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018 賢い選択

『お姉ちゃん、頭は大丈夫?』

「私はいつでも冷静だし、エルちゃんが大好きよ?」

『あ、ごめんね? 言い方が悪かったよね。撃ったところは大丈夫?』

「かすり傷だわ、あのぐらい」


 屋内で使って問題がないレベルの銃だから、せいぜい50口径の銃を使ったルシアーナルーレットだと思っていたら、やっぱりそうだったわね。

 エルちゃんがステルスの魔法を使って私にこっそりカラクリを教えてくれたけど、大したイカサマじゃなかったわね。フィレンツェには引き金を引いた音を再現する魔導具を持って、派手に頭を振ることで誤魔化してたイカサマをしていた奴も居たのを思い出したわ。


「な、なあ、システィーナちゃん……。ありがとうな……」

「仲間がやられた時の悲しさは、私も知っているつもりよ。少しでも憂いが晴れたなら嬉しいわ」

「ああ……。お陰様でな……」

『お姉ちゃんも、鬼神の仲間がやられたことって、あるの?』

「何回かあるわ。その度に人員が入れ替えになって、最後まで生き残ってたのは、隊長と私、メアリーとベニーだけだったわね」

『そうなんだ……』


 それにしてもエメラルダの悔しそうなあの顔。あれは絶対、まだ報復を考えている顔ね。スープの中に虫を入れて来た人と、同じような表情をしていたもの。


「なあ、本当にその、妹ちゃんがそこに居るのか……?」

「ええ、居るわよ?」

『シャークさん、私のことが見えないんだ~。残念、イケてるオジサマなのに~』

「エルちゃん、シャークさんみたいなタイプが好きなのね?」

『うん! ガッチリしてて、渋くて、仲間思いで格好良いオジサマ!』

「幽霊に好かれてもなあ、まあ……どうも」


 エルちゃんのことが見えない可哀想な人のために、フラフィーさんにはエルちゃんのスペシャルなボディを作って貰わないと……。依代にして自在に動かせる最高のボディ、絶対に作って貰うわ。必ず、絶対に……!!


「それにしても、どうやって銃弾を耐えたんだ!? 封具を着けられてて、能力が使えなかったはずだろ!? もしかして、妹ちゃんに助けて貰ったのか!」

「え? エルちゃんは隠れていたから、干渉出来ないわよ?」

「は? じゃあ、どうやったんだ……?」

「あのぐらいは耐えられるわよ?」

「は? え、どうやって……?」

「ん~……。歯を、ギュッと噛み締めて?」

「は……歯? は?」

「歯よ。ギュッとするの」


 これ、いくら説明しても誰にもわかって貰えないのよね。でも、実際ギュッとすると耐えられるんだもの、それ以外に言いようがないわ。


「それより、ボディーガードを育成したいの。良い人材居ないかしら?」

「え、ああ……? お前さんが危険だと思うものから守れる人間は、この世に居ないと思うぜ……」

「私より強い人なんて、いっぱい居るわよ。それこそさっきのギャンブル、ルシアーナルーレットの語源になったルシアーナ連邦には、死神と呼ばれるパイロットが居るわ」

「マジかよ……」

「ロムナ帝国には、天神教の異端審問官のジャスティーヌ、同じくピュリファイアー。他にもネームレスのゼロ、ベヒモスのブレイン。賢者の大隊セージ・ワイズマン。女帝の治める砂漠の国アイシス王国にも、聳え立つ鉄壁の塔と呼ばれる強い防衛部隊が居るわ」

「賢者の大隊だけしか聞いたことがねえなぁ……」


 私が勝てないか、相当辛い戦いになるであろう人達なんて沢山居るわ。世の中は広いもの、きっとまだまだ沢山居るはず。


「ボディガードの育成なら、奴隷を使っちゃどうだ? 技術を叩き込んでやれば、命令に絶対服従の、一流ボディガードが誕生するんじゃねえか?」

「奴隷……。イヴちゃん、納得してくれるかしら……」

『奴隷か~。でも絶対裏切らないし、アリって言えばアリだよね~』

「そうね。帰ったらイヴちゃんと相談してみるわ」


 まずはフラフィーさんの荷物を、ハンガーの中に運び込まないと。もうね、寮とかに住まわせても襲撃されたら大変だし、セシリーちゃんと一緒にハンガーの中で生活して貰えばいいと思うのよ。中を一部改装して、生活空間を作れば良いと思うわ。

 正直、私達もハンガーの中で暮らそうかしらって思ったのだけど、お家を購入したばかりだし、イヴちゃんがハンガーの中じゃストレスが溜まって眠れなさそうなのよね。


「さて、そろそろ到着ね。フラフィーさん、起きて」

「ぅ、ぅ……?」

「そんなに揺さぶらなくても、聞こえるだろぉ……」

「フラフィーさんはお耳が聞こえないのよ」

「マジかよ……」


 本当よ。目も耳も声も、色々なところが不自由なんだから。


◆ ◆ ◆


「――ふぇ……? あ、おはようございます! もう、朝ですか!?」

「起こしちゃってごめんなさいね、セシリーさん。暫くここで、貴方と同居して貰う人よ。フラフィーさんって言うの」

『フラフィー、ダーガ。よろしく、お願い、です』

「おおおお!! 人工声帯ですか、初めて見ました! 私はチェツィーリア・ベールマンと申します。長いし呼びにくいので、セシリーって呼ばれてます!!」

『セシ、リー。よろしく、です』

「はい!! よろしくお願いします!!」


 とりあえず顔合わせをしてみたけれど、人間関係的には問題なさそう……かしら? 明日にでも仮眠室とシャワールームを改装して、立派な家に変えないと……。プライベートな空間がないと、落ち着かないものね。研究部屋に、実験場も欲しいわよね。


「明日には個人の部屋と、研究用の部屋に実験場も作るわ。エルちゃんと私で作るから、見た目は……悪いかも知れないけれど」

「えっ!? 個室が頂けるのですか!?」

『ありがと、です。本当、頑張り、ます』

「今日はこのまま休んで頂戴。ここなら、エメラルダ商会から狙われることもないから」

『はい、です』


 フラフィーさんとエメラルダ商会の奴隷契約は切れて、無事に私達のものになったわけなのだけど、エメラルダ商会がいつ報復に来てもおかしくないから……ここしか安全な場所がないのよね。

 本人は『元々暗い家に住んでたから、ハンガーの中でも問題ない』って言っていたけど、大扉が開いた時にしか太陽を拝めないから、なんだか病気になっちゃうんじゃないか心配だわ。


「それじゃあ、とりあえずここで我慢していてね」

「いえいえいえいえ! むしろ安全を確保して頂き、ありがたい限りで! この能力がどれほど危険なのか、今になってようやく理解出来まして、もう外に出るのが怖いです! はい!」

『外、怖い。エメラルダ、殺される』

「エメラルダ会長に狙われているのですか!? それは、怖いですね……。私が隣で一緒に寝ましょうか!! 添い寝、出来ますよ!!」

『いい、要らない』

「そ、そうですか……」

『ありがとう』


 元気なセシリーさんと、暗いフラフィーさん。なんだか正反対だけど上手くやれそうね……。時間が経ったら、一応こっそりお互いの不満とかも聞いておくべきかしら。隊に入りたての頃、2人1部屋だったのを思い出すわね。同期生がお互いの不満ばっかり言っていたのを良く覚えているわ。


『それじゃお姉ちゃん、片付けに行こうっか!』

「ええ、行きましょうエルちゃん」

『ばいばい、妖精、さん』

「妖精? エルちゃんのこと?」

『はい。妖精、さん。です』


 確かにエルちゃんは妖精のように愛らしいわね。見る目があるわ……やるわね、フラフィーさん。これは将来有望よ! 世界一の魔導具技師になって貰わないと!!


『え~! お姉ちゃん、妖精さんって言われちゃった!』

「ええ、エルちゃんは可愛いもの。妖精さんで間違いないわ」

『じゃあ明日から、いっぱい悪戯しても怒られない? 妖精さんだもん!』

「イヴちゃんに怒られない自信があるなら?」

『うん、やめておくね。無理だと思う。絶対に怒られる』

「そうね、それが賢い選択だわ」


 でも、いくら賢くてもイヴちゃんを怒らせちゃダメよ。目の前で期間限定プリンを完食されるの刑をされたくなかったら、二度と怒らせてはいけないわ。


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