025 試練
『やっと超スピードに慣れてきたと思ったら今度は止まるし、どうしたのお姉ちゃん……』
嫌な予感がした時って、本当に……。当たっちゃうものなのよね……。
ベルリーネから南に200キロほど、大体30分ちょっと飛んできたのだけど、やっぱり大元はこの辺りだったようね。
「見て。大型級イノーマスの死体がこんなに、それも動きが遅くて攻撃性が低い種類ばかりよ」
『誰かが倒してそのままにしちゃってるってこと?』
「フィレンツェからベルリーネに来る最中、同じような光景を見たことはないかしら?」
『うーん……? あっ! 大型ブレードのマギア!!』
「そうね。ほら見て、同じような傷が致命傷になっている」
フォートレスタートル、一般的なマギアの大きさが15メートル前後の人型であるのに比べて、その5倍程の大きさを誇る大型級イノーマス。遅い、硬い、無駄に大きいという欠点がわかりやすい大亀の魔獣……。反対に魔石は脆くてマギアのエンジンコアの適性はゼロ。狩るだけ無駄とされている大型級のイノーマスの代表ね。
そのフォートレスタートルの死体がいくつある? 10体どころじゃない……。倍の20近く、それも甲羅を真っ二つに割られて絶命している。こんなことが出来るマギアは、数が限られているわね……。
「ロムナの機体がこちらにも侵略しているわ。それも、ここ最近で頻繁に。この地方で雨が降ったのは9日前だから、マギアの足跡に水たまりが溜まっていない、もしくはそれが崩れて風化していないということは、これは最近の足跡ということよ」
『え、お姉ちゃん凄い』
「何も考えずに他国のマギアと戦っていたわけじゃないのよ?」
『でも、死体の可食部……っていう言い方もアレだけど、全然食べられてないね?』
「食べられている最中に追い払われた……という見方も出来るわね」
その死体が食い荒らされていないし、他のイノーマスどころか更に小さい魔獣達の姿も見えない。恐らく、追い払われている。
「この死体を餌に魔獣達を釣った。その魔獣達を追い払い、地形を利用して上手く誘導した。他の地域の魔獣も恐らく同時に誘導されていた。だから合流した時に、本来はありえないスタンピードの編成だったんじゃないかしら」
『生息地の違う魔獣を一箇所に集めたから、ごちゃごちゃのスタンピードになったってこと?』
「恐らくそうね。本来はそのままベルリーネに行くはずだったのに、どこかの誰かさんに追い払われてしまって、元の地域も行きたかった先も危険だと判断した結果、スタンピードの魔獣達は散り散りになったんだと思うわ」
『だから、ここに餌がある状態なのに魔獣が帰ってきてないんだ!』
「それだけじゃないわ。魔獣達の中には危機感が足りずに戻ってきた奴も居たはずよ。それも居ないということは……」
『もしかして、まだ近くに……居る!?』
私の勘が当たっていたら、恐らくロムナの工作兵がまだこの地域に潜伏しているはず。でも、各種レーダーに何も反応は映っていない。
『レーダーには何も反応がないね……』
「そうね。何も映っていないわ。でもね、映ってはいけないものが映っているのよ」
『ほえ? どういうこと?』
「映らないはずのものが、映っているの」
そう、映らないが映っている。普通の人ならこの状態になんの違和感も持たないし、スルーして別の場所の調査に行ってしまうでしょうね。でもね、このレーダーの反応では、おかしいところがあるのよ。
「地形レーダーをよく見て。切り立った岩に囲まれた地形があるでしょう?」
『うん、あるけど……』
「地形レーダーはね、こちらが耳には聞こえない音波を発して、それが跳ね返って来ることによって地形がわかるのよ」
『うん……。それで、この岩に囲まれた地形が、どうかしたの?』
「岩の陰まで音は貫通しないわ。本来ならその大きな岩の後ろの地形は、不明でなければならないのよ」
『え、じゃあどうして映ってるの!?』
「岩に化けている何かが居るのでしょうね。動体、熱源、魔力諸々を隠すために、大きなドーム状のバリアを展開している、岩のお化けが」
隠れるために潜伏する場所の選択を誤るとね、逆に隠れている場所を明かしてしまう場合があるのよ。普通の機体は動体、熱源、魔力レーダーぐらいしか積んでいないでしょうけど、私はセシリーちゃんや整備士さん達にお願いして、地形レーダーも搭載して貰っているからわかるのよ。
「オープン回線、ボイスチェンジャーをオンにして頂戴」
『わかった……! えっと、やったけど……どうするの?』
「所属不明機に告ぐ。ここはジャルマー共和国の領地であり、所属を明かさない場合は侵犯機として撃墜も辞さない。大人しく所属を明かし、速やかに投降せよ」
『えっ!? いきなり!?』
所属不明機に対して警告をするだけ良心的よ? 本来なら所属不明機なんて問答無用で撃墜して良いんだから。
まあでも、よほどのビビリじゃなければこんなのハッタリだと思って相手にしないでしょうね。定期的にやってるんだろうなーぐらいにしか思ってないでしょうね。
「警告はした。所属不明機に対し攻撃を開始する」
『嘘っ!? 本当に撃つの!?』
「エルちゃん、ロムナ帝国のマギアの射程距離はどのぐらいだと思う?」
『え、えっ!? いきなり言われても!』
「マギア同士の戦いの場合、有効射程距離はおよそ2キロメートルが限界よ。これ以上は当たっても装甲が焦げる程度でダメージにならないの」
『あの岩場まで、4キロ以上あるよね!?』
「このエネルギーライフル、この前は緊急出撃だったから無調整の状態で、とりあえず出力20パーセントで撃ったわね」
『う、うん……』
「今はね、長距離射撃用の出力切り替えも装備されているのよ」
威力だけが非常に高いエネルギーライフルだったけど、今は近距離で高威力の散弾と、中距離で中威力の連射ライフルと、長距離で高威力のスナイパーライフルモードが切り替えられるのよ。鬼神に居た頃武装を自分で改造したことがあったから、その技術を皆に教えてモード切り替え機能を作って貰ったのよ。
「大丈夫、直撃はさせないから」
『直撃はさせないとかいう問題じゃないよね!?』
「これでも動かないなら、そこそこの相手よ。用心しなければならないわ」
さて、これで尻尾を出すか、それともまだ岩のフリをし続けるか。お手並み拝見ね……。状況を開始するわ。
◆ ◆ ◆
『――大人しく所属を明かし、速やかに投降せよ』
「ハッタリだ、乗るな。定期的に言ってるだけだ」
『見たことのない機体です……。新型でしょうか……』
『N-01が新型? ないない、骨董品も骨董品、動いてるのが奇跡みたいな古い機体だぜ』
まさか、ジャルマーのマギアが調査に来るとは……。しかし相手は1機、こちらは3機。隙を見せた時に強襲を仕掛ければ、簡単にやれる戦力差だ。
「やっとネームレス部隊に入れたんだ、この任務を確実に成功させねば……」
『もう一度魔獣を集めてベルリーネに攻撃を仕掛けさせても、あのマギアが居たらまた追い払われちゃうんじゃ……』
『馬鹿言え、あのマギアは骨董品だって言ってるだろ。ベルリーネには大魔法使いが居ると情報があった。まず間違いなくそいつの仕業だ』
『――警告はした。所属不明機に対し攻撃を開始する』
攻撃を開始するって、怪しいと思ったところに対してデタラメに撃つだけだろう。これにビビって動くようじゃ、仮にもネームレスの末席を預かる身として不甲斐なさ過ぎる。これは挑発、相手が不安をかき消すために行う儀式的なものだ。
『小さい銃だなあ、おい。それにあんなに遠くちゃ』
『う、撃ってきますよ!!』
「動くな、ハッタリだ。あんな距離から当たってもダメージにはならない」
それにこの距離だ、当たってもダメージにもならない。せいぜい装甲が少し焦げるか、ちょっと変色するぐらいだろう。サーティーンは気が小さすぎるな……。
『なんだ、こっちを狙ってねえか……?』
『まさか、本当にバレてるんじゃ……!!』
「バレていたとして、この距離じゃダメージにならない! それに相手は1機、何が出来る! こちらには新ブレード兵器、デュランダルがあるんだぞ! 骨董品なんぞ」
――――デュランダルが、あるんだ……ぞ……? 俺の、右手には……新兵器の……。
『お、おい!! 隊長さんよぉ!! この距離じゃダメージにならねえんじゃなかったのかよ!!』
『デュランダルが、熔解してる!? ね、狙われてますよ!?』
なんだ、何が起きている……? どうしてデュランダルが、融けた鉄くずになっているんだ……? 今、まさか……あの距離からの攻撃で……?
『反撃しねえと、やられちまうぞ!!』
『――次は機体に直撃させる。最終警告である』
『相手のパイロットは、凄腕ですよ!? どこが骨董品なんですか、見たこともない超兵器ですよ!! 皆やられてしまう!!』
『男の声だが、典型的なボイスチェンジャーのそれだ。男が別の男の声に変えてる可能性もあるが、畜生! わからねえ、聞いたことがねえ!』
『まさか、フランフェルの英雄……!? 僕達が勝てる相手じゃないですよ!!』
考えろ、考えろ、考えろ、考えろ……!! どうすれば良い……!? 次は、直撃……!? 狙いは正確、まぐれじゃない!!
「全員、岩の陰に隠れろ! 動かなければただのカカシだ、狙い撃ちにされる!!」
『くそ!! フォーティーン、動くぞ!!』
『サーティン、移動します!! 隊長も!!』
どうすれば良い、こちらの武装はエネルギーライフルとエネルギーシールド、それにデュランダルが残り2本だけ。隙を見せたらこいつでぶった切れば良いと思っていたが、あの正確な狙撃に超威力のエネルギースナイパーライフル、無理だ!!
『――所属不明機、投降せよ。繰り返す、所属不明機は速やかに投降せよ』
「投降はありえない! 我々がここで活動していたことがバレれば、その時点で全てが終わりだ!! 夜だ、夜を待つ!!」
『夜まで耐えろって言うのかよ!!』
「他に選択肢はない。奴の目も、夜には鈍るはずだ。閃光弾を発射して目眩まし、その隙に全力でここを離脱する!!」
『やるしかないですよ!!』
幸い、N-01という機体はあの場所から動かないようだ。これだけの距離で当ててくる目、それにあの威力……。しかしこの距離は逆に有利にも働く。夜だ、夜を待つんだ……!!
『――所属不明機、投降せよ。繰り返す、所属不明機は速やかに投降せよ』
『くそ、うるせえ!!』
「撃ち返すな!! 苛立たせて炙り出す作戦だ、耐えろ!!」
『――所属不明機、投降せよ。繰り返す、所属不明機は速やかに投降せよ』
『これに夜まで、耐えなきゃいけないんですか!?』
俺だって今すぐに逃げ出したい!! だが、今逃げたら奴の思う壺だ……。全員確実に、ここから生きては帰れない。
「耐えろ、夜を待て……!!」
『――所属不明機、投降せよ。繰り返す、所属不明機は速やかに投降せよ』
「耐えるんだ……!!」
これは、これは……試練だ。俺がこの先、ネームレス部隊で生き残れるかどうかを、試されているんだ……。俺はこの試練を、乗り切ってみせるぞ!!





