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限界オタク聖女が敵の拗らせゾンビ男子を溺愛してみたら  作者: フオツグ
限界オタクと妹と。

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限界オタクがダブルデートをしてみたら

 イオリは力の覚醒のため、ヒナは力を開花させるため、アクアーリオのアトリエに通っていた。

 アクアーリオに「ガサツ」だの、「集中力が足りない」だの、散々言われていたが、ヒナは今日もアトリエに向かう。

 げっそりとした顔をしながら。


「頑張ってるわね、妹聖女ちゃん」


 ヴァルゴがヒナの丸まった背中を見て言った。

 イオリ達がアトリエに向かう際、必ず【星の守護者】が護衛する。

 今日の護衛はヴァルゴであった。


「びっくりですよ。ヒナがこんなに通い続けるなんて。いつもは三日も持たないのに」


 スイミングスクール、ピアノ教室、部活、塾……どれもヒナ自身が「やりたい」と言って始めたが、続いたことはなかった。

「代わりにお姉ちゃんが行ってよ」なんて言われたこともある。

 ヒナの飽き性には呆れたものだった。

 そんなヒナが、今や自ら進んでアトリエに向かっている。


「これが成長って奴なんですかね」


 イオリはじんわりと目頭が熱くなった。


「反省もあるのかもね。何にせよ、良いことだわ。リブラちゃんもこれにはニッコリだもの」

「に、ニッコリですか……?」


 いつも仏頂面のリブラがニッコリ笑う姿をイオリは想像出来なかった。


 □


 アクアーリオのアトリエに到着した。

 イオリは挨拶をしながら、アトリエの中に入る。

 出迎えたのはアクアーリオではなく、【天秤座の守護者】リブラだった。


「リブラさん!」

「お疲れ様です、聖女様方」


 リブラの横にはもう一人──イオリの愛する推しであるノヴァがいた。


「の、ノヴァくん!?」

「久しぶり、イオリ」


 ノヴァはイオリに笑いかけた。


「久しぶり! こっちに帰ってきてたんだ?」

「壁の修復の目処が立ったから休みを貰った。それに……イオリがオレを必要としてるって聞いたからさ」


 ノヴァは照れくさそうに頭をかいた。


「それはえっと……」


 イオリはどう説明するか悩んだ。

 聖女の力には強い絆が必要で、この世界でイオリと一番仲が良いのはノヴァだということ。

 もしそう説明して、「別に仲良いと思ってないけど」とノヴァに言われたら立ち直れない。

──会えたのは嬉しいけど、心の準備が……。


「ああ、皆、到着したのか」


 アトリエの奥からアクアーリオが顔を出した。


「ようこそ、生きる屍よ。我がアトリエへ」


 アクアーリオはノヴァに言った。


「お邪魔します、【水瓶座の守護者】様」

「堅苦しいのはなしだ。ボクのことは『アクアーリオ博士』と呼びたまえ。『天才アクアーリオ様』でも構わん」

「では、『博士』と呼ばせて貰いますねえ」


 ノヴァはおちゃらけたように言った。


「お近づきの印に……。まずは指を二、三本頂けるかな?」

「申し訳ありませんが、ゾンビの肉体は再生しないので……差しあげられません」

「ハハァン。つまり、毛髪を取り過ぎたらハゲるんだな」

「はい。ハゲます」


 ノヴァは至極真面目な顔で言った。

 どうやら、事実らしい。

──ノヴァくんの可愛いふわふわ髪、なくなっちゃうのは困る! 彼の髪の扱いには十分気をつけないと……。

 イオリはノヴァの髪を見て、真剣にそう思った。


「博士がノヴァくんを呼んだんですか? 私を喜ばせるため……じゃあないですよね、流石に」

「当然だ」


──当然なんだ……。

 わかってはいたが、イオリはがっかりした。


「一つ、聖女の力の実験をしようと思ってね。えー、キミとキミ」


 アクアーリオはイオリとノヴァを指差した。


「キミとキミ」


 次にヒナとリブラを指差した。


「城下町では今、マルシェをしているようだ。行きたまえ。デートという奴をしてこい」

「で、で、で、デート!?」


 イオリ、ヒナ、ノヴァは口を揃えて叫んだ。


「なんでデートを!?」

「デートは絆を深めると聞いた。人間は恋人となる前にデートをし、恋人となったあともデートをする。ふむ、不思議な習性だ。試す価値は大いにある。帰ってきたら報告書を書くように」

「報告書って……博士は行かないんですか?」

「外出は苦手だ……非常に疲れる。人間往来が激しい場なら尚更」

「うーん。インドア派……」


 口ではそう言いつつ、イオリは強く共感した。

 イオリも人の多い場所は苦手だ。


「まあ、そう気負うな。ただの買い物だ」


「楽しんでくると良い」とアクアーリオは笑顔で見送った。


 □


 こうして、イオリとノヴァ、ヒナとリブラはダブルデートをすることとなった。

 広場では数々の店が立ち並んでいた。

 店先に並ぶのはアクセサリー、天然石、雑貨などのハンドメイド作品だ。

 手作りマルシェと呼ばれるもののようだ。

 とても明るく、活気がある。


「リブラさん! こっちよ!」


 ヒナは楽しそうにリブラの手を引いて走っていた。


「お待ち下さい、ヒナ様。そんなに走っては転んでしまいます」

「転ばないわよ! もう子供じゃないもの──へぶっ!」


 ヒナは体躯の良い男性にぶつかり、尻餅をついた。

「すまんな、嬢ちゃん」と言って、手に大荷物を抱えていた男性は、急ぎ足でその場を離れていった。


「いったぁい」


 ヒナは打ちつけた尻をさすった。


「だから、言ったでしょう」


 リブラはため息をついた後、ヒナに手を差し出した。


「ヒナ様、お手を」

「……ありがと」


 ヒナはリブラの手を掴んで立ち上がった。

──うん! 結構、良い雰囲気かも!

 イオリは二人の様子をニコニコとしながら見守っていた。


「まさか、妹聖女様が兄貴に惚れてるとはね……」


 ノヴァが小声で呟いた。

 ノヴァにはヒナがリブラに恋をしてること、リブラもヒナに気がありそうなことを話してある。

 イオリが二人を応援したいと思っているとも伝えた。

 ノヴァは止めなかった。

 恋愛は二人の自由だと成り行きを見守ることにしたようだ。


「まあ、兄貴は頭も良いし、地位も信頼もあるし、誠実だし……惚れんのもわかるけど、二人の相性は良くないと思ってた」

「いつどこで恋に落ちるかわからないもんだね」


──かくいう私も、いつの間にかノヴァくんに落ちちゃってた訳だけど……。

 イオリはノヴァを横目で見た。

 久しぶりに会えたノヴァにイオリはかなり舞い上がっていた。


「あ! これ可愛い!」


 イオリは店先に並んでいた一つのメガネチェーンに吸い寄せられた。

 それにはサングラスの形のチャームがついていた。


「メガネにつけるもんなのにサングラスのチャームがついてんのか」

「サングラスと言ったらノヴァくん! 絶対買いだよ、これ! 店主さん、これ下さい!」


 まいどあり、と言って店主は代金を受け取り、商品を綺麗な紙袋に入れ始めた。


「ヒナ、リブラさんにもメガネチェーンをプレゼントしたらどう──」


 そう言って、ヒナの方に振り向いた。

 しかし、そこにヒナとリブラの姿はなかった。


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