019 使い方次第
さすが、運び屋を生業としているシャーク商会ね。シャーク会長は荒っぽい感じがしたから不安だったけれど、商会の従業員さん達は仕事が早くて丁寧だわ。
「おう、来たか。もう大体積み込みが終わったところだぜ」
「夜遅くなのに駆けつけてくれて、ありがたいわ」
「ヒルガオの頼みだしな、それ以前にあんたは大恩人だからな……」
そこまでのことをしたかしら……。でも、感謝されているなら、嬉しいわね。
「それじゃあ、俺達はこいつをハンガーまで届けてくる。あんたは?」
「私も同行するわ。一応、依頼者だもの」
「それもそうか」
正直、フラフィーさんの荷物の積み込みを手伝いもしないで、先にフラフィーさんだけをハンガーに連れて行ってしまったから、申し訳なく思っていたのよね。荷物の運び込みぐらいは手伝わせて欲しいわ。
それに、もう夜も遅いし……。怒りに任せて襲ってくるとしたら、今夜か数日後のはず。運び屋をしているぐらいだから荒事には慣れていると思うけれど、訓練を積んだ傭兵や私兵が相手となると話が変わってくるもの。
「あ! 俺もそうだが、システィーナちゃんもだ。荷物には触らねえでくれよ」
「え? どうして?」
「どうしてってお前、何か壊したらどうすんだよ……」
「そんな、壊したりなんてしないわ。そのぐらい加減出来るわよ」
「あんな薄っぺらいガラスの容器でもか?」
そこまで力が強いわけじゃないわって言いたかったけど、さすがにあの紙切れぐらいの薄さしかないガラス容器は……。ちょっと、厳しいかもしれないわね。扱い切れる自信がないわ。
「…………触らないでおくわね」
「だろ? 俺もあんなのには絶対に触りたくねえ」
「私はともかく、シャーク会長は運び屋では?」
「俺はデカいものと人間専門だ。まあ、今は滅多にハンドルを握らねえけどな」
やっぱり、専門分野は専門の人にお願いすべきね。下手に触って何か壊したらトラブルの原因になっちゃうもの。私は私の得意なことをするべきね。
◆ ◆ ◆
『――ふわぁ~……。おはよう、お姉ちゃん』
「おはよう、エルちゃん。良く眠れたみたいね」
いやぁ~。幽霊になっても眠くなるのって、本当にどうなってるんだろうね! でも眠くなっちゃったんだから、仕方ないじゃない。眠い時は寝ないと!!
『おはようございます。アシスタント・エルエニアより数件の報告が御座います』
『あ、さすが~。私が寝てても働き者だ~!』
「あら、ちびエルちゃんだわ」
『そう! アシスタント機能っていう能力で、私の小さい分身がね、寝ている間にも情報を集めてくれるんだ~。昨日の夜に何があったのかとか、ハンガーの中の様子とか!』
「凄いわ、万能なのね」
『集められる情報には限りがあります』
『まあまあ、それでも寝てる間に情報が集まるんだもん! 便利だよ~!』
私が寝ている間でも、ちっちゃい私が都市の中を飛び回って情報を収集して、ピックアップして報告してくれるんだよね。今回の情報の中で、特に気になるのは……。
『んん!? クローバー商会のカジノが火災で全焼!?』
『クローバー商会の会長、ジャック・ラ・モールは御存知の通り、昨夜開催されたルシアーナルーレットにより死亡しました。残された従業員の中からジャック・ラ・モールの影武者を立て、カジノは存続を決定。しかしすぐに本物が死んだという情報が漏れ、恨みを買っていた人々に報復され、最後には火を放たれて全焼致しました』
「昨夜は随分とうるさかったけれど、そんなことがあったのね」
ええ……。この都市、治安が悪すぎない……? というより、エメラルダ商会の蒔いた種が、思ったのとは違う形に成長しちゃった感じがするね……。むしろ、お姉ちゃんが治安の悪い部分に関わりすぎなのかな?
『また、賢者の大隊の一部隊員を含むエメラルダ商会の私兵が数名、工業地区の路地裏で死亡しているのが発見されました。犯人は不明ですが、死亡していた隊員達は全員、『システィーナ・リリー』『シャーク会長』『ヒルガオ会長』の顔写真を所持していました』
「銃を向けた相手に情けは無用よ」
『あ、お姉ちゃんなのね。ヒルガオ会長は?』
『生き残った兵は別働隊と合流後、ヒルガオ会長の襲撃に変更。しかし、オルカ商会の警備兵によって全員が制圧されました。この事件に関して、エメラルダ会長は隊員の独断と発表。無関係であるとの姿勢を貫いています』
『あいつ最低。嫌い』
「私も嫌いよ」
やっぱり報復に来たんだ、エメラルダ商会! あの性格の悪そうなオバサンなら、絶対やると思った! それにしても、賢者の大隊ってお姉ちゃんが凄く強いって言ってた傭兵団なのに、実は大したことがないんじゃないの?
『ねえお姉ちゃん? 賢者の大隊って、本当に強いの?』
「この街に居るのは偽物か、自称副隊長の率いる三軍以下のチームか、それか急激に劣化した本隊だと思うわ。最後に賢者の大隊の本隊に会ったのは2ヶ月前のことだから、急激な劣化と腐敗の線はないと思うけど……。有名な傭兵にはね、騙りも多いのよ」
『不確かな情報になりますが、恐らく偽物であるという説が濃厚です。練度の低さ、後先を考えない愚かさから、三軍以下であるとすら思えません』
「私は三軍以下のチームだと思っているわ」
『その判断理由をご教授願えますか?』
「昔、三軍以下のチームに遭遇したことがあるわ。逆さ吊りのカラス……賢者の大隊のエンブレムを掲げていたから警戒していたのだけど、昨夜襲撃してきた連中と程度が変わらなかったわ。こちらに聞こえるぐらいの声で会話していて、下品な会話をしていたもの」
『ありがとうございます。システィーナ様』
なるほど~。有名な傭兵だと騙りの可能性もあるし、本隊かと思ったら練度の低い三軍以下の場合もあるんだ~……。でも、そんな練度の低い奴を隊に入れてたら、悪評が広まっちゃうんじゃないの? 私なら、そんな奴ら放置しておけないけどなあ~。
『そんな奴らを野放しにして、賢者は何を考えているのかな? 悪評が広まっちゃうのに』
「失敗したら騙りとして抹殺。成功すれば二軍昇格。賢者の大隊の本隊が強いのは事実だから、雇い主には困らない。それに弱いという情報が広まるのは、悪いことだけではないの」
『え? どうして……あっ!』
そっか! 弱いって噂が広まるのは、必ずしも悪いことだけではないんだ!!
「弱いという事前情報は油断を生じさせるわ。話に聞いたことがある、大した連中じゃない。これが三軍以下、二軍のチームと当たってその通りだったとしたら問題はないの。でも……」
『本物……。一軍のチームに当たったら、最初の油断で……』
「そう、壊滅よ。賢者の大隊の本隊は、本物の強さを持っているから、一番警戒しなければならない最初の衝突で、大きなアドバンテージを得ることが出来るの。自らの悪評を広めるのもまた、彼らなりの策略なのよ」
凄い……。そこまで考えているんだ、賢者の大隊……。確かに、今私も『賢者の大隊って、実は大したことないんじゃないの?』って思ってた……。実際に遭遇したとしても、その油断は捨てきれなかったと思う。
「それを繰り返して、三軍以下や二軍のチームに突出した才能の持ち主が現れたら、本隊が引き抜いて更に強くなる。強い兵を失った隊がどこかで敗れ、どこかで油断が生まれる。本物達の狩り場は広くなり、獲物は油断をしてくれる。悪いことだけではない……でしょう?」
『悔しいけど、私も大したことないってさっきまで思ってたから……』
「見事に策略にはまったということね」
く、悔しい……!! 大したことないと思ってた相手が、私よりも一枚も二枚も上手だったなんて……!! そっか、だから狡猾さの象徴であるカラスがエンブレムになってるんだ。ん? あれ、逆さ吊りのカラスだっけ?
『エンブレムの、逆さ吊りのカラスはどういう意味なの?』
『不気味さ、見た目の印象の強さで採用したと推測』
「カラスは神の使いだと信じているそうよ。狡猾さの象徴でもあるわね。それらを捕まえられる自分達は、神をも恐れぬ知の大隊であるというメッセージがあると聞いたわ」
『ちびちゃん、全然合ってない……』
『推測・予測機能の能力向上には、繰り返しの訓練が必要です』
ぶ~。私の能力が言い訳をしてくる~。それに、賢者の大隊を殺した犯人も不明だってさっき言ってたし、この能力も絶対じゃないんだなぁ~。最強のチート能力だと思ってたのに!
『む~。他に何か情報は?』
『今日早朝、ヒルガオ商会のハンガー内部に仮設住宅を完成させました』
『ええ!? 私と作るって言ってたのに~!!』
「エルちゃんを起こしたら悪いと思って。セシリーちゃんとフラフィーちゃんが手伝ってくれたし、ちびエルちゃんも手伝ってくれたもの」
『採寸や設計図等でしか、お力になれませんでしたが』
え~!! ハンガーの中に家を作るぞ~って、今日を楽しみにしてたのに~!! どうしてこんなに早く……あれ? 待って、今何時? 朝、だよね!?
『え、今何時!?』
『現在はアトラス暦440年9月20日、午前11時47分40秒です』
『どうして起こしてくれなかったの~!!』
「幸せそうに眠っていたのだもの」
『え~!! え~!! 他に何もやってないよね!? 他に何かあった!?』
『システィーナ様がボディーガード育成のために、奴隷をご購入なさいました。イヴ様もお気に召した様子で、現在は補給と洗浄を終え、スリープモードに入っています』
『あのね? いくら奴隷だからって、人に対して食事を補給とか、お風呂を洗浄とか、睡眠をスリープモードとか言っちゃダメなんだよ?』
『以後、修正致します』
奴隷を物扱いするの、私は嫌いなんだよね。前世でも確かに、会社の奴隷とかそういう表現はあったけど……。そういう風に蔑んで呼ぶの、嫌いだから。
「エルちゃん、相談しなかったの……怒ってる……?」
『ううん、怒らないよ! 私がこんな時間まで寝てたのが悪いんだし……』
『11時間以上お眠りになられていました』
「そう……。遅れて申し訳ないけれど、後で奴隷の子を紹介するわね」
『うん! ねえねえ、奴隷を買った時一緒に居なかったの? その時の様子とか、映像記録とかで残ってないの?』
『重要な出来事と判断し、記録してあります。ご希望であれば、再生致します』
あるなら見せてよ~!! というか、今度から映像付きで報告して!!
『むぅ~……!!』
『……以後、映像を交えての報告をさせて頂きます』
設定変更してやった~! これでよし……。それじゃあ、奴隷の子を買いに行った様子を再生して貰おうっかなぁ~! どんな子なんだろう、決め手はなんだったんだろう! 楽しみ~!!





