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026 鬼神と呼ばれるその理由

◆ ◆ ◆



『お姉ちゃ~ん。いつまで待つの~?』

「いつまでも。拮抗した長距離戦は先に動いたほうが負けるのよ」

『いつまでも!? もしかして、ここで一晩過ごすつもりなの!?』

「一晩どころか、3日でも4日でも睨み合いが続く時だってあるわ。正面からバチバチと喧嘩するだけが勝負じゃないのよ」

『――閃光弾の準備は出来てるな』

『――ああ、いつでもやれるぜ!』

『――隊長、指示を!』

『――まだだ、確実に奴の目を潰す』


 回線を数分置きに変えない。本当にネームレス部隊なのかしら? ネームレス12が隊長機で、13が弱気な僕ちゃん、14がガサツな男ね。そしてあの大型ブレード兵器の名前はデュランダル、一時期フィレンツェで開発していた兵器だった気がするのだけど、いつの間にかロムナに渡っているわね。あの国、技術者まで引き抜かれてたのかしら。


『お姉ちゃん、ずっと気になってたんだけど、メガネなんて必要なの? 目、悪くないよね?』

「閃光弾対策よ。流石に眩しいのはキツイもの、自動遮光メガネを使うの。強い光に反応して、それをシャットアウトしてくれるわ」

『へえ~! 凄いね、そのメガネ!』

「エルちゃんが本を読みながら片手間に作ってくれたものよ?」

『へ!? あ、ああ~……!! そういえば、星の光より明るいものを防ぐ機能が欲しいとかって……そのメガネだったの!?』

「そうよ。このメガネが、その機能を持っているの」


 閃光弾はね、一時期とっても苦しめられたわ。目が潰されて見えないから全方位にガーディスを展開しないといけなくて、それをしてしまうと魔力が一気に枯渇して長期戦が辛くなる。ちょっとでも足を止めると袋叩きにされるし、特にベヒモスの連中……左腕を持っていかれた時は戻ってからの修理が大変だったんだから!


『――クソ、ずーっとオープン回線で投降しろって垂れ流しにしてきやがる、頭に来るぜ!!』

『――機械的に繰り返されているな。こちらを苛立たせるための相手の策だ、耐えるんだ』

『――向こうは、まだこっちを狙っているんですかね……?』

『――だああ!! もう漏れちまいそうだ!!』


 長期戦で一番辛いのはね、催して(・・・)しまった時よ。生きている以上、絶対に避けては通れない生理現象。初めての長期戦の時は恥ずかしい思いをしてしまったわ……。それからは絶対に同じことを繰り返さないように、操縦席から降りずにどうにか処理する方法はないかと考えたものよ。最終的な結論、私はそれ専用に作った大口のマジックバッグを用意して、それで済ませることにしたわ。このマジックバッグの存在をベニーとメアリーに知られた時、泣きながら『自分達の分も欲しい、幾らでも払う』と懇願されたものね。


『――ちょっと、外に』

「操縦席を開けたわね。撃つわ」


 自分がされて辛いことは、相手にとっても辛いことよ。残酷だけど、これがこの世界でのやり方なの。


『――フォーティーン、戻れ!!』

『――うう、クソ……! クソ……! なんでだよ、どうして、う、ぐ……!』

『――操縦席を、開いた音かもしれん……』

『――相手はどれだけ耳が良いんですか!?』

『――外に出るには音を消すしかない……。だが、それをやったら相手がこちらへ接近してきた場合、気がつくのに遅れてしまう。わかってくれ……』


 これだけ静かな夜、遮るものは大岩のみで、周囲は魔獣の鳴き声すらしない。4キロ先の音ぐらいなら、集音装置でバッチリ聞き取れるわ。操縦席を開けた時の音なんて、すぐにわかってしまうもの。


『お姉ちゃんって、その……』

「聞かないで。たとえエルちゃんでも、その質問には答えられないわ」

『うん……。ほぼ、答えみたいなものだけど……』


 しまった、今の答えでは漏らしたことがあるって自白したのと一緒ね……。一度だけだから、どうかお姉ちゃんを嫌いにならないで……。


『――通信を切らせてくれ……』

『――ダメだ、もしもってことがある。命とプライドを天秤にかけるな』

『――死んだほうがマシだ……』


 随分と心が弱ってきたわね。そうよ、人間は自分の思い通りにならないことが続くストレスに弱いの。ご飯、睡眠、排泄、この内のどれか1つを阻害されるだけで能力が激減する。私は一週間ぐらいなら寝なくても平気だし、ご飯は幾らでも入っているし、おトイレだって困らないわ。お風呂に入りたいぐらいしか欲求はないもの。お風呂以外の全てを操縦席の中で解決出来る。


『――閃光弾を、用意しろ』

『お姉ちゃん、来るよ!』

「命とプライドを天秤にかけるなって言ったばかりなのに、甘いわね」


 閃光弾の発射と共に逃げ出すか、こちらの撃破のために接近してくるか、どちらの作戦で来るかしらね。


『――俺が囮になる。その間に、お前達は本国に逃げろ。ジャルマーに長距離狙撃型の超兵器があることを知らせてくれ』

『――お前は、どうするんだよ!』

『――隊長を置いてなんて行けませんよ!!』

「逃げる2機を狙うわ。この会話自体がブラフなら、隊長機から」

『ブレードを破壊した奴が隊長機だよね!』

「恐らく、会話の内容からしてそのはずよ」


 隊長機が囮になる作戦? 感情を優先するタイプなのね、なるほど……。

 駆動音、恐らく弾を装填した。グレネードランチャータイプの閃光弾ね。同時に用意して音を誤魔化したつもりかもしれないけど、3機同時に用意して3発撃つつもりね。


『――隊長命令だ。いいな? 行くぞ……!!』

『――クソ……! すまねえ……!!』

『――隊長……!!』


 発射音、上空に撃った。3発同時、ブースターの点火音。来るわね、集音装置に頼れるのはここまでだわ。


『――今だ!! 行け、行け!!』

『お姉ちゃん、隊長機が』


 エネルギーシールドを構えながらこちらに突っ込んでくる。シールドって大体、操縦席を中心に構えてしまうから脚部がむき出しになるのよね。左腕でシールドを構えるなら、左脚を破壊したらバランスを取るのが難しくなるはずね。


『――うわあああ!! 被弾した、左脚が!!』

「13と14が出るのを躊躇った。隊長の覚悟を無駄にしたわね」

『――クソ!! 相手は1機だ、囲めばやれる!!』

『――隊長!! あいつを倒せば本国に帰れるんですから!!』

「帰さない」


 倒れた味方を助けて良いのはね、それだけの能力がある者だけよ。ネームレス13をターゲット、今度は脚じゃない。ガラ空きの胴体を……狙わせて貰うわ。


『――ダメだ、来るなリベリオ!! 奴には閃光弾が効いていない!!』

『――え』


 直撃、ガーディスの展開はなかった。胴体に命中し、爆発。パイロットは恐らく死亡、まずは1機。


『――リベリオォオオオオオ!! クッソォオオオオオオ!!』


 まっすぐ突っ込んでくる、アサルト機ね。大型ブレード兵器を起動させた……なるほど、国境付近で見た兵器と一緒みたいね。ただ機体のほうが、少し旧式のものだわ。恐らくフィレンツェに来ていた方が最新機、こいつらは入りたてだから簡単な任務とテストということでここに来ていたのね。


「連射ライフルモードを使うわ」

『切り替えた!』

「そのエネルギーシールドで、耐えられるかしら」


 スナイパーライフルモードの威力は十分。さて連射ライフルモードはエネルギーシールドを貫けるかしら……!!


『――ウォオオオオオオ!! 効かねえんだよアンティーク野郎!!』

「散弾の用意」

『えっと……はい!』

「やはりエネルギーシールドは硬いわね」


 中威力の連射ライフルだと、ロムナのエネルギーシールドには防がれてしまうわね。ただ、バーニアでの接近速度が大きく減少したから、エネルギーは相当消費したみたいね。牽制用ぐらいに考えておいたほうが良さそうだわ。


『――くたばれ、アンティーク野郎ぉおおおお!!』

「エネルギーブレードを使うわ」


 さて、デュランダルとやらの威力。どれほどのものかしらね。


『――おらおらおらおら!! これで……!?』

「パワーダウンしているわね。ホワイトリリーのブレードのほうが強いわ」


 ホワイトリリーのブレードで受け止められるし、デュランダルのエネルギーブレード部分が消滅しかかっている。押し切れると思ったんでしょうけど、残念だったわね。この程度ならガーディスで受けても無力化出来たわ。


「さよなら」

『――デュランダルが、負けるはずが』


 散弾をエンジンルームと操縦席に2発ずつ、爆風はガーディスで防御。これで2機目。


『――降伏する! N-01のパイロットに告ぐ、降伏する!!』

「所属不明機は撃墜あるのみ。所属を明かせ」

『――それは……! くっ……! しかし……!!』


 所属も明かさないくせに降伏? 騙し討ちをする気満々じゃない。ロムナの汚いやり方だけは、どの部隊でも一緒なのね。反吐が出るわ。それにもう貴方達からは必要な情報を得られたもの……捕虜にする理由もない。謎の行方不明機として消えなさい。


『――う、うわあああああああああ!! ロムナ帝国に栄光あれぇえええええええ!!』

『お姉ちゃん、突っ込んでくる!!』

「自爆で巻き込むつもりね。スナイパーライフルモード。リミッターを40%から80%に限定解除」

『出来たよ!!』


 自爆するつもりね。最大速度で突っ込んでくるけど、それは撃ってくださいと言っているようなものだわ。


『――皇帝陛下、ばんざ』

「勝手に1人でやっていて頂戴」

『――ァ』


 エネルギーシールドに着弾、貫通。エンジンルームに着弾、少し遅れて爆発。エネルギー充填率を80%まで上昇させれば、シールドと装甲を貫いて一撃で倒せる……あっ。


「あっ……。貫通して、大岩が……」

『あいつらがずーっと隠れてた大岩、溶けちゃったけど!?』

「……最初から、これで燻り出せば良かったわね。次からはそうしましょう」

『でも、それだと次の弾を撃つのに時間がかかっちゃうよ……?』


 このスナイパーライフルの弾丸、厚さ20メートルぐらいの岩なら貫通するのね……。さっきまでネームレス達が隠れていた大岩が溶けて、着弾地点が木っ端微塵になってしまったわ。


「ん~……一長一短、というところね」

『お姉ちゃん、1機ぐらい鹵獲したほうが良かったんじゃないの? 使えるマギアが増えるよ!?』

「ロムナの機体やエンジンコアは、遠隔操作で起爆出来るようになっているわよ」

『あ、やめとこ! 触らないほうが良いよ!』

「下手に欲を出すと、思わぬ被害が齎されることになるわ。ロムナの機体は触らず潰せが鉄則よ」

『なんか、カサカサした害虫みたいだね……』


 これが精鋭部隊のネームレス部隊とは、到底思えないわね……。恐らく本当に、この任務が初めての試運転だったんじゃないかしら。だとしたら、相当に運がなかったわね。こういう状況で生死を分けるのは、単純に経験が物を言うのよ。


「この鉄くずを片付けて、一旦ベルリーネに帰還しましょう。確か明日はフランフェルから最新機とパイロットが来る話だったものね」

『そうだよ! ここで長期戦になってたら、どうするつもりだったの!?』

「その時はグッドレスポンスが応援に来てくれるまで待つつもりだったわ」

『あ、そっか。お姉ちゃんが来ないってなると、なにかあったのかなってこっちに来てくれるもんね! そっか、長期戦になったらお姉ちゃんが更に有利だったんだ……』

「希望的観測ではあるけどもね」


 さて、ここで戦闘があった痕跡を消して、ベルリーネに帰還しましょう。久しぶりに長期耐久戦になるかと思って、ちょっと緊張しちゃったわ。帰ってゆっくりお風呂に入りたいわね。


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