027 鋭い男と鈍い男
「ネームレス12の第一候補部隊が消息不明?」
「はっ……。第一候補が戻らず、消息不明で御座います」
「機体の位置が不明なら、起爆するのが掟。やったか?」
「はい。しかし、応答がなく……。恐らく、撃破されているかと……」
第一候補部隊は、魔獣を扇動してベルリーネに衝突させる、非常に簡単な任務だったはずだが……? やや古い機体とは言え、そこらの雑魚イノーマスにやられるとは到底思えん。
「グッドレスポンスか、インフィニティが居たか?」
「いえ、どちらもフランフェルにて整備中だったとのこと」
「弩級イノーマス以上の個体は観測されていなかったはずだ」
隊員達の意見を聞いてみるべきか……。ジャルマーめ、簡単に制圧出来ると思っていたが、予想以上に抵抗されるな……。ジャルマーさえ制圧出来れば、フィレンツェ攻略の光明も見えてくるというのに……。
「ジャルマー、特にベルリーネの情報を持っている者は居ないか」
「滅ぼす予定の都市だったもの、もう諜報員は全員引き上げてしまったわ」
「ないな。大魔法使いが居た、程度の話しか」
「大魔法使いにマギアが壊せるだけの力があるなら、そいつだろうけどな?」
ワン、トゥ、スリィは情報無しか。まあ俺自身も情報がないわけだが……。ジャルマーに何か、異様な気配を感じるな……。
「エメラルダ商会が発掘したマギアは? ちょっと前にヒルガオ商会ってところが買ってたよねぇ?」
「あれは大戦よりもずっと前、初期も初期の骨董品だったって報告があったわよ。武器も小さかったって」
「それは俺も報告を聞いている。エンジンコアがそもそも無かったとか」
「じゃあ、それじゃなさそうだねぇ?」
「いや、決めつけるな。その可能性も視野に入れておくべきだ」
フォウの部下は武器まで見ているのか……。映像玉で記録を撮っていないだろうか。ファイブは判断が早すぎる。一応、骨董品でも動けるものは少なからず存在する。油断していて負けたという可能性は、ごく僅かだが存在している。
「観測していない弩級のイノーマスか、俺達の知らないマギアにやられたか……」
「怖気付いて亡命しちゃったとかないよねぇ?」
「第一候補の隊長は仲間思いの愛国者だ。亡命はまずありえない」
「となると、イノーマス……」
「マギアを破壊できる程のイノーマスなら、他にも甚大な被害が出ているはずだ」
「じゃあ本気で、俺達の知らない野良マギアだって言うのかよ。正気か?」
「その可能性が非常に高い」
スリィ・ファイブは正体不明機の存在に懐疑的だが、ワン・トゥ・フォウは消去法でマギアにやられたという結論に出た様子だな。
皇帝陛下はユーロピア統一、最終的には世界征服を最大目標としている。こんな序盤で躓いていては、その目標の足元にすら及ばない……。しかし、焦って進めば躓くどころの被害では済まない。俺の勘がそう囁いている……。
「まあ、あんた程の男がそう言うなら、居るのかもしれねえなぁ……」
「どうする? その野良マギア、調査すべきだよねぇ?」
「以前送り込んだ諜報員は顔が割れています。私の部下は、もう使えないと思って頂きたい」
「うちのは破壊専門だ。諜報は向かねえよ」
トゥ、スリィの部隊は送れないか……。そうなると問題児集団、ファイブの部隊になるが……。これは出来れば送りたくないな。成果は出るかもしれないが、爪痕を残す可能性が高い。いわば、仕事が雑なのだ。
「じゃあ僕のところのを送ろうかぁ? ジャルマーに行かせてないし、良いと思うけどねぇ」
「お前の部隊は仕事が雑で残虐的過ぎる。ある程度の繊細さが必要なんだ」
「他のネームレス12候補を送るのは?」
「ダメだ。全員、自分達こそがネームレス12の部隊だと思っている。合流させるのはリスクが高い」
ネームレスの座を決める方法は蠱毒だ。最後まで生き残った部隊こそが、本物のネームレス部隊になれる。生き残れなかった者、成果が出せなかった者は降格とし、ワン達の部下として配属されることになる……。
「傭兵を使うのは? 仲介者を立て、その者に情報を提供させ、我々に情報を届ける」
「どこを使う? 鷹の目か? ハンターズ? それとも、賢者の大隊か?」
「賢者の大隊の本隊だったら、まさかパシリに使われているとは向こうも思わねえだろうな~」
「賢者の大隊は、スタンピード中にも分隊が都市内に残っていたはずですが」
「本隊が来たとなればまた違うだろう。詳しい情報じゃなくても良い、とにかくマギアの有無、あるならば性能と評価が知りたい」
「僕はそれ、十分詳しい情報だと思うんだけどねぇ?」
情報はあればあるだけ良い。そして用心もすればするほど良い。ここは、悪評は多いが実力は本物の、賢者の大隊を使って様子を探るべきだろう。最悪奴らが死んだとしても、こちらが失うものは奴らへの依頼金だけ。本隊の戦力は失わないし、士気が下がることもない。
「賢者の大隊に依頼を出せ。ワン、お前の部隊を仲介役として使え。もうワンクッション仲介役を挟んでも良い。いつでも尻尾を切れるように上手く使え、背後の我々を察知させるな」
「はっ、ゼロ様」
「各員、これまで通りの任務に戻れ。我らがロムナ帝国のために」
「「「「「我らがロムナ帝国のために」」」」」
ロムナ最強の特殊部隊は我々、ネームレスなのだ……! ベヒモスなんぞに、最強の称号をくれてやるわけにはいかん。皇帝陛下も難度の高いフィレンツェ攻略を我々にお任せくださったのは、それだけ期待なさっているからということ。この任務、絶対に失敗するわけにはいかんのだ。
◆ ◆ ◆
「――それでは、紹介するよ。新しく鬼神の副隊長として就任する、ジュディ・ハートシールドだ。さあ、ジュディ」
「ジュディ・ハートシールドよ。腰抜けの脱走兵、メアリーの代わりに副隊長となりましたわ。よろしくお願いいたしますね?」
「そして隊長は私、エッケラルド・ガーバナーだ。騎士団の総隊長でもあり、特殊部隊鬼神の隊長も兼任する。まあ、これは前任者のレネガル殿と一緒だね? これは国王陛下の決定だ、当然異論はないね?」
遂に、僕のジュディを鬼神に入れてやることが出来た。フィレンツェ最強の鬼神で紅一点、そしてそんな美しい彼女は僕のもの……。ああ、なんという優越感ッ!!
「あの、ヘイティ隊長は~……」
「ん? 隊長及び副隊長補佐として、これからは後方支援機のポジションをお願いするよ。構わないね? 僕と君の仲だろう?」
「はい……。そう、ですね……」
「司令塔はこの私、補佐としてタンカー機がヘイティ、スナイパー機はレンドゥ、バトラー機はゴンズ、アサルター機はジュディだ」
鬼神はこれまで華々しい成果を上げ続けてきたと聞いている。まあ以前までは金食い虫が居たようだが、ジュディと僕が来たからにはもう心配はいらないさ。
「バックパッカーは、誰がやるんですか……?」
「金食い虫など不要だろう? 鬼神に相応しくない」
「あ、いえ、バックパッカーが物資を運ばないなら、どうやって任務をすれば……」
「はあ? そんなもの……」
ん? 荷物持ちが居ないから、物資の運搬に困っているのか。なるほど、輸送部隊の存在は必要不可欠だと、何かのゲームで言われていたな。
「……輸送部隊を別部隊で作れば良いだろう」
「え? あ、あの、特殊部隊は単独で……」
「隠密性の高い任務が多い。多数での行動は、推奨されない」
「じゃあ修理代が最も嵩んでいるお前だ、ゴンズ。お前がバックパッカーをやるんだ」
「…………それが命令なら、やるだけだ」
なんだ? 大貴族であるこの僕に、随分と舐めた口の利き方だな?
「おい、僕は公爵家の嫡男だぞ? 随分と偉そうな口の利き方だな?」
「鬼神のルールだ。たとえ誰であろうとも、身分は関係ない。戦場で身分は紙切れほどの価値もない」
「なんだと貴様? 僕の権限でお前を鬼神から外すことだって出来るんだぞ? 土下座して謝れば、赦してやらんこともないがな」
「エッケラルド、鬼神の主要メンバーがこれ以上抜けては支障が出るわよ? 今回は赦してあげなさいよ」
「…………ふん、運が良かったな貴様」
ジュディに感謝しろよブ男、本来なら即刻投獄して処刑台行きだぞ? 全く……まあ確かに、これ以上鬼神の隊員が抜けては運用に支障が出るのも事実だからな。こいつの代わりをさっさと育成して、僕のお気に入り達で固めないとなあ。
「まあ良い、記念すべき最初の任務だ。先日、東側の国境付近で大型イノーマスの死体が発見された。マギアによるものとされているが、これをどこの誰がやったのか調査しに行くぞ。まず1日目は国境警備隊と合流してそこで一泊し」
「い、一泊……!? 合流して一泊って、国境警備隊の建物内でですか……!?」
「そうだぞレンドゥ君。何か問題でも?」
「緊急事態の時に、マギアですぐに出動出来なくなってしまいますよ!? 1秒でも早く対応しないと……」
はあ? こいつ、まさかマギアの中で寝泊まりをしろって言うのか?
「そんな急に誰かが攻撃してくるわけないだろ。イノーマスだって、追いかけている内についつい国境を侵犯しただけかもしれないぞ?」
「そ、そんなわけ……」
「何か言いたいのか? ああ?」
「いえ、あの……ないです……何も……」
全く、本当に使えない連中だな。これが本当に鬼神の隊員なのか? もしかして、マギアに乗ると人が変わったように別人格が呼び覚まされるとかか!? なんか昔読んだ漫画に、そんなキャラクターが登場したなぁ~。懐かしい記憶だが、この異世界には漫画ってものがない! 懐かしんでもないものはないんだ、諦めよう!
それにしても本当にありえないよ。異世界に転生して、洗脳能力なんていう神の如き力を手に入れてしまった、主人公たるが! 風呂にも入らずマギアの中で一泊? ありえないだろ、ここから怒涛の快進撃! 華々しい活躍に、英雄と称され美女に囲まれて大ハーレム結成! くぅ~! 最高の未来に心が踊る!!
「さて、そういうわけだ。お前達は用意を進めておけ、僕はジュディと話があるんでね」
「エッケラルド様……あ、隊長は、ご自身のマギアの点検は……」
「はあ? お前達がやっておけよ。僕は忙しいんだ、見ればわかるだろう?」
「あ、は、はあ……」
「頼んだぞ、ああそうだ。ヘイティ君に頼もうかなぁ?」
「ええ、はい……。わかりました……」
さてと、出発前にジュディと少し、仲良くしておこうかなぁ? ヒロインとの好感度上昇イベントを熟すのも、主人公たる僕の務め……。大貴族としての仕事に、裏の世界を牛耳る悪事イベント、そしてヒロインの好感度上昇イベント……。ん~大変だ、あまりにも忙しすぎる!!
「さ、ジュディ。僕の部屋でちょっとお話しをしようじゃないか」
「ええ、良いわよ」
「ヘイティ君、ジュディの機体の点検も頼んだよ」
「3機は、さすがに……」
「君と僕との仲じゃないか」
「――――…………ええ、はい。わかりました」
少しでも仲良くなりさえすれば発動する僕の洗脳能力……。ほんの僅かでも好感度が上がれば、あっという間に僕の言うことをなんでも聞いてくれるお人形さんになってくれる。いやあ、最強最強……。システィーナっていう奴も、実はかなりの美人だったらしいから、僕のお人形にしちゃえば良かったなぁ……。メアリーも気が強いが良い女だったらしいし、でもジュディがヤキモチを焼くからなぁ! ん~難しい、難しすぎるよ異世界転生~!!
「…………今日もお利口さんね、エッケラルド」
「ん? なにか言ったかい?」
「鬼神に入れて嬉しいわって言ったのよ~」
「そうかい! ああ、そうだろうねえ! 前に親善試合で君が表舞台に出られなかったこと、本当に頭にくるよ……。あの考えなしのゴリラ男が、君よりも平民の女を出場させることを選ぶなんてね!! でも大丈夫、君の強さは僕が一番理解している。君こそ、鬼神の座に相応しい!!」
「うっふふ、ありがとう。本当に嬉しいわ~」
ああ、ジュディ……。美しいね、その笑顔……。こんなにも美しいヒロインから、鬼神に選ばれなくて悔しいからなんとかして~なんて頼まれたら、そりゃあ張り切って総隊長でもなんでも上り詰めるってものさ。これからも、君のためなら僕はなんだってやってみせるからねぇ、ジュディ……。君は、僕の全てだ……。





