限界オタクが博士に協力してみたら
「さて、イオリクン……キミには妹聖女クンとは別のことをして貰う」
「何でしょう?」
アクアーリオは錬金術具を取り出した。
「これは『聖女の力チェッカー(仮)』。聖女の力の強さを測れる代物だ」
銃のようにグリップが付いていて、ヘッド部分には数値を表示するのであろう表示板がついていた。
──なんか、球速を測る奴に似てるかも……。
アクアーリオは徐にナイフを取り出し、自身の指を斬った。
血が滲み出る。
イオリはヒッと悲鳴を上げた。
「博士、何を!?」
「さあ、イオリクン、聖女の力を見せてくれたまえ!」
血が垂れる指を差し出し、アクアーリオは狂気を含む目でイオリを見た。
──ひええ、マッドサイエンティスト……!
「わかりました。聖女の力よ、博士の傷を癒して……」
アクアーリオの傷口の周辺に星が瞬く。
「回復量五〇六.九……ふむふむ。低級ポーションレベルか」
「へえ、凄いですね! これってどんな仕組みなんですか?」
「光量と傷の治る速度で算出している。画期的だろう?」
「光量……実はこの聖女の力、光らせるだけも出来るんですよ」
「は?」
「光れー」
イオリは手元を光らせた。
アクアーリオは眩しさに目を細めた。
「クッ……なんだこれは! 百……千……十万!? 凄い……凄過ぎる──とんだ粗悪品を作ってしまった」
アクアーリオはぽい、と『聖女の力チェッカー(仮)』を放り投げた。
「ええー!? それ、ぞんざいに扱って良いもんなんですか!?」
「あとで分解して、錬金術の材料するから構わん。錬金術はトライアンドエラーの繰り返しだからな。不要なものはさっさと別物に生まれ変わらせるべきだ。今の話はメモしておこう。『聖女の力は星の瞬き加減では変わらない』……と」
アクアーリオは床に落ちていた紙の切れ端にサラサラとメモをした。
それをすぐに懐にしまう。
「聖女の力の覚醒……シュタインボック氏が言うには、『覚醒には絆の強さが鍵になる』とのことだった」
「そうみたいです」
「ボクは絆というもののことをよく知らない。聖女の力の覚醒に関する記述もほとんど残っていない。難題だ……」
「やはり、博士にも難しいんですね……」
「だからこそ、知りたい。聖女の力のメカニズムを明らかにしたい! ボクの手で!」
アクアーリオは興奮を隠しきれないようだった。
「色々と試してみるしかあるまい。まずは──」
「──お待たせしました」
「……ああ、来たか。入りたまえ」
アトリエにリブラ、ヴァルゴ、キャンサーが入ってきた。
どうしてここに、と尋ねる前に、アクアーリオが言った。
「まずは──【星の守護者】を用意した」
「【星の守護者】用意した!?」
イオリは思わず復唱してしまった。
用意しようとして出来る人達ではない。
皆、自分の仕事や【星の守護者】の役目で忙しいはずだ。
「あのー……皆さん、今お忙しいんじゃ」
「イオリ様のお役に立てるのなら、いつでも飛んできます」
リブラはいつもの硬い表情で言った。
「アタシは偉い人じゃないし、全然忙しくないわ」とヴァルゴ。
「小生はほぼニートですからな」とキャンサーは微笑んだ。
「もっと喜びたまえ。彼らとは特別仲の良いのだろう?」
「そ、そうとも言えません」
リブラは推しの兄。
ヴァルゴは姉御のようなもの。
キャンサーは趣味仲間。
特別というほど特別ではない。
ヒナはリブラを見つけると、顔を赤くして逸らした。
──そういえば、ヒナはリブラさんに惚れているんだったね。
「さあ。皆の衆、イオリクンと手を握れ!」
アクアーリオはワクワクした顔でビシリ、と指を差した。
「博士、まずは、我々が呼ばれた理由を説明について教えて頂けませんか」
リブラが冷静に尋ねた。
「なんだ。手を繋ぎたくないのか?」
「聖女様方のためと言われて呼ばれましたが、私は詳しい事情までは知りません。話を聞いて必要だと判断すれば、いくらでも手を繋ぎますが」
「イオリクンの聖女の力を覚醒させるためだ。覚醒にはどうやら深い絆が必要らしい」
「深い絆……ですか」
「なら、他に適任な子がいるじゃない?」
ヴァルゴが口を挟んだ。
「ほう? 誰だ?」
「決まってるでしょう? ノヴァちゃんよ」
「ねえ、二人とも?」とヴァルゴはリブラとキャンサーに同意を求めた。
リブラは頷き、キャンサーは肩をすくめた。
「ゾンビクンだと? 覚醒は【星の守護者】だけがするものだ。数少ない古書にもそう記してあった」
「意外と視野が狭いのねえ、博士ちゃん」
ヴァルゴはうふふ、と笑った。
「アナタが覚醒させたいのはアタシ達じゃなくてイオリちゃんでしょ? だったら、イオリちゃんの気持ちを優先するべきじゃない? アタシ達はお門違いだわ」
「……クッ」
アクアーリオは歯噛みした。
「屈辱的だ。筋肉質な者に諭されるとは」
「博士ちゃんはもっと筋肉をつけた方が良いわよ」
「フン。余計なお世話だ。ホムンクルスの素体は脆く、一般的なトレーニングの負荷に耐えられないのだ。筋トレというのは、健康な体があってこそ出来るものなのだよ。わかったか、恵体共め」
「そんなに褒められると照れるわね」
「褒めてない」
アクアーリオはため息をついた。
「わかった、わかったさ。次からはゾンビクンを連れて来よう。全く……特定の個人としか恋愛出来ないというのは、些か不便だな」
「私、ノヴァくんに恋愛感情はありません」
イオリはきっぱりとそう言った。
「そうなのか? ボクはてっきり……。では、ボクにもチャンスはあるのだろうか?」
「まーたそんな思わせぶりなことを言う……」
「『また』とは何だね」
このアクアーリオは知らないだろうが、【よぞミル】での彼はよく聖女に気があるようなことを言う。
「私のことなんか、興味ないですよね。興味があるのは恋愛の方」
好きとかではなく、恋愛が何かを知りたくて、恋の駆け引きもどきをする。
──恋愛に発展することはない。そういうところが人気なんだけど……。
アクアーリオはパッとイオリから離れた。
「なんだ、つまらん。体験してみたかったんだがな、恋愛とやらを」
「恋愛はしようと思って出来るものじゃありませんよ……」
イオリはやれやれ、と頭を振った。
「アクアーリオ博士、イオリ様を誑かすのはやめて頂きたい」
リブラが言った。
「誑かすなんて人聞きの悪い……。少しからかっただけだ」
「戯れでもそういうことを言うべきではありません」
「堅物め。……まあ、なんだ。『人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られてなんとやら』だ。キミ達の恋路の邪魔はしないよ」
アクアーリオは肩をすくめて言った。
「やっぱり、リブラさんはお姉ちゃんのことが好きなんだわ……」
ヒナは落ち込んでいた。
「んー。あれは好きというより、『弟の想い人を守る』という意味合いが強いわね。弟を悲しませたくないの」
ヴァルゴが笑いながらそう言った。




