルちゃんが……。
『――だあああああ!!』
『――おおっと危ねえ!! 凄え、蹴りだけで服が斬れやがった、マジで凄え!!』
『――ご、ぉっ……!?』
『――だがその作戦はな、ここから出てきますって言ってるのと同じだぜ!!』
『あー背負投げされちゃった! お姉ちゃん、止めようよ~』
「私とはまた違う戦闘スタイルね。技術的な部分は彼のほうが上よ。力なら圧倒出来るだろうけど、逆にその力を上手く流して技を決められそうね」
『お姉ちゃん!!』
「あ~ごめんなさい、そろそろ止めましょうか」
キャロルちゃんにとっては良い経験になるかもしれないけど、流石にそろそろヒルガオ会長に報告へ行きたいのよね。わざわざ都市の外まで出てきて訓練をしていたから、割って入るのも悪いかなと思って、模擬戦が終わるのを待っていたのだけど……。
「あの、そろそろ良いかしら? グッドレスポンスのパイロットさん、よね?」
『――ん!? ああ、そうだごぉおお!?』
『――がぁうう!!』
『私、キャロルちゃんを止めてくる~!!』
「あ~……お願いするわね……」
ホワイトリリーのスピーカーを使って呼びかけたら彼が手を止めてくれたけど、キャロルちゃんが全然止まってくれないわ。イヴちゃんも日傘を差してニコニコしたまま見ているだけだし、もう~困ったわね~……。
『――はいはい、ストップストップキャロルちゃ~ん!!』
『――わぁああ!? ああ、うう……!?』
『――うお、なんだこの可愛い子ちゃんは!? どう』
出力1パーセント、連射ライフルモード。当てないように、1発だけ……!!
『――うわあああ!? なんで撃つんだよ、正気かぁ!?』
「少し、そのまま何も喋らないで。大人しくして貰えるかしら」
『――どういう事情か知らないが……あ、あ~……。いやわかった。指示に従うよ』
良かった、皆に睨みつけられたから、なにかおかしいなって気がついてくれたみたいね。さすが良い反応なんて名前が付いているだけあるわ。さて、失礼なことをしてしまったけど、事情はヒルガオ商会に案内してから話すとしましょう。
『ただいま~お姉ちゃん』
「おかえり、エルちゃん。まさか、見えるなんてね……」
『ヒルガオ会長の能力の効果かなぁ? 凄いパワーだね~……』
「225年間、能力が働き続けているとしたら、今が絶頂期なのかもしれないわね」
『この短期間で、これだけの保有者が集まるんだもん。凄いパワーだよね』
さて、どんな能力を持っている人なのかしら。気になるけど、まずは場所を変えましょうか。
◆ ◆ ◆
「……驚いたな。その子が見えたらホルダーだって一発でわかるのかい」
「今のところその可能性が非常に高いということじゃな。ホルダーには見える、それ以外には見えぬ。今のところはそう考えられておる」
「えーっと、つまりその子が」
「エルちゃんよ。エルエニア・リリー、私の世界で一番大切な妹」
「あ~。エルエニアちゃんが見えたってことは、俺もホルダーだって言いたいわけだ」
ヒルガオ商会の内緒話専用のお部屋に通されて、彼にどういう事情で発砲して黙って貰ったのかを説明したら、とりあえずは納得してくれたわ。
「うむ……。ガブリエル・グッドマン、そなたもホルダーである可能性が非常に高い!」
「いやぁ、昔そういうのに憧れて何回か鑑定を受けたことがあるが、そんな特別な力は見つからなかったけどなあ」
『審判の正位置、だって! 能力はー……』
ガブリエル・グッドマン。親しい人達からは『ゲイル』と呼ばれているらしいわ。
彼の能力の名前は審判の正位置、能力は……才能が開花しやすく、努力が実を結びやすくなり、巨大なチャンスが到来しやすくなる。私やヒルガオ会長のような『常時発動型』の能力で、彼の高い戦闘能力は、そのレベルに達するまで努力をしてきたからみたいね。
「いやだなぁ、俺はそんな努力なんてしてないよ。ただ飄々と生きてるお調子者さ」
「飄々と生きているお調子者の体じゃないわ。基礎トレーニングを毎日欠かさずやっていて、食事バランスにも気を使っている人の体よ。筋肉は嘘をつかない」
「…………美人にまじまじと見つめられると、なんだか照れちゃうなぁ!?」
ゲイルは自分のことを遊び人だ、何もしていない、たまたまパイロットになれただけだと言っているけれど……。さっきキャロルちゃんと模擬戦をしていてわかる通り、その場しのぎや勢いだけで出来る対応のレベルじゃない。超一流のパイロットを目指すために、努力を続けている人間のそれだったわ。
「いや、マジでホルダーとかそういうのは知らなかったんだ。それに、ヒルガオ商会のパイロットがこんな美人だなんてことも知らなかった。今日、いや今日はさすがにないか……。今度、一緒に食事でもどうかな? エルエニアちゃんも一緒に、ああ! イヴちゃんとキャロルちゃんもどうだい?」
「システィーナ様、なかなか欲深いお方ですね。私までお願いされてしまいました」
「ダメよ、イヴちゃん?」
「仕方ありませんね……ふふふっ……」
「え? え、俺……フラレた!?」
『あのね、イヴちゃんの能力は私達の中で多分、一番恐ろしい能力で……』
「お願いをされてそれを聞き入れられたら、対価として強制的に何かを徴収出来るのよ、イヴちゃんは」
「そりゃあ良い! 対価を支払ったら、こんなに可愛い子と付き合うことが出来るんだろ!?」
イヴちゃんがどれだけ危険な子なのか、信じられないみたいね。ホルダーの話や能力の話も、実は冗談か何かだと思っているって感じだわ。これは、その身を持って能力を知った方が今後の教訓になるわね。イヴちゃんと目が合ってしまったわ……。ええ、やっても良いわよ。
「改めて、今度俺と食事に……いや、デートに!!」
「お食事ぐらいなら構いませんよ」
「おお!? やった、じゃあ対価を支払えば」
「それはこちらが自由に設定出来ますので。では、数秒の間"意識"を頂きますね」
「は――――」
あら、机の上に倒れ込んでしまったわ……。意識を持っていかれてしまったのね……。こんな前触れもなく、一瞬で失神するなんて信じられないでしょう? これは私でさえも抵抗出来ないのよ? イヴちゃんがその気になったら、簡単に命でさえも……。
「……あっ!? なんだ、俺……どうなって……!?」
「これが、私の能力です。対価を徴収するタイミングや、対価として徴収する物は、全て私が自由に指定出来ますので」
「お、おいおい……! どうなってんだ、ホルダーって、なんだ!? 詳しく教えてくれよ!!」
「私へのお願いということで、よろしいですか?」
「あーいやいやいや!! キャンセル、なし! 今のはなかったことにしてくれ!!」
「はい。なかったことにするというお願い、ちゃんと聞き入れました。では、対価として……」
「は――――」
あらあら、また倒れ込んでしまったわ。そうなのよね、なかったことにしてくれというのも、お願いになってしまうのよね……。だからイヴちゃんの前で、下手に何かを口走らないほうが良いのよ。それと、イヴちゃんを手招きして近くに呼ぶだけでもダメよ。これも立派なお願いだもの。
「……嘘、だろ。マジかよ」
「ホルダーがただのおとぎ話、都市伝説の類ではないと、理解出来たかえ?」
「魔力は全く感じなかった……。薬でもない、物理的になにかされたわけでもない……。本気で、あるのかよ、こんな能力が……」
「命を頂戴することも可能ですよ」
「いや、それだけはや……ん、んんっ!! んんんんっ!!」
理解が早いわね。やめてくれ、それもお願いになってしまうわよ。
ああ、恐ろしいわね……。私が今までイヴちゃんにしてきたお願いの数々からして、命を持っていかれるぐらいの量にはなっていると思うのよね。だから、イヴちゃんだけは絶対に怒らせてはいけないの。これからもずーっと、仲良くしたいわ。
「……システィーナ様とエルエニア様は、能力の対象外ですが」
「まあ、わかった! システィーナちゃんがライフルを撃ってでも俺の口を閉じたかった理由は、もう十分理解出来た! 俺にもそのホルダーの力があるってことが、もしも邪魔に思う誰かの耳に入ったら……。イヴちゃんみたいな、一撃で相手の命を奪える能力者にマークされたら……ってことだよな。それを教えてくれたんだ、むしろ感謝しないとな……ありがとう!」
「意外じゃな、若くしてネームド機のパイロット、ジャルマーの英雄と並ぶ二大巨頭と言われる程の者が、こんなに素直な好青年とはのう」
「むしろ、荒々しい方法を取って申し訳なかったわ。でも、理解してくれて嬉しいわね」
確かに、英雄と並ぶ~なんて言われて持て囃されているなら、もっと威張っていてもおかしくないわね。謙虚で、礼儀正しく、強い……ちょっとお調子者で剽軽なところがあるけれど、根はしっかりしている努力家だわ。
「いやあ、参ったな。俺のほうがヒルガオ商会のパイロットを見極めてこいって言われたのに、これじゃ逆だなぁ!?」
「して、そなたから見てシスティーナはどうじゃ?」
「どうって、いやまだ全然わかんないけどねえ!? まあ、落ち着いていて常に微笑んでいて、美しい女性だなーっては思うが……。女性パイロットっていうと気が強いアマゾネスみたいなのばっかりしか知り合いに居ないもんで、それとは真逆な彼女は……」
「頼りない、かしら?」
「まあ、ハッキリ言ってそうだな」
なるほど、ゲイルには私が頼りなく見えるのね。それも仕方ないわ……。エルちゃんが『筋肉ムキムキの大女になっちゃったら、私悲しい!! 女性らしい丸みのあるボディのまま強くなって!!』なんて、無茶なお願いをしてくるのだもの。この体型を維持して鍛えたせいで、他のパイロットと比べて小柄に見えるのよね。
「俺の中では、キャロルちゃんの方が評価は高い。今からでも訓練を積んで、パイロットになって欲しいレベルだ」
『お姉ちゃんはこの表情で真顔だもん!』
「あ、ああ、そうなの……? いや今は、えーっとねえ……?」
「ゲイル様。キャロルの師匠はシスティーナ様ですよ」
「ああ、ええ、そうなの……? ああ!? そうなのぉ!?」
師匠と呼ばれるほどかしら……。基礎を教えて、トレーニング方法と軽い実戦形式の戦闘を少しやった程度だけど……。
「ゴム弾の痛みに慣れる訓練、負傷しても怯まない訓練、高所から落下したダメージに耐える訓練、キャロルを鍛えているのはシスティーナ様です」
「いやいやいやいや、そんな訓練聞いたことねえ! だからか、アームロックをかけて折れる寸前までやっても怯まなかったのは!!」
「負傷して治療する度に、キャロルはどんどん強くなりますからね」
「魔力を体に流して弾丸を耐える訓練は?」
「ショットガンを至近距離から撃っても耐えられる程度にはなりました」
「45口径は、無理!」
「さすがに45口径は、肉が……」
「意味がわからねえ。生身で銃弾に耐えるわけないだろ……」
「あら、耐えられるわよ?」
それがね、耐えられるのよ。鍛えた肉体は鋼のようになり、銃弾すらも止められるようになるのよ。こんな風に……。
「おい、馬鹿やめろ!!」
――――バンッ!!
「なんてこと、を……? おっ……!?」
「ほら、耐えられる。私は50口径のマグナムで頭を撃っても平気よ」
「い、いや。あ、ああ、あっそ……。ホルダー、すげー……。ねえ、君のお姉ちゃん、ヤバくない?」
『ヤバい!』
「今思えば君が一番ヤバいわ。体を捨てて霊体で活動してるんだもんな、君が一番おかしいわ……」
『そうかな? そうかも?』
エルちゃんは天才だもの、肉体を失ったぐらいじゃ死なないのよ。ふふん……。自慢の妹なんだから。
『でも、私は頭で銃弾とか止められないし……』
「……のじゃ!? 儂は無理じゃからな、一般人! 一般人じゃから!!」
「一般人同士、頑張っていきましょう! ヒルガオ会長、ねっ!!」
「ゲイル、そなたも十分そっち側じゃ! 儂を同じグループに入れるでない!!」
ヒルガオ会長は、225年も生き延びているってだけで十分凄いと思うわ。どこかで何かを間違えていたら、命を落としていたと思うもの。そういった意味で、ある意味ヤバいわ。
「して、どうじゃ。改めて」
「マギアの操縦に関しては、南の平原でチラッと見ただけで既にその技量の高さは感じることが出来た。高く飛んでからバーニアやスラスターを上手く使ってやんわりと着地出来るってだけで、こりゃあ相当なものだなっては思ったさ。正直、それ以上のことが知りたいんだ」
「うぅむ……」
「ん~……!! 親父を納得させる情報がないと、帰れないんだよぉ~!」
「親父? まさか、そなたの上官は父親なのかえ!?」
「あ~……。あ~なんだ、まあ、そうなんだ……」
父親が上官? ゲイルの上官といえば、大統領か元老院の誰か? 軍の総司令官? それかもしかし、ジャルマーの……。
『もしかして、ジャルマーの英雄!?』
「んぁ~そうなんだよ。内緒にしていてくれよ? そのためにわざわざ、母親の家の名前を使ってるんだからさ!」
「グッドマンでまさかとは思うたが……。マリア・グッドマンの息子か!!」
「そうだよ、んぁあ~……。親の七光りだと思われたくないんだ、内緒にしてくれ! 頼む! あああああ、イヴちゃんにじゃない! でもイヴちゃんも内緒にして欲しい……」
「うっふふふ、大丈夫です。言いませんし、対価も頂きませんよ」
「ほっ……」
なるほど、ジャルマーの英雄の息子さんだったのね。父親の権力でパイロットになったと言われたくないから、そういうのを全部隠して頑張っているのね……。とても立派だと思うわ。さてと、ゲイルの話は大体わかったし、事情も話し終わったところで……。今度は私の番ね。
「まあなんだ、そういうわけなんだわ。これでとりあえず話は終わりってことで……!」
「いいえ、私が任務の報告をまだしていないわ」
「おお、そうじゃったな!!」
「そういやどこかに行ってたんだっけな! 待ってる間にイヴちゃん達と出会ってさ、キャロルちゃんが一生懸命トレーニングしてるもんで、こりゃあどの程度の子なのかなって思ったら盛り上がっちまってさ~。いやあこれが強いのなんのって」
「ロムナ帝国の特殊部隊、ネームレスと戦闘になったわ」
報告はわかりやすく、単刀直入にしないとね。長い説明は聞く相手が疲れちゃうもの。
「…………は?」
「すまぬ、歳のせいかもしれん。今、なんと言ったのじゃ?」
「システィーナ様、イヴも耳が悪くなったかもしれません」
「ロムナ帝国の特殊部隊、ネームレスと戦闘になったの。ナンバーは推定12、13、14。ネームレスにしては動きが拙いから、恐らくあれは訓練兵。全て撃墜して、残骸は融かして埋めたわ」
『映像も残してあるよ! 全部記録を残したの!』
「…………は? は? は? は?」
「待て、再生するでない。心の準備というものがあるじゃろうが……!!」
「さすがシスティーナ様。キャロル、システィーナ様は最高でしょう?」
「はい、システィーナ様は女神様です」
あらやだ、そんなに煽ててもネームレス部隊を撃破した映像しか出ないわよ? お腹も減ったし、早く映像を再生してご飯を食べましょう? 報告は手短に、わかりやすくが鉄則だもの。さあ、映像を再生するわね。
「待て、ネームレスはさすがに聞いたことが、あっ」
「あっ、あっ、のじゃぁあああ~……!!」
「まずはイノーマスの死体を発見したところから」
今日はせっかくゲイルが調査に来てくれたのだから、豪勢な食事が良いわよね。またこの前のお店に連れて行って貰えないかしら? ほら、ポークカツのところ。それかその隣にあった、生のお魚を提供するお店に行ってみたいわ。





