限界オタクが妹と恋バナしてみたら
「恋バナ……?」
イオリとヒナは顔を見合わせた。
「どうする? お姉ちゃん」
「まあ、とりあえず、座ろうか」
イオリがそう言って座ると、ヒナもおずおずと座った。
「ねえ、ヒナちゃ〜ん。好きな人とか〜、おらんの〜?」
シュタインボックは猫撫で声でヒナに話しかけた。
「いるけど……」
「誰々〜?」
「何なのよ、その話し方……」とヒナは口を尖らせた。
「それは勿論、ベリエ王子とか、双子ちゃんとか、レオ騎士団長とか……」
ヒナは指を折って、好きな人の名前を上げていった。
シュタインボックは首を振った。
「え〜? その者達はそなたにとって、本当に好きな人なの〜?」
「え?」
「愛、絆……それらは酷く曖昧なものじゃ! しかし、〝特別好きな人〟ははっきりとわかるんじゃな〜い?」
シュタインボックはイオリに目を向けた。
「ね〜、イオリちゃん? イオリちゃんはわかるよね〜?」
「えっ!」
「ノヴァって子と〜、ラブラブみたいじゃない? わし、知ってるんじゃよ? それって特別ってことじゃ〜ん?」
「いやいやいや! 特別っていうか、私が一方的に好いてるだけですよ!」
イオリは慌てて弁明した。
「そんな照れなくても良いんじゃよ? みーんな、わかっとるから!」
シュタインボックはぐふふ、と下品に笑った。
「【星の守護者】は【星の聖女】と絆を結びやすくあるが……まさか、魔王軍幹部と絆を結ぶとは思わなかったのう〜」
「う……すみません」
「おっと、責めてるのではないぞ。前例がなかったから、驚いただけじゃ。で、で、どんなところに惚れたんじゃ?」
シュタインボックはぐいぐいと聞いてきた。
「どんなところと言われても……全部──」
「全部!」
シュタインボックは「きゃあ!」と黄色い悲鳴を上げる。
「──全部、可愛いですよね」
「可愛い……?」
「何処が?」とヒナは困惑を隠さず言った。
「悪ぶっているけど根は優しくて努力を惜しまない真面目な部分があるところとか良いところの坊ちゃんだから所作が美しいところとか自己肯定感低いから少し褒めると真っ赤になるところとかお兄ちゃんが絡むとちょっと生意気になっちゃうところとか触り心地が良さそうな髪とか長いまつ毛長いとか──」
「ストップストップ! 長過ぎるから!」
ヒナが止める。
「そう? まだ語り足りないけど……」
「これだからオタクは……。空気読めないんだから」
「ぐ、ぐうの音も出ません……」
イオリは縮こまった。
「そなたはノヴァのことが大好きなんじゃな」
「はい! 大好きです!」
イオリは良い笑顔で応えた。
「というか、シュタ様ばっかり聞くのは狡いです! シュタ様だって、恋バナの一つや二つあるでしょう? ほら、長生きされてるんですし!」
「え〜? 老人の恋バナって聞いてもつまらんじゃろ」
「むしろ、老人の恋バナの方がキュンキュンします。ツンデレ不器用お爺ちゃんの話とか、私、めっちゃ好きです」
「そう〜? 老人の昔話は想像以上に長いんじゃぞお」
「じゃあ、手短に!」
「仕方ないのう」とシュタインボックは語り始めた。
「わしが恋したのは、歴代の聖女じゃ」
「え!」
「そういえば、歴代の聖女って話って聞いたことないわ……。どうなったの……? も、もしかして、死んだとか……?」
ヒナは恐る恐る聞いた。
「聖女がこの世界で死んだ、と言う記録はない。元の世界に帰ったと言われておる」
「元の世界に?」
シュタインボックはフッと笑った。
「聞いたことはないか? 魔王が、元の世界に帰る方法を知ってると」
「確かに、聞いたことあるかも……」
「魔王にはな、世界と世界を繋ぐ力があるのじゃ。聖女を攫おうとするのも、聖女を元の世界に帰そうとしているのじゃろう」
「聖女が邪魔なら殺せば良いのに……。生かして元の世界に帰してくれるなんて、魔王、案外良い奴じゃん!」
「しかし、自由に異世界を繋げる訳ではない。タイミングが合わなければ、世界を繋げないのじゃ」
「え」
「聖女を攫うのは、帰すべきタイミングが来た時、手元に置いておくため……。それまで、聖女が人間らしい生活を送れるかは、甚だ疑問じゃな」
アクアーリオが語った、本物のアルバリの扱い……。
そして、自爆特攻されられた偽アルバリ。
人間の扱いをされるかどうかはわからない。
──私はノヴァくんに会えたから良かったけど……。
もし彼に会えなかったらと思うと、想像もしたくない。
「それで、歴代の聖女とはどうなったんですか?」
「途中で終いじゃよ。魔王軍に連れ去られ、そして、二度と帰って来んかった」
「え……」
「聖女を取り戻そうとしたが、元の世界に帰された後じゃった」
「それはやるせなかったでしょうね……」
シュタインボックは空を見上げた。
「最初は、あまりに聖女に似つかわしくない、男勝りな性格の彼女を好きになれんかった。好きになるきっかけというのは唐突なものでなあ。騎士団と共に剣を振るう彼女に、いつの間にか恋をしておった」
「気の合わないでも、きっかけがあれば好きになることは変じゃないの?」
ヒナが尋ねた。
「何も変ではあるまい。『嫌よ嫌よも好きのうち』と言うからの」
シュタインボックは照れたように頬をかいた。
「じゃあ、ヒナ……リブラさんに恋しちゃってるのかも」
「ええ!?」
イオリは驚いて声を上げてしまった。
ヒナはリブラのことを煙たがっていたのに、どういう風の吹き回しだろう。
「鳥の魔物に攫われて、もうダメだと思った時、助けられて……ドキドキしちゃったのよー! あんな仏頂面にー!」
「へえ、リブラさんが好きなんだ」
「す、好きじゃないわ! 嫌いだもん! あんな奴!」
「フン!」とヒナは顔を背けた。
「そんな平成の少女漫画みたいなこと言っても説得力ないよ」
──まさか、ヒナがリブラさんにねえ……。吊り橋効果って奴かな?
ヒナの顔を見る限り、本気のようだ。
彼女の気持ちが続く限り、見守ろうとイオリは思った。
「っていうか! この世界が乙女ゲームの世界なら、なんでみんなヒロインのヒナに惚れない訳!?」
「ここは乙女ゲームじゃなくて、女性向けゲームの世界だよ」
「同じじゃない!」
「……ヒナ、乙女ゲームと女性向けゲームは違うわ」
イオリは声を低くして言った。
「乙女ゲームは恋愛するけど、女性向けゲームは恋愛しなくても良いの。むしろ、そこが良い。焦点が当たるのがキャラクターで、キャラクター同士の会話とかを楽しむ。主人公は壁なの」
「壁……?」
「頬を赤らめながら『好きです。結婚して下さい』って言われても、相手は私じゃなくて、別のキャラだったり。ガチ恋距離でマフラー巻かれてるって思ったら、雪だるま視点だったりする」
「ゆ、雪だるま視点……? なんで……?」
「スチルとセリフで私に告白してると思ったら、別のキャラにしていたり。キャラに『お前は彼女じゃないから』と笑顔で言われたりする」
「絶対楽しくないでしょ、そんなゲーム」
「十年以上サービスが続いている大人気女性向けソシャゲの話」
「嘘でしょ!?」
シュタインボックは「うんうん」と頷いた。
「何の話をしておるのかわからんが……。二人とも恋をしておるようで何よりじゃ。聖女の力が覚醒する日も近いのう」
イオリとヒナは照れ臭くて、顔を赤くさせた。




