015 悪巧み
『魔獣が来てこの都市は終わりなんだとよ。なあ、フラフィーさん?』
『持って、いかないで、お願い、待って』
『てめえの借金が返し終わるのは、魔獣が来るより早いのかって聞いてんだよ』
『こいつ見た目はそこそこですし、他所で商品にしましょうよ』
『ダメだ、エメラルダの奴が殺してこいって言ってたからな』
『殺したってことにして、良いじゃないですか~』
『やめて、やめて、ください』
『気色わりい声出すんじゃねえ!! こいつはそういう使い道が出来ねえんだよ――』
なるほどね。これが、一昨日の出来事だったわけ……。とりあえず警備兵さんには『大丈夫だった』ってことでお帰り頂いたけど、なかなか面倒な連中に絡まれてたのね。
倒れていた人はフラフィー・ダーガさん。エメラルダ商会のグループ、クローバー商会に金貨1500枚の借金があって、そのお金で体を欠損した人のための魔導具を開発していたそうよ。
高位の治癒魔法が使える人に頼めば手や指の欠損ぐらいは治せちゃうけど、1ヶ月以上時間が経過すると変な形になったり、もっと長くなると傷口が綺麗に塞がるだけで生えてこなくなる。
つまり、時間が経って体の機能を回復出来ない人のための魔導具ということ。自分のような欠損のある人達のために、格安でオーダーメイドのものを作っていたそうよ。
「それで、魔力を奪う器具を使われて魔力をほとんど抽出されて、やっとの思いで辿り着いたのが、護身用の銃のある棚だったってことね」
『はい。そ、うです』
ちなみにフラフィーさん、声帯のほうもダメみたいで、喉に声を出せる魔導具を押し当てないと喋ることが出来ない。耳が聞こえない、目も悪い、喉もダメ、両足もない、右手もない。本当……よく今まで生きて来られたわね……。
「ふむ~……。エメラルダめ、最近本当にやり過ぎじゃな……」
「随分と治安が悪いように感じるわ。エメラルダ商会が関係しているのかしら」
「うむ。エメラルダは他国にグループ商会……というより子分じゃな。それが各々の国から随分な数の人間を引き込んできているのじゃ。おかげで従業員数はトップなのじゃが、そのやり方が荒々しくてのう……」
『フラフィーさんみたいな人が、いっぱい居るってこと!?』
「フラフィーのような者はそうおらんと思うが、いや思いたいが……」
そのエメラルダも、頼りにしていた傭兵が土壇場で裏切って殺されかけていたけどね。それにしても、まさかあの悪名高き『賢者の大隊』を雇っているなんてね。副隊長が独断で行ったことで、既に除名したから関係ないって言い張ってるみたいだけど……。
「賢者の大隊も、その伝手を使って引き込んだのかしら」
「そうじゃろうなぁ……。システィーナは、賢者の大隊を知っておるのか?」
「ええ、マギアを使わない特殊作戦中に何度かやりあったことがあるわ。隊長のセージ・ワイズマンが『俺は賢者だ』と豪語している、冷酷非道な傭兵団よ」
「頭の悪そうな奴じゃなぁ……」
「いいえ、豪語するだけのことはあるわ。非常に危険で、頭の切れる男よ」
『お姉ちゃんが他人をそこまで言うのは、珍しいね……?』
「それだけ危険な男なの。彼は本物よ」
「そ、そなた程の実力者が、そういうなら……」
セージ・ワイズマンには、1対1なら余裕で勝てると思うけど、彼の本隊は30人以上の精鋭部隊。マギアなしで衝突した時に、隊の1人がやられて大変だったわ。
「それで、フラフィーをどうするのじゃ?」
「ヒルガオ商会に引き込めないかと思って。整備士さんの中には、指を詰める事故にあったことがある人が何人かいらっしゃったわ。彼らの部分的義手を作って貰う技術者としても、マギアの改良技師としても、彼女は優秀だと思うの」
『しゃ、っきん。1500より、多く、て』
「利息が付いているのね。それも含めて私が払うわ。クローバー商会に話を通して、うちで引き抜いたほうが絶対に良い。これだけの義手や義足が作れるのだもの」
『マ、ギア。作った、こと、ない』
「少しサイズが大きくなるだけよ。これから勉強すれば、何も問題ないわ」
ただ軽量化するだけでなく、自分の体格に合わせた義手や義足が作れる職人。人工の声帯や、聴覚を補助するのでなく拾った音を頭に伝える魔導具さえも作れる。金貨1500より多いにしても、倍の3000でも安いぐらいだわ。
「人殺しの商会に預けておくなんて、大きな損失よ」
「うぅむ……。わかった! 儂が行って話を付けてくるのじゃ!」
「私が投資するわ。5000出すわね」
「ひょ!? ご、ごっ!? 重いんじゃが!?」
「ヒ、ヒルガオ様! 私がお持ちします!!」
あら、ダーマンさんに渡せば良かったわね。金貨は1000枚ずつ袋に入れてあるから、5袋で5000枚あるはずだけど。まさかこれで足りるわよね?
「あ、ありがたい話じゃが、流石に商会からお金を出すのじゃ!」
「使い道があまりないから、受け取って頂戴。それに今回は私のわがままだわ」
「うぅむ……。では今回だけじゃ! そなたは一度言ったら引き下がらなそうじゃし……」
「ありがとう。お願いね」
『え……。え、私、その』
「フラフィーよ、そなたは今、生きているだけでエメラルダにとって不都合な存在じゃぞ? 人殺し達からも逃れられて、借金も返せて、新しい職場もゲットじゃ! なにか問題があるかえ?」
『な、い……。でも。凄く、申し訳、ない』
「それだけ能力を買われたということじゃ。儂から見ても、その能力は間違いない! 案ずるな、マギアの方は上手くいかんでも追い出したりせんから」
決まりね。フラフィーさんはヒルガオ商会に引き抜き、エメラルダ商会の子分のクローバー商会に話をつけて一件落着。相手は人殺し未遂の物証があって強く出られないでしょうし、簡単に話が進むと思うわ。公安に突き出さない代わり、引き抜きを認めろって作戦ね。
「それじゃあ、私達はお家を見に行きましょう?」
『新しいお家ー!!』
「あっ、本来の目的を忘れていました。参りましょう」
「おおそうじゃった、家を買うんじゃったな! 半分ぐらいなら出すのじゃ!」
「ダーマンさんが持っている袋の中身でも、半分にならないわよ?」
「え゛、嘘じゃろ……!?」
「えっ!?」
「本当よ」
あら、ヒルガオ会長達が固まってしまったわ。でも急がないと、お屋敷を管理している担当者の人が待っているって話だったものね。
「それじゃあ、また後で。ここの引っ越しも、後で手伝いに来るわね」
「失礼致します、ダーマン様、ヒルガオ会長」
『ヒルガオ会長、ばいばいっ! また後でね~!』
「い、行ってらっしゃい、のじゃ……?」
「行って、らっしゃいませ……」
それじゃ、急いでいるからイヴちゃんを……。いえ、目立つからやめなさいって言われていたわね。緊急事態ではない限り、飛ぶのはやめておきましょう。
『フラフィーさん、ずーっと私のことを目で追いかけてたね』
「あら、やっぱり見えていたのね」
「可愛い。ふわふわしている。すり抜けた、えっ。などと感じていたようですよ?」
「エルちゃんは可愛いものね」
『ふわふわ飛ばないで、普通に歩いてるフリをしてたほうが良いかな?』
確かに、エルちゃんを誰が見えるのかわからないし、変な騒ぎにならないように普通の人らしく歩いていて貰ったほうが良いのかしら。それか、小さいエルちゃんになって貰って、お姉ちゃんの肩に乗ってて貰うのもアリだわ……。
「そうね、カモフラージュは必要になりそうね」
『じゃあそうするねー!』
可愛いエルちゃんを自慢したい気持ちと、エルちゃんの存在を見られたくない気持ちが私の中で戦っているわ。これはきっと、終わりなき戦争ね。死ぬまで続きそうだわ。





