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限界オタク聖女が敵の拗らせゾンビ男子を溺愛してみたら  作者: フオツグ
限界オタクと妹と。

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魔王襲来

 イオリとノヴァはヴェニュスに警戒しながらその場を離れ、近くの騎士にヴェニュスのことを報告した。 

 そして、大きな騒ぎにならないように対処を頼んだ。

 ヴェニュスは簡単に捕まらないだろう。

 イオリ達に正体を明かしたのも、逃げる算段があるからに違いない。

 イオリはただ、悪いことが起きないことを願った。


 日が暮れ始めた頃、イオリとノヴァは丘に登った。


「ここからだと街と空がよく見えるね」


 二人で沈んでいく夕日を見ながら、イオリは言った。


「こんな風にノヴァくんと街中を歩けるようになるなんて思わなかったよ」

「そんなの、オレが一番驚いてらあ」


 ノヴァはヘッと笑い、広場を見下ろした。

 たくさんの人々は言葉を交わし、笑い合い、普通に生活している。

 ノヴァは眩しそうに目を細めた。


「ゾンビが昼間に街を歩いてても、みんな逃げたりしねえ。まるで、当たり前みたいに。夢でも見てるみたいだ」


 ノヴァはイオリに向かって微笑んだ。


「ありがとな、イオリ」


 眉を下げて、くしゃりと笑うノヴァに、イオリも嬉しくなって、微笑みを返した。


「ノヴァくんの努力のおかげだよ」


 ノヴァが優しかったから、諦めなかったから、ここまでこれた。

──ノヴァくんがみんなに認められて、仲間に迎え入れられて、こんなに嬉しいことはない。


「でも、オレじゃイオリを守れない」


 一転、ノヴァは苦しそうに言った。


「ネプチューンと戦った時、オレは全く戦えなかった。オレは魔物との戦いで足手纏いになるだけだって、痛感したよ」


 ノヴァのスキル《死霊の指揮者(ネクロマンス)》は死体を操るスキルだ。

【墓場の森】以外では、全く使い物にならない。

 不気味なスキル。背徳的なスキル。無意味なスキル。

 何故、こんなスキルを発現してしまったのか。

 ノヴァはこのスキルを手に入れてから、ずっと答えのない問答を繰り返している。


「もっと使えるスキルだったら、【星の守護者】と共に魔王と戦って、イオリを守れたのに。オレはどうしたって、【星の守護者】にはなれない……」


 ノヴァにとって、【星の守護者】に選ばれなかったことは、非常に悲しい出来事だった。

 兄は選ばれて、自分は選ばれなかった。

 両親にも疎まれた。

 その苦しみはノヴァにずっと付き纏っている。


「ノヴァくん……」


 イオリにはどうにも出来ないことだ。

 世界のルール、世界設定……それらに自分達は決して関与出来ない。

 とてももどかしかった。

 自分が神様だったら、このゲームのシナリオライターだったら、この世界の人間だったら、ノヴァを苦しめずに済んだかもしれないのに。

──ノヴァくんを幸せに出来たのに。


 そう思ったとき、不思議な感覚がした。

 心臓がじりじりと熱い。

 しかし、不快感はない。

──この感覚って、もしかして……。


「それでも、諦められないんだ、イオリのこと」


 ノヴァはいつの間にか、イオリの方を向いていた。


「え……?」


 嫌な予感がした。

 この後に続く言葉が怖かった。

 だって、それを聞いたら、今の関係が終わってしまう。

──君の隣は居心地の良い。このままの関係で良い。それ以上は望まない。……いや、望みたくない。

 ノヴァの中で、自分の存在が大きくなっているのは感じていた。

 それを自分は見ないふりをしていた。

──だって、私は貴方に必要ない。

 イオリとノヴァは常識も、世界観も、まるっきり違う世界に生まれた。

──私はいつか、元の世界に帰るんだよ。君を置いて。ノヴァくんには幸せになって欲しいの。私のいない世界でも。

 だから、それ以上は言葉にしてはいけない。


「好きだ、イオリ」


 ノヴァの真剣な眼差しに、イオリは射抜かれてしまった。

 貴方の気持ちを受け取ってはいけないのに。

 お互い、辛くなるだけなのに。

 イオリは緩む口元で言った。


「ノヴァくん、私ね──」


 その瞬間、フッと、空が暗くなった。

 まるで、世界の灯りを落としたようだった。

 満点の星空が広がり、何事かと人々が空に目を向けた時だった。

 空に裂け目が出来た。

 その裂け目は徐々に広がっていき、そして、開いた。

 光すら通さない漆黒の空間が広がっていた。

 イオリはそれが何か知っている。

 向き合ったことがある。


「魔王……?」


 魔王軍のボス──魔王に違いなかった。


「なんで魔王様が人間の地に……!?」


 ノヴァは目を見開き、空に浮かぶ魔王を青ざめた顔で見つめた。

 魔王が口を開いた。


「聖女よ。元の世界に帰る時が来た」


 魔王の声が地面を揺らした。

 そして、ふわり、とイオリの体が浮いた。


「えっ……」


 戸惑う間もなく、イオリの体は空に向かって引っ張られた。


「わあああああ!?」

「イオリ!」


 ノヴァがイオリの手を掴んだ。


「ノヴァくん……! 離して! ノヴァくんまで巻き込んじゃう!」

「絶対に離さねえ……! 離すもんかよっ!」


 ノヴァは離すまいと両手でイオリの手を握った。

 地面からノヴァの足が離れた。

 それでも、ノヴァはイオリを見つめて、離さない。

 ノヴァのためには手を離さなければいけないのに、イオリはそれが怖くて出来なかった。

 二人の体は空に引っ張られ、宙に浮く。

 ノヴァはイオリを空中で抱き締め、共に夜空へと吸い込まれて行った。


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