021 訓練、そして訓練
キャロルちゃんのことは大体わかったし、復讐に燃えているってこともわかったよ? 凄く可哀想だなって思ったし、元気で可愛いなーとも思うんだけど……。
『能力……解析不能。データがありません』
「ナイフを振りかぶってはダメ。脇を締めて、直前まで狙いを悟らせない」
「あ、が、あっ!!」
キャロルちゃんの能力、解析不能なんだよね。いやぁ、お姉ちゃんに本気で蹴り飛ばされて、あがっで済む人はそう居ないと思うから、保有者なのは間違いないと思うんだけど。
「もう降参かしら?」
「があああああああああああ!!」
「がむしゃらに突っ込んで来てもダメよ。蹴り飛ばしてくださいと言っているようなものね」
「あがっ……!?」
あ~……。またお姉ちゃんに蹴り飛ばされた……。絶対どこかの骨が折れてるよ。だって、防御した腕が嫌な方向に曲がってるように見えたもん。
「ぐっ……かっは……!!」
「壁に叩きつけられたぐらいで、武器を手から離さない」
「ああああああっ……!?」
お姉ちゃん、折れた腕に容赦なく追撃で蹴りを入れるし……。その状態で武器を手放すなって、そんなの可愛い女の子に要求しないでよ~!
「実戦で弱みを見せたら、それはとことん付け込まれる隙になる。ダメージを最小限に抑える工夫も必要だし、可能な限り避ける努力をしなさいな」
『キャロライン様に、戦闘能力の著しい向上が見られます。攻撃性は177%、防御性も69%増加。一般的な傭兵の戦闘力を大きく超えています』
「システィーナ様、せめて義手と義足が出来るまで待たれては……」
「キャロルちゃんがやるって言っているのよ」
「ぃぇ、あ……!!」
『キャロライン様がシスティーナ様から教わった【リペア】の魔法を発動なさいました。まだ効果は然程でもないようですが、何度か発動すれば骨の修復は出来そうです』
「一度で回復出来るようにしなさい」
「が、ぁあああああああああ!!」
治した腕をまた折る~!! 鬼、悪魔、お姉ちゃん!! もう、どうしてこんな鬼みたいな訓練をするの!! もうちょっと段階ってものがあるでしょ!?
「実戦なら、相手は確実に殺しにくるわ。今みたいに待ってくれるなんてことは起きないの」
「ぐう、うう……! うっ……!」
『魔力が不足して、欠乏症を起こしているようです』
『お姉ちゃん! キャロルちゃん、魔力切れ!!』
「欠乏症の吐き気と目眩が起きているのね。それに耐えてもう一度よ」
「ぃえ、あ!!」
いやいや、いやいやいやいやいや。
魔力欠乏症って相当な重症だからね!? 魔力のある人間は、知らず知らずの内に魔力で体を支えていたりするの。だから一気に魔力がなくなった時に、頭痛や目眩、吐き気、失神する人だっている! それに慣れろって、そんな、鬼~!!
「ぁ……――――」
「失神、しましたね」
「今回はここまでね。体にハンデがあるのに、最初の訓練でここまで食らいついて来るなんて、予想外だったわ。もっと早く折れると思ったのに」
『お姉ちゃん!! やり過ぎ!!』
「甘やかしてどうするの? イヴちゃんが襲撃された時に、日頃の甘えがイヴちゃんを殺すことになるわよ? これはエルちゃんになんと言われようとも譲れないわ」
ん~!! お姉ちゃんが頑固モード!! こうなると私が何を言っても聞いてくれないの。でも、お姉ちゃんの言う通りなんだよね……。キャロルちゃんが自分からやりたいって言ったことだし、私が余計なことを言って手緩い訓練にしたら、しわ寄せが行くのは実際に襲撃されるイヴちゃんで……。
「ぁ……!? う……」
『失神から復帰、戦闘意思の継続が見られます』
「それだけの覚悟があるなら十分よ。今回はここまでにしましょう……エルちゃんに言われたからじゃないわよ? 今回はこれ以上、得られる経験が少ないだけよ」
「うぅ……」
「キャロル、エルエニア様に治療して頂きましょう」
あーあ、お姉ちゃんったら本気で蹴るから、完全に骨が折れてるよ~……。絶対に痛いよね。とりあえず、まずは重傷箇所から……。
『腕の骨が一気に治るから、ちょっと痛むかもしれないけど、我慢してね?』
「ぁい……」
『ふんぬぬぬぬぬ……!!』
「うぁああ!?」
あ、ごめん。ちょっと魔力を込めすぎたかも……今のは痛かったよね、ごめんね……。
「…………おや?」
「ぁ……?」
『あれ、指が再生してる。じゃあ歯もいけそう? ほりゃあっ!!』
勢い余って指まで再生しちゃった。それじゃ、抜かれちゃった歯も再生するかな?
「歯は、再生しないようですね……」
「歯は顎の骨に人工の歯を埋め込んで、より丈夫なものに出来るとフラフィーさんが言っていたわ。再生しなくても大丈夫じゃないかしら」
「声帯はどうですか?」
「あ、あ。あ~……あえよい、いいえふ!」
『じゃあ、残りの指も治しちゃおうっか。生えてくるなら、そのほうが良いよ~』
『状況、解析中……』
歯は随分前に抜かれたって聞いたからダメだったか~。でも、手足と喉は治りそう! ハーケン商会ではダメだったって言ってたけど、私は魔法書を沢山読み漁ったし、それに能力のお陰で完璧に発動出来るからね~! レベルが違うのよ、レベルが~!!
『よりハイクオリティな治癒魔法、リペアの発動により、少し時間が経過した欠損も再生出来たようです。ただし、かなり前の欠損である歯と喉は不完全なようです』
「…………手足が、完璧に再生しているようですね」
「あ、あっ!! あいあと、おあまひゅ!」
『今のはちゃんとわかった~! はい、どういたしまして~』
お姉ちゃんとイヴちゃんは、キャロルちゃんがなんて喋ってるのか理解出来るみたいだけど、私にはほとんどわからないから困るんだよね~。やっぱり人工声帯しかないのかな~?
「わぁぁぁあ……!!」
「良かったですね、キャロル。義手と義足は、必要なくなってしまいましたね」
「うっ!! ひふひーあひゃん、おういっあい、ほえあえひまふ!!」
「手と足の指が戻ったなら、また別の経験が積めるわね。それじゃ、もう1回やりましょうか」
『ええええ!? またやるの~!?』
「キャロルちゃんがやりたいっていう限り、私は付き合うわ!」
「それではエルエニア様、危ないので下がりましょう」
嘘ぉ~!? せっかく治ったのに、またやるの~!? もしかしてキャロルちゃんって、お姉ちゃん側の人間だったりする? も、もも、もしかして、我が家にメスゴリラが増えたってこと!?
「があああああうううう!!」
「さっきより早い、重い……!! 出来る、でも!!」
「がっ、う……!?」
ああ~!! 今度は連続でパンチを貰った、絶対痛い!! 鼻とか折れてそう、口から血が出てる!! ああ、絶対痛いよう……。私、見てられない。お姉ちゃんの訓練、鬼過ぎ!!
◆ ◆ ◆
「――こ、声が……!」
『私と、違う。声帯、サポート。私は、完全にダメ。貴方は、まだ使い物に、なる』
「おお~!! さすがフラフィーさん、完璧な仕事です!!」
『あり、がと。セシ、リー』
さて、キャロルちゃんの問題は、これでほとんど解決したわね。
フラフィーさんに注文した人工声帯、それと失った歯の代わりに顎へ埋め込んだ人工の歯。暫く顎を使った食事をしていないだろうから、顎のトレーニングもしないといけないわね。
「狭くて、申し訳ないわね。どこか改善点はあるかしら」
「いえいえいえいえ!! むしろ前の家の倍以上大きいと言うか、余しています!!」
『大きい。倉庫も、便利。最高、です』
「改善して欲しいところがあったら、遠慮なく言って頂戴ね」
「その時は、お願いしまーす!」
『音も、静か。防音、快適』
セシリーちゃんとフラフィーさんの新居も、今のところは問題なさそうね。ハンガー内部は音が響くから防音対策もしっかりやったのだけど、確かに中は静かでハンガーの中だってことを忘れそうなぐらいだわ。ただ……。
『お姉ちゃん? これが、家?』
「四角い、ですね……」
『雨風の心配がないため、この形状が最適です』
「そうね。外から見えない、音を遮断できているなら問題ないと思うのだけど」
『豆腐ハウスじゃん!!』
エルちゃんから、見た目が最悪だって怒られているのよね。ちびエルちゃんのサポートを受けて作ったから、これでエルちゃんも納得してくれるはずって思ったんだけど……。
「いえいえ! むしろ屋根をつけられると困ります! 屋上は実験場も兼ねてるので!」
『これ、ベスト。お洒落、無駄。服がお洒落なら、それでいい』
「変に装飾があると、傷つけた時に困りますので! このままにしてください! 機能性が大事なんです。機能性ファースト!!」
『機能、大事。安全、大事。見た目、二の次』
『住んでる人が良いなら、それで良いかぁ……。良いのかなぁ……』
そうよね、機能性が大事よね。変にゴテゴテした装飾を施すと、引っ掛けたり傷つけたりで面倒くさいもの。それに壁が平らだから、掲示物を貼り付けるのにも丁度良いのよ?
「マ、ギア……」
「そうよ。あれが私のマギア……なのだけど」
「現在、大絶賛調整中です!! 初陣で回路が焼けたり、破断が起きたパーツもあったので、急いで修理してるんです!!」
『硬い素材、ばっかり。良くない』
「今すぐは動かせないの。修理中なのよ」
「凄い……強、そう……。凄く、広い……」
確かに、前にフィレンツェで乗っていたマギアよりは相当強いわ。でもこれは試作機で、戦闘用に特化した機体ではないのよね。拡張性には優れているけど、今のところはノーマルタイプのマギアという感じだわ。全ての能力を出し切れたら、最新型のマギアにも匹敵するかもしれないけど。
「将来的には更に新しいマギアを入れられるように、第2ブロックと第3ブロック、マギアを置いておくだけ予備のブロックもありますよ!」
「それじゃ、そこを貸して貰って、そこで訓練の続きかしら?」
「は、い! おねがい、します!!」
『ええええええええ!? まだやる気なのぉおお!?』
「訓練が終わる日はないわ。今度は実戦じゃなくて、持久力等を鍛えましょう」
さて、これだけ広いなら迷惑にならない場所で訓練の続きをしても良いわね。これから様々な種類の訓練を重ねて、キャロルちゃんには立派なボディガードになって貰わないとね。





