限界オタクが妹の恋を応援してみたら
イオリはヒナとリブラの顔を交互に見る。
ふとシュタインボックの言葉を思い出した。
『聖女の力は絆を結ぶことで、願いを力に変える』──。
ヒナが今思いを寄せているのはリブラだ。
自分でそう言っていたのだから、間違いない。
──つまり、聖女の力を開花させるため、という名目で、合法的にヒナの恋を応援出来るのでは!?
イオリはそう閃いたのである。
今この場には丁度、リブラがいる。
どうにかして、ヒナとリブラを二人っきりに出来ないかと考えて周囲を見渡すと、錬金釜が目に入った。
ヒナは聖女の力を開花させるために錬金術を行う。
確か、リブラも風の学園で錬金術を習っていたはずだ。
──この設定を使わない手はない!
「リブラさん、ヒナの錬金術を見てやってくれませんか? 今日始めたばかりで、一人だと不安みたいなんです」
これならば、自然な流れで二人きりに出来る。
「お姉ちゃん?」とヒナは不思議そうな顔でイオリを見た。
──ヒナの恋、応援してるよ!
そういう意味を込めて、イオリはバチン、とウインクをした。
ヒナは何か変なことを考えているな、というなじとっとした目でイオリを見た。
イオリは解せなかった。
「錬金術ですか? それならば、適任者がここにいらっしゃるではないですか」
「ヒナ、アクアーリオ博士とは折り合いが悪いみたいで……」
「……ああ、なるほど」
リブラはちらりとアクアーリオを見た。
「なるほどとは何だね」とアクアーリオは不服そうに言った。
日頃の言動を振り返ればわかることだ。
「今日だけでもお願いします! ね?」
「やめておきたまえ。そいつは『風の学園始まって以来の天才』などと言われているが、かなりガサツな人間だ」
アクアーリオが呆れ顔で言った。
「一応、錬金術は一通り出来ますよ」
リブラはやる気があるようだ。
「『一応』では駄目なのだ。錬金術は完璧でなくては。良いか? 錬金術はな──」
「博士!」
イオリはアクアーリオの言葉を遮り、彼の耳に口を寄せ、こそこそと耳打ちした。
「ヒナとリブラさんを二人っきりにしましょう。聖女の力を開花させるために必要なことなんです」
「……ほう?」
「ヒナはリブラさんに惹かれているんです。そばにいさせたら、聖女の力が開花するかもしれませんよ」
アクアーリオは口の端を上げた。
「それは興味深い。軽薄な女が堅物男に惹かれるとは。一体、どういう仕組みだ? 妹聖女クンから詳しく話を聞いておきたいな……」
そう言いながらアクアーリオはヒナに歩み寄ろうとする。
イオリは彼の腕を掴んで引き留めた。
「だ、駄目です! ここだけの話にしておいて下さい! 今聞いたら、リブラさんにヒナの思いがバレちゃうでしょう!?」
「何故だ? いつかは伝えるんだろう?」
「そうだとしても、他人の口から言うものじゃありません!」
「伝えない好意に何の意味がある?」
「わかってないですねえ、博士。相手を思って悩むのも恋なんですよ!」
イオリは自信満々にそう言ったが、彼女には告白の経験も恋人がいた経験もない。
他人の恋だからこそ、あれこれ想像して好き勝手に言えるものなのだ。
「ハア……。恋というものは摩訶不思議なものだな」
アクアーリオは呆れた顔をした。
恋心のわからない男にイオリは辟易とした。
「ともかく! 私達は二人が良い雰囲気になるようにサポートしましょう。こっそりとです!」
「わかったわかった」
アクアーリオは両手を上に上げて、降参のポーズをとった。
彼はリブラに向き直り、こう言った。
「リブラ氏、妹聖女クンの指導は頼む」
「わかりました」
リブラは頷いた。
「リブラさん、忙しいのに……良いの?」
ヒナはリブラに恐る恐る尋ねた。
「構いません。お二人のお役に立てるのなら」
「……そう」
リブラの答えを聞いて、ヒナは暗い顔をした。
お二人のため、聖女の力のため、そして、国のため……。
──結局、ヒナは眼中にないのかな……。
イオリも落ち込んだ。
「良かったわね、リブラちゃん」
ヴァルゴはウフフ、と笑った。
「……何が言いたい」
リブラはヴァルゴを睨みつけた。
ヴァルゴは「何でもないわ」と言って、それ以上は詳しく言及しなかった。
イオリはそのやり取りの意図がわからず、ヴァルゴにこっそりと尋ねた。
「ヴァルゴ姉、今のってどういう意味です?」
「ここだけの話……リブラちゃん、妹聖女ちゃんのこと好きなのよ」
「え!」
イオリは思わず、大きい声を出してしまった。
ヴァルゴは唇に指を当てた。
「しー、静かに。妹ちゃんに知られたら、リブラちゃんに怒られちゃうわ」
「それ、本当なんですか……?」
「妹聖女ちゃんが夜一人で泣いてるって知ったとき、リブラちゃん、なんて言ったと思う?」
『なんて声をかけたら良いかわからない』
『私の言葉は人を傷つける』
『悔しいが、ベリエ殿下に任せるしかない』
「って言ってたのよ〜!」
「きゃー!」
イオリは頬を赤くして、黄色い悲鳴を上げた。
他の人達は訝しげにイオリとヴァルゴを見た。
──なんだ。ヒナ、脈ありなんじゃない! 押せばいけるよ、ヒナ……!
イオリはヒナにガッツポーズを送った。
ヒナはまた変なこと考えてるな、と苦い顔をした。




