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016 価値

 私の方の商談はスムーズに終わったわ。

 管理状態も良かったし、前のお屋敷と同じぐらいには広い。都市の中央に近くて治安も良いし、周囲にお金持ちの家が多くて警備兵も常に巡回している。

 その場で1万1000枚を払おうとしたらイヴさんに止められたから、管理しているフドー商会まで行って払ってきたわ。向こうの会長さんも機嫌が良かったみたいで、とっても美味しいお茶やお菓子を出してくれて、他の商品も沢山紹介してくれたわ。今度またお世話になりに行きましょう。


「……なるほど、グレーゾーンね」

「うむぅ……。まさかこう返してくるとは、予想外じゃった……」


 問題なのはフラフィーさんの方ね。こっちはやられたわ。


「支払期限を前倒しにし、一方的に搾取したのは事実じゃ。それに、フラフィーに危害を加えたのは一昨日のこと、まだ人権があったタイミングじゃな。つまりそこは取り立て人のクローバー商会及び、指示を出したエメラルダ商会に非がある」

「そこを責めて行けると思ったけれど、意外な返しをされたわね」

「うむ。これに対してエメラルダは取り立てた分の倍額と慰謝料として、金貨1200枚を支払うこととなった。これで借金はほぼ帳消し、なのじゃが……」

「その時点で、支払い能力がなかったのは事実……という点ね」


 フラフィーさんは借金が払い切れなかった場合、奴隷としてエメラルダ商会の商品になるという契約がされていたわ。月々決まった額を支払わなくてはならなくて、その支払い日がまさかの昨日。つまり支払いに遅れたから、エメラルダ商会の奴隷になっているということ。

 一昨日の時点で借金返済能力を有しておらず、そのタイミングで即時換金出来る商品もなかった。実際、魔石等を売るにしても査定に1日掛かってしまうから、取り立てに来た時点で払う方法がなかったのは確かなのよね。これについて司法の判断を仰いだのだけど、残念ながら『支払い能力なし』という結論が出されてしまったわ。


「――このせいで、フラフィーはエメラルダ商会の商品となってしまった。そしてエメラルダはフラフィーに対して金貨5万枚という金額を提示してきたのじゃ!」

『本当に卑怯!! 商品価値なしとして殺そうとしたくせに~!!』

「私達が欲しがっているから、法外な値段を吹っかけてきたというわけね」

「うむ。もしくは、あのラッキージャックと勝負をして勝ったら、という条件じゃ……」

「ラッキージャック?」

「私から、ご説明致します……」

「ダーマン、頼む」


 ――――ラッキージャック。

 本名、ジャック・ラ・モール。クローバー商会に所属している男で、カジノを取り仕切っている責任者。賭け事にめっぽう強く、並外れた感性で連戦連勝。彼と賭けをして泣きを見た人も少なくないそうよ。借金までして負けて、奴隷になってしまった人もいるとか。そんな彼と勝負をして、もし勝ったらフラフィーさんを残りの借金と同額で売っても良いという話……。


「正直、勝ち目はありません……。先日も1人、シャーク商会の従業員が熱くなった勢いで……」

「もしや、ランバー様ではありませんよね?」

「うむ……。その通り、ランバーという男じゃ」

「ランバーさんが……? 奴隷になってしまったのですか?」

「いえ、死にました……」


 死んだ……? ランバーさんが、賭けに負けて……?


「ラッキージャックは裏で違法なギャンブルもやっているそうなのですが、司法も公安もこれを黙認している状態でございまして……」

「弱みを握られておる者が多いのじゃ。迂闊に手を出すと、次の日には川へ浮かぶことになる」

「当商会は接触厳禁という形で、ラッキージャックの仕切るカジノには行かぬようにと言っているのですが、シャーク商会はグループ商会ではありませんので……」


 お世話になった人が殺されたなんて、気分が悪いわね……。


「もしかして、私が銀貨50枚を、取ったから……」

「いえいえ、ランバーは金貨300枚の借金を(こしら)えていたそうですから、銀貨50枚ほどでは……」

「それにあの日、ランバーには金貨100枚を支給したのじゃ。それが逆に、まずかったのかもしれんのう……。羽目を外したくなったのやもしれぬ……」


 ラッキージャックに賭け事で勝てば、フラフィーさんを借金の残金で購入することが出来るのね。そして勝てば、ラッキージャックの無敗伝説にも傷がつく。


「ただ、勝負のお相手はシスティーナ様を指名しておりまして……」

「やるわ」

「法廷で馬鹿にされたのが、よほど悔しかったのじゃろうな。まあ受けるなどありえぬ話じゃ、いや待て。今なんと言った?」

「やるわ。ラッキージャックと勝負をさせて」

「…………ヒルガオ様、このダーマン。もう歳のようです。今システィーナ様がやるとおっしゃったように聞こえました」

「儂もじゃ! いや、聞き間違いじゃろ。すまんが、もう1回言ってくれ!」


 あら、そんなに小さい声だったかしら? じゃあ、聞こえるように……ちょっと大きい声で。


「やるわ!!」

「うっ……! こ、声が大きい……!!」

「のじゃぁ……!! き、聞こえてしまったのじゃぁ……」


 良かったわ、ちゃんと聞こえたようね。正直、金貨5万枚なら払えないこともないのだけど、あのエメラルダとかいう女にそんな莫大な金額を支払うのは絶対に嫌よ。

 それに私はこう見えても、鬼神の中でも賭け事に強かったのよ? 隊の中で賭けポーカーをやっても、今まで負けたことは一度もないんだから。


「システィーナ様、これは罠です。絶対に行っては……」

「大丈夫よイヴちゃん。私、賭け事も強いんだから」

『お姉ちゃんに卑怯な手を使うつもりなら、私が全部見抜いてやるんだからね!』

「エルちゃんもやる気満々ね。それじゃ、勝負を受けると返事をお願いね」

「ヒルガオ様、どうなさるのですか……?」

「うぅむ、本当にそなたがそこまで体を張る価値が、あの娘にはあるのか!?」


 その価値はある。それに、プライドの問題もあるわ。


「商才がないと見下した相手に、足元を見られたままではプライドが傷ついたままになるわ。この際、エメラルダのプライドをズタズタにしてやりたいの」

「別に、そなたが直接何かをされたわけではなかろうに」

「放し飼いの犬がイヴちゃんに噛みつこうとした。ランバーさんを殺された。それだけで、敵とみなす理由として十分よ」

「システィーナ様……」

『お姉ちゃん、そういうところが格好良いよね……』


 それに何より、フラフィーさんに価値を感じている、一番の理由は……!!


「それに、フラフィーさんを引き抜きたい一番の理由は!! エルちゃんのボディを作れる可能性があるからよ!! エルちゃんのことが見えていたし、完全再現のエルちゃんを!! 作れる!!」

「あ、ああ~……」

『お姉ちゃん!? それが一番の理由なの!?』

「すぐにじゃなくても良い。いずれ必ず、彼女になら作れるわ。必ずその域に達してくれる!!」

「い、妹のこととなると、こんなにも人が変わるのかえ……!?」

「はい。システィーナ様はエルエニア様が全てですので」


 エルちゃんのボディ、絶対に作って貰うわよ!! フラフィーさん!! さあ、返事をしてきてくださいな。私は逃げも隠れもせず、ラッキージャックの勝負をお受け致します。


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