014 忙しい一日
専用のボディーガードが欲しい、かぁ~。
「ハンガーに戻ってくるまで、8回も声をかけられました。その内3回も無力化が必要なチンピラでした。ほら、また来ましたよ。うわ、ナイフまで持ってる……」
「お嬢ちゃん達、俺と一緒に――あ゛……!? あ、だ、うああああ!?」
「汚い手で触らないで頂戴ね」
私が同行してる時は、今みたいに捻り潰せば良いけれど、居ない時は確かに面倒ね……。イヴちゃんは可愛いし、小柄だし、ついつい持って帰りたくなるのはわかるけど……。ナイフをチラつかせて声をかけてくるのは、流石にね。
「あと、こういうのはお料理をする時に使うのよ。迂闊にチラつかせると……」
「あああああ、足、あ、ああああああああ!?」
――――ピーーッ!!
「そこで何をしている!!」
「ナイフを持った暴漢に絡まれたわ」
「ん……? また君か!! 今日だけで何件目だ!!」
「9件ですね」
ベルリーネの警備兵さんが来ちゃったわ。ちゃんと警備兵が居るのに、その場の感情でしか行動出来ない困った男が減らないのよね。まあ、今までに成功体験があるからやめられないんでしょうけど、困ったものだわ……。
「ああ、足に、足にナイフが刺さってんだよぉお!! いでえええええええ!!」
「見ればわかる、少し黙っていろ!! 君、この子の保護者か何かかね!!」
「ん~……近いものがあるわね」
「如何にも金持ちそうな綺羅びやかで上品そうなお嬢さんが、たった1人で治安の悪い地域を歩いたらどうなるか、少し考えたらわかるだろう!!」
「今みたいに暴漢が返り討ちにされるわ」
「そう何度も何度も返り討ちに出来るか!! わかったらボディーガードか、魔導馬車での移動にしてくれ!!」
なるほど、何度も騒ぎを起こすから、警備兵さんの迷惑になっちゃっているのね。私がボディーガードよ、と言いたいところだけれど……。私も結構、この手の男に声をかけられてしまう方だから、声をかけられる確率が倍になるだけなのよね。
フィレンツェ王国って、ある意味そういう点では治安が良かったのかしら。イヴちゃんが1人で歩いていても、こんな事件は起きなかったものね。
「フィレンツェのように貴族街と平民街が分けられていないので、今のような男が多いのです。魔導馬車のチャーターとなるとシャーク商会しか知り合いがおらず、しかし短距離なのでわざわざ使うのも面倒で……」
「何度も魔導馬車をチャーターしていたら、逆に高上がりだものね」
「それで、あんたはどこの誰? こいつとは知り合い?」
「ヒルガオ商会のシスティーナ・リリー様です。この方は見たことが御座いません」
「なんで君が答えるんだよ……。まあ良い、とりあえずこいつの身柄は預かる。ナイフを持って近づいていたのは向こうで見ていたからね、ほぼ現行犯逮捕みたいなもんだ」
ん~……ボディーガード、魔導馬車のチャーター……。魔導馬車を買っても、結局今度は運転手が欲しいのよね。降りた時に声をかけられたら、それはそれでまた対処しないといけないし……。やっぱりボディーガードをつけるのが一番良さそうね。
「ん……? システィーナって、あのマギアのパイロットじゃないか!?」
「そうね」
「おお、あの時は本当にダメかと思ったよ。この都市を救ってくれて、本当にありがとう! 病気の妹を家から連れ出すことが出来なくて、シェルターに行けなくてね。最初に襲撃されるだろうってところに住んでいたから、本当にこれで終わりだって思ってたんだ!」
「…………妹さんを、大事にしてあげてね」
「改めてそうするよ。それじゃ、行ってよし! おら、お前はこっちに来い!!」
「いてええええ! いてえ、引っ張んじゃねえよぉお!!」
誰かに直接お礼を言われるのは、初めてな気がするわ。
鬼神の荷物係、平民の出、身の程知らず、穢れた血……。そんなことばっかり言われていたわね。あいつらは口ばっかりで、私と喧嘩したら勝てないってわかってるから吠えることしか出来ない可哀想な人達だったわ。貴族の血って、そんなに尊いものなのかしら。
「システィーナ様? どうなさいましたか?」
「お礼を言われたの、初めてだったから」
「あっ……」
「さて、まずはお家を見に行きましょう? ボディーガードはそれからにしたいわ」
「あ、はい。畏まりました」
ボディーガードと言っても、それじゃあ魔導馬車の運転手を雇うのと大差がないのよね。お金は沢山あるけど、無限にあるわけじゃないし、使い続ければいつかはなくなってしまうわ。それに、エメラルダ商会のように裏切られる可能性だってあるもの、信頼出来る人物じゃないと厳しいわ。
『――お姉ちゃん!』
「あら、エルちゃん? お勉強は?」
『今ね、並行して教えてるところ!』
「…………うん? どういうこと?」
『私の小さい分身をね、置いてきてあるよ! 1体しか出せないけど』
小さい分身……!? 小さいエルちゃん……!? ちびエルちゃん、ちびエルちゃん絶対可愛いわ。後でイヴちゃんにちびエルちゃん人形を作って貰おうかしら、金貨100枚ぐらいでやってくれないかしら。やってほしいわ。絶対に作ってほしい。
「システィーナ様、そろそろこちらの世界に帰ってきてください」
「ちびエルちゃん人形」
「はい、作らさせて頂きますね。お代は結構ですから……」
「んふふ……」
『いつも、こんなやり取りをしてるの……?』
「割と頻繁に……」
「たまによ? そんなに頻繁にじゃないわ」
「週に1回は頻繁だと思いますよ、システィーナ様」
だって、ちびエルちゃんよ? 絶対に欲しいわ、いつも使う鞄にぶら下げておきたい。予備も欲しいし、なんならマギアの操縦席にも置いておきたいわ。
――――バン……。
ん……? なにかしら、今の音。銃声に聞こえたけれど……。ここから遠くない、割と近くで聞こえた気がするわ。でも屋外じゃないわね。どの建物からだったか……。
「システィーナ様? まだお人形が」
「しーっ……。銃声よ、聞こえなかった?」
「え? いえ、ハンマーで叩く音なら聞こえますが」
『銃声なんて聞こえなかったよね?』
「間違いないわ。明らかにハンマーで叩く音じゃない、銃声だったわ」
――――バン、バン……。
「あの家よ。今、窓ガラスが割れたわ」
「それは、警備兵に通報したほうが……」
『事件が起きてるのかも、間に合わなくなったら大変!』
「急ぎましょう。イヴちゃん、さっきの警備兵さんを呼んできて頂戴」
「は、はい。畏まりました!」
あっ、ついイヴちゃんにお願いしちゃったわ。後で何か買ってあげないと……。それより今は、何が起きているのかを確かめるのが先ね。割れたのは2階窓、あそこから侵入しましょう。
『お姉ちゃん、あの家の鍵を開けてくるね!』
「窓から行くわ」
『窓ぉ!?』
問題が起きている場所がハッキリしているもの、内部構造がわからない建物の中を進むより、確実で素早い選択だわ。ジャンプすれば楽々届く高さだし。
「ふんっ……!!」
『わぁ飛んだ……』
窓を叩き割って突入よ。中に人は……1人だけ? 他に気配がない、どういうこと? 銃を撃ったのは間違いなくこの人ね。床に倒れ込んでいるけど……。
「お……お……」
「貴方、大丈夫? 何があったのかしら?」
「ぇ……? う……?」
『お姉ちゃん、この人だけ? あれ、凄い脚……。これって義足?』
「怪我をしているところは、多分なさそうね。部屋の中が暗いから正確にはわからないけれど。立てるかしら?」
「あー……。あー……」
『気絶しちゃった!!』
いきなり窓を割って入ったから、驚かせちゃったのかしら。それにしても、魔力を微塵も感じないわ……。頭に装着しているのは、魔導具かしら? 猫ちゃんのお耳みたいで可愛いわね。
『……お姉ちゃん、この人魔力がほとんどないよ? それと、体の中にも魔導具が入ってるみたい!』
「体の中に、魔導具……。まさか、胸のあたり?」
『うん! 胸のあたり! 心臓のところかも!』
「マズいわ、ペースメーカーよ。心臓を正しく動かすのを助ける魔導具よ!」
『え、じゃあ魔力を分け与えないと!』
「ゆっくり、慎重によ。一気に与えると、ショックで死んでしまうかもしれないわ」
『わわわ……。大変……』
この人、全身が魔導具だらけだわ……。この猫ちゃんのお耳は補聴器、脚は義足、右手も恐らく義手だわ。これを全部動かすとなると、当然魔力の消耗は大きいはず。魔石から魔力を取り込んで生活しているはずだから、その補充のタイミングを誤った?
いえ、違うわね……。魔力を補充できる魔石が、なくなってしまったのね。魔力切れに気がついて補充しようとしたけれど、魔石がなくて探している内に倒れたんだわ。
『あ、呼吸は落ち着いたみたい!』
「そのままゆっくり続けていて。お姉ちゃんは万が一にも侵入者がいないか、警戒を続けるから」
『うん、わかった!』
部屋も荒れているし、もしかしたら魔石を盗まれたのかも。とりあえず、私は家の中の安全を確かめるためにクリアリングをしようかしら。お家を買いに行くだけなのに、忙しいわねえ……。





