012 序曲
あのシスティーナ・リリーが、自殺なんてするはずがない。大罪人の死体だから、バラして魔獣の餌にしてやったなんて発表がされたけど、ありえねえ。
「ベニー、本気であの子が自殺なんてしたと思う?」
「ありえねえ。妹の後を追いたいって言ってたが、禁止されてるから出来ねえって言ってただろ」
「そうよね、妹ファーストメスゴリラが、約束を破るわけないわ……」
まずあのメスゴリラ、妹が好き過ぎる。いや、好きとかいうレベルを超えてる。妹の言う事なら絶対服従、全てを捧げてるって言っても過言じゃねえ。なんせ国王陛下の謁見に呼ばれてるっていうのに、妹とケーキを食べる時間を優先した女だ。覚悟が違う。
「まあ百歩譲って、ありえねえ話だが、まあ自殺したとしてだ。部屋と屋敷を綺麗さっぱり片づけてから死ぬか?」
「ありえないわよね。死ぬとしても、妹の作った物に囲まれて幸せそうに死ぬはずよ」
「そうだ、何もかも不自然だ。じゃあ殺されたか?」
「それこそありえないわ。誰が殺せるのよ、あの子を」
「毒を盛られても美味そうに食って、おかわりにまで盛られて、それでも死なずに全部食って、変だと思った犯人が毒の効果を確かめるのに自分でペロって死んだ事件を覚えてるよな」
「本当、何回聞いても笑っちゃうわそれ。化け物よ、怪物過ぎるわ」
あいつは毒で殺すなんて絶対無理だ。この世で最も強力な毒だって言われた、バルーンフィッシュから抽出した毒でも死なねえ。物理的にも殺せる気がしねえ。本気で殺すなら、マギアで集中砲火ぐらいしなきゃ無理だと思う。
「……メアリー、お前も同じ結論か?」
「多分、同じ結論だわ」
「だよな……」
絶対に、夜逃げした。あいつは危機察知能力が凄まじい、野生の勘っていうのか? 直感がとにかく当たるんだ……。つまり、この国はヤバいと思ったから逃げ出した。
そうなると、今ここにいる俺達はどうなる? 絶対ヤバい。このままじゃ何かしらの事件に巻き込まれるか、大騒動が起きる。あいつでもどうにもならないような、ヤバい何かが起きるってわけだ。俺の中ではそう結論が出た。
「今夜、俺は出る」
「行く宛はあるの?」
「ああ? ねえよんなもん、あったらお前に言ってると思うか?」
「そうよね……」
「お前も行く宛、ねえんだろ」
「まあ、そうね……」
ただ、この結論が出たところで行き場がない。ロムナはしょっちゅうドンパチやってた国だ、何人もぶっ殺しちまってる。向こうでマギア乗りなんかやったら、動きでバレる日が来るかもしれねえ。じゃあ細々と何処かで暮らすか? 今更そんなの性に合わねえ。マギア乗りは一生マギアから降りられねえ。死ぬ時は操縦室の中、あそこが棺桶って決まってんだ。
「……ジャルマーはどうだ?」
「最近、魔獣の動きが凄く活発だって言ってたわ。首都の近くでスタンピードも起きたって、噂では凄い魔法使いが大魔法で追い返したって聞いたけど……」
「辿り着くまでに群れと遭遇したら……」
「無理よ、あの怪物と一緒にしないで。あの子は群れに襲われても服がボロボロになるぐらいで、ケロッとした顔をして生き残ってると思うけど」
「俺達は凡人だ。鬼神から鬼神が抜けた、いわば鉄くず野郎の集まりだ……」
「それに、このまま任務を続けても……」
そうだ、それが一番の大問題だ。それがヤバいんだよ。
今まで俺達のタンクをしてたのがシスティーナだ。被弾役、敵の注意を引き付けて派手に暴れる役があいつだった。そのポジションが抜けたってことは、今度狙われるのは俺達ってことになる。残念だが俺達は腰抜けの集まりで、鬼神の鬼神じゃない部分って自覚がある鉄くず乗りだ。
死ぬ。次にロムナの奴らと当たったら、確実に誰かが死ぬ。あいつらは強い……。半端じゃない、特にネームレスとベヒモス!! あいつらに遭遇したら、全滅もありえる。
「次にネームレスかベヒモスに遭遇したら、生きて帰れると思うか?」
「あの子が全力を出しても五分五分よ……!? まあ、機体が古かったのもあって、性能差もあったかもしれないけど……」
「あれも可哀想な話だ。平民の出ってだけで、最新型に乗るのをジジイ共に却下されて、乗るべきやつが乗れねえんだもんな……」
「あんな馬鹿みたいに強い補給係がいるなら、じゃあ私達は何? 荷物か何かって感じよ」
「実際、お荷物だっただろ?」
「まあ、違いないわね……」
システィーナの役目は、一応補給係ってことになってた。武器や弾薬の入ったコンテナを背負った、後方支援機ってことだな……。だが実際のポジションはタンク、俺達の先頭だ。
半端な弾はあいつに当たらない。ガーディスっていうオリジナルの防御魔法らしいが、そいつを機体の周囲に展開するんだ。直撃が避けられない時、ピンポイントでそこに展開する。あれのせいでとにかくカスリ弾しか当たってくれない。最初に当たった時のネームレスの連中、ビビってたなあ。当てても当てても沈まない旧型機、回線がオープンのまま『なんだコイツは、化け物か!?』って叫んでた奴も居たな。
そして俺達はあいつの、お荷物だ……。何回直撃コースをカバーして貰ったか、俺もメアリーも、棺桶に何回も足を突っ込んだのにまだ生きてる。毎日が棺桶の上でフォークダンスでもしてる気分だった。踊って貰ってるシスティーナに見捨てられたら、即棺桶行きだぜ。
「……あいつ、どこに行ったんだろうな」
「さあね、ロムナじゃないのは確かでしょ」
「わかんねえぞ? ロムナは冷徹な奴が多いって話だから、敵ながらクソ強えってなれば引き抜きに来るかもしれねえぞ?」
「…………否定できないわね」
「だろ? どこに行ってもやっていけるさ、あの腕前にあのゴリラパワーだ……」
どこに消えちまったんだよ、自殺なんて絶対に信じねえからな?
「オーランディアは、どう……?」
「オーランディアか……」
この国の真北、ジャルマー共和国と友好国のオーランディアか……。小さい国だが、フィレンツェのちょっかいに負けず今までやってきてる国だ、それにマギアも良いのがあるって話を聞いたことがあるな……。
「荷物は?」
「あの子から貰った、ちっちゃい鞄の中」
「もう行く気満々じゃねえかよ」
「そういうベニーだって、片付け終わってるじゃない」
「まあ、お前が来なきゃ1人でどっかに行ってたところだからな」
行くか、オーランディア。メアリーはちょっと負けん気が強い、熱くなるタイプの女だが、こうやって俺のところに来る辺り物事をよく考える奴だ。こいつとなら、やっていける。
「……行くか」
「どうやって?」
「足しかねえだろ、特殊部隊だろ?」
「魔導馬車は?」
「最近、警戒されまくってる。システィーナの時は使えたかもしれねえが、俺達は無理だ」
「仕方ないわね……」
辛い旅になるが、ここに居たって最悪の未来が待ってるだけだ。最高の未来ってのは、自分から歩み寄っていかなきゃ辿り着かねえ。あのクソったれの鬼総隊長が良く言ってたな。クソ、こんな時に教訓として役に立ちやがって……。感謝するぜ、オッサン。
「最高の未来のために、行動開始だ」
「なにそれ、レネガル総隊長の真似?」
「おいおい、総隊長はエッケラルドだろ?」
「あのヒョロガリ気障男、総隊長なんて認めないから!」
「だよな。あのクソ野郎はガチでいけ好かねえ」
あのヒョロガリクソ野郎、絶対レネガルになんかしやがったに違いねえ。最近貴族やら上層部やらに病死と毒殺が多すぎんだよ、あいつが来てからよお……!! システィーナの毒殺未遂……というか、毒殺失敗事件か。あれだって首謀者がわからねえ内に、犯人が解毒薬を拒否したんだかで死んだが、実際のところはどうだか……。
とにかく、こんな国には居られねえ。俺達は鬼神を抜けさせて貰う! まあ最も、鬼神の鬼神たる部分が既に抜けてるから、事実上解散してるって言っても過言じゃないんだけどな!
「……アディオス、フィランツェ」
「ねえ、あんたって、実はエスパイナ人だったりする?」
「ん? ああ、そうだが?」
「実は私もよ」
「ほーん……」
「なによ」
「別に?」
なんだ、メアリーも故郷が一緒なのかよ。やっぱこいつとはこれからも上手くやっていけそうだな。それじゃ、オーランディアに到着したらエスパイナの料理で一杯やるとするか。





