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限界オタクが戦闘を見守ってみたら

「おいおい、【星の守護者】ってのも大したことねえなァ!?」


 ノヴァは勝ちを確信して、高笑いをする。

 騎士団長レオ、魔導師のジェミニとポルックスもゾンビの大群に押し潰されてしまった。

 残るは王子べリエと妹聖女ヒナの二人だけとなった。


「みんなやられちゃったわ! ヒナを守って、王子様!」

「騎士団長も双子魔導師もやられた……。わ、私はどうすれば……」

「何ボーッとしてんのよ! さっさとあいつを倒して!」

「む、無理だ……。私は【星の守護者】になったばかりで……。魔物相手に戦うなんてとてもじゃないが出来ない……!」

「ハア!?」


【牡羊座の守護者】べリエ。

 彼は最後に選ばれた【星の守護者】だ。

 最近まで、王城の中で蝶よ花よと育てられていた箱入り坊ちゃんである。

 突如、【星の守護者】に選ばれ、魔物と戦えと言われたばかり。

 国を背負って魔物と戦うには、責任も自覚も覚悟もない。

 ストーリーが進めば、次期王としての自覚が出て来て、心強い仲間の一人になるのだが……。

──チュートリアルステージ【墓場の森】に乗り込む時点では、まだ覚悟が決まっていない……。

 ベリエは決して戦わないだろう。

 イオリはノヴァが勝利したことにホッと胸を撫で下ろした。


「フンッ! どいつもこいつも使えないわね。しょうがないわ……」


 ヒナは肩から提げたカバンの中から一つ小瓶を取り出す。

 小瓶の蓋を開けて、中身をレオと双子に向かって浴びせかけた。

 続いて、手を合わせ、指を組み、祈るようなポーズを取る。


「星の神様、彼らを癒して……」


 ヒナがそう言うと、倒れていた騎士団長レオと双子魔導師ジェミニとポルックスが起き上がる。


「あれ……? 俺は一体……」

「僕、殺されたはずじゃ……」

「あんなに痛かったのに……」


 三人は自分の体を見て、困惑している。


「ふうん。これが聖女サマの力か……」


 ノヴァは顎に手を当て、聖女の力を観察しているようだ。


「さあ。ヒナを守って? 使命でしょ」


 ヒナは無邪気に笑う。


「で、でも……今の僕達じゃ勝てないよ」

「一度王都に引き返して、態勢を立て直してからの方が良いです……」


 双子が震える声で、ヒナにそう言った。

 ヒナは目を吊り上げた。


「駄目よ! ここには無理を言って来たのよ! ヒナが怒られるじゃない!」


 双子はヒナの大声に肩を飛び上がらせた。


「聖女のヒナが怪我を治してあげたんだから、きびきび働きなさい!」


 双子は怯え切った目でヒナを見ている。


「そっちもゾンビみたいだなァ」


 ノヴァはけらけらと笑う。


「ここは墓場。遊び相手は山程いる。こいつらもまだまだ遊び足りねえみたいだぜ?」


 ゆらりと体を揺らしながら、部下ゾンビ達が立ち上がる。

 双子は恐怖で立ち上がることさえ出来ない様子だった。

 体を寄せ合い、ガタガタと震えている。

 そのとき、騎士団長レオが立ち上がり、口を開いた。


「……べリエ様、撤退の指示を」

「え……」


 べリエが驚いたようにレオを見る。


「ちょっとレオ団長! 何言ってるの!」

「俺は聖ソレイユ王国、流星騎士団の団長レオだ。俺がこの身を捧げると誓ったのは、聖ソレイユ王国の国民にだ。異世界から来た聖女にじゃない!」


 レオは胸に拳を当ててそう叫んだ。


「王国民を救うためならばいくらでもこの命捧げるさ。だが、命を賭してまで、姉聖女を取り戻す必要があるとは到底思えない」

「ちょっと冷たくない!? ヒナのお姉ちゃんなのよ!?」

「それは申し訳ない。しかし、これが俺の正直な気持ちだ」

「うっ……」


 ヒナは顔を歪めた。


「そうだよ! ヒナ姉ちゃんだけで良いじゃん!」

「姉聖女なんか放っておいて帰りましょうよ!」


 双子もレオに賛同する。

 この場から逃げたい一心でだろう。

 ヒナは苦い顔で爪を噛む。

『穀潰し』、『根暗』、『怠け者』。

 イオリがそう思われるように仕向けたのはヒナだ。

──ヒナが私を取り戻そうと躍起になるのは何故?


「べリエ王子、決断をお願いします」


 騎士団長のレオは主君のべリエに問う。

 双子もヒナもベリエの回答を待っている。

 べリエは重い口を開いた。


「撤退は……しない」

「べリエ様!」


 双子が文句を垂れる。


「レオ、ジェミニ、ポルックスはヒナ様をお守りしろ」

「べリエ様はどうされるんです?」

「……私があのゾンビを制圧する」


 べリエは覚悟を決めた目でそう言った。

 ヒナは自分の思い通りになったからか、表情を明るくさせた。

 対して、双子は浮かない顔をする。

 三人がかりでも太刀打ち出来なかった相手に、たった一人で制圧するなど不可能だ、と。


「べリエ様の御心のままに」


 レオは胸に手を当て、べリエに頭を下げた。


「ですがベリエ様、俺だけでもベリエ様のお側にいさせて下さい」


 べリエは目を見開いた後、微笑んだ。


「……ありがとう、レオ」

「──話は終わったかぁ?」


 ノヴァがへらへらと笑いながら、ベリエ達に問いかける。


「全く……。待ちくたびれたぜ。なあ?」


 ノヴァは部下ゾンビに語りかける素振りを見せる。

 部下ゾンビは何の話をしているかわかっていないような顔でノヴァを見た。


「随分と余裕そうだな。話している最中に襲って来ないなんて」


 レオは自身の剣を持ち直した。


「あー、そういう手もあったか。ははっ。こりゃ失敬……。今度からそうさせて貰うわ」

「……舐めやがって」


【星の守護者】達は歯噛みする。

 しかし、イオリは違った。

──話の邪魔をする発想が本当になかったんだろうな。ノヴァくん、育ちが良いから……。

 実際、ノヴァは本当に思いついていなかった。

 二人が言葉を交わしている最中、べリエは震える手を握り締める。


「……大丈夫。私なら出来る」


 べリエは自分にそう言い聞かせ、大きく息を吸った。


「──《羊が一匹》」


 ベリエがそう言うと、空から人間が降ってくる。

 降ってきた人間はゆっくりと地面に着地し、二本足で立っている。

 その人物はべリエと瓜二つだった。


「分身……!?」

「《羊が二匹》」


 べリエがもう一人、空から舞い降りる。


「《羊が三匹》。《羊が四匹》。《羊が五匹》……」


 数字が増えると同時に、べリエも増えていく。

【牡羊座の守護者】べリエの固有スキル《羊が一匹》。

〝自分自身〟を召喚するスキルだ。

 このスキルで増えたべリエは分身ではなく、全て本物。

 各々が思考し、自立して動く。

 欠点は、感覚が共有されていることだろう。

 一人のべリエが傷付いたら、全てのべリエが痛みを感じてしまう。

 人数を増やしても、的が増えるだけだ。

 肉壁には出来ない。


「──《羊が百匹》」


 気づけば、百人のべリエの軍勢が出来上がっていた。

 号令もなく、べリエが走り出す。


「たった百人? 少ねえなァ。こっちは千体以上いるんだぜ?《死霊の指揮者(ネクロマンス)》!」


 千体のゾンビの軍勢が百人のべリエ達に向かっていく。

 先頭のゾンビがべリエに接触する間近、唐突に百人のべリエは姿を消した。


「は……」


 ノヴァは状況が飲み込めず、固まってしまう。

 だから、気づくのが遅れた。

 その背後に、レオが迫っていることに。


「くっ──!」


 ノヴァが振り向く前に、レオがノヴァの背中を斬りつける。


「《獅子奮迅》」


 レオの固有スキル《獅子奮迅》が発動。

 ノヴァはレオの獅子の覇気に追撃された。

 ノヴァは両膝をつき、その場に倒れる。

 司令塔を失ったゾンビ達は、その場をうろうろと彷徨い始めた。


 べリエの軍勢とゾンビの軍勢には違いがある。

 全てが自立して動くか、ノヴァの指示だけで動くか。

 ノヴァの目さえ欺ければ、ゾンビは対応出来ない。

 百人のべリエはただの目眩し。

 真打ちは、レオだ。

 全てが本物のべリエ。

 作戦も即座に共有出来た。


「この作戦が成功しなければ、撤退するつもりだった……」


 べリエは汗を拭い、ホッと息をつく。

 ヒナ達は作戦成功に沸き立った。

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