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限界オタク聖女が敵の拗らせゾンビ男子を溺愛してみたら  作者: フオツグ
限界オタクと推しと聖女降臨祭。
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限界オタクが博士の正体を聞き出してみたら

「ホムンクルス……?」


 聞き馴染みのない言葉に、ベリエは眉を顰めた。


「錬金術によって作られた人間のことだ」


 アクアーリオは答えた。


「錬金術で人間を……!? そ、そんなことが可能なのか!?」

「理論上はな。しかし、成功率は非常に低い。多くのホムンクルスは生まれる前に死ぬ。生まれたとしても、姿形、人格……全てが完璧な人間になるのは極稀だ」

 アクアーリオは胸に手を当てた。

「ボクは十二万二百十八体目の成功体ホムンクルスだった……。赤子の期間などなく、成人の体で生まれた。育てる手間を省くためにな」


 魔王軍では、人間を生み出す研究が進められていた。

 魔王軍側の人間を聖ソレイユ王国に送り出し、諜報活動をさせるために。

 しかし、ホムンクルスは非常に短命であった。

 原因は未だにわかっていない。

 情報を得るには、人間からの信頼を稼がなければならない。

 早く死んでしまうホムンクルスには限界があった。


「──そんなとき、〝エリダヌスの戦い〟が起こった」


 エリダヌスの戦い──二十年前、エリダヌスという地で起こった、魔王軍と【星の守護者】との戦いのこと。

 そのエリダヌスの戦いで前の【星の守護者】は全滅した──シュタインボックの魂以外は。


「しかし、生き残りがいた。【水瓶座の守護者】アルバリだ」

「アルバリ……!」


 ヒナはその名前に反応する。


「そいつだわ! ライアーを渡してきた男の名前! 確かに、アルバリって名乗ってた!」

「フン。妹聖女クンは知らないだろうからと、アルバリの名を借りたんだな。何処まで、人間の尊厳を踏みにじれば気が済むんだか……」


 アクアーリオはやれやれ、と首を横に振った。


「アルバリ……あの戦いで生きて残っておったのか……」


 シュタインボックが呟いた。


「死んでいた方がマシだっただろう」


 アクアーリオは鼻を鳴らす。


「アルバリは魔王軍に捕えられ、錬金術の実験台にされた。──【星の守護者】を作り出すために」

「【星の守護者】を……作り出す?」

「ハッ! まさか、ボクが偶然【星の守護者】に選ばれたとでも思っていたのかね? ボクはなるべくしてなった【星の守護者】だ。ホムンクルスは寿命が短い。だが、【星の守護者】ならば、一瞬で国の中枢まで近づける」

「【星の守護者】が人工的に作れるなんて……」


 ノヴァが顔を青くして呟いた。

 星の神を信仰してきた彼にとって、衝撃的な事実だったのようだ。


「あり得るから、こんな事態になっている」


 アクアーリオは冷静に言う。


「聖女召喚の儀……まさか、成功するとは思わなかった。ボクは偽物だからね。それが原因でバレるのではないかとヒヤヒヤしたよ。どうやら、星の神には偽物の判断がつかないらしい」


 アクアーリオは窓の外に見える空を見上げて嘲笑った。


「ホムンクルスを見分ける方法は【星の守護者】の証だ。成功か、失敗か、即座に判断するため、【星の守護者】の証は頬に出すようにした」


「全く、錬金術サマサマだな」とアクアーリオは自重気味に笑った。


「しかも、その証は不完全だ。星が一つや二つ足りなかったり、形が崩れていたり……」

「だから、違和感があったのね……」


 ヒナは納得した。


「ボクは奴らの求めていた理想系に近い。【星の守護者】の証も完璧で、姿形も人間と同様。人間らしい人格もある」

「……〝近い〟……?」


 リブラは首を傾げる。

 アクアーリオは何処からどう見ても人間だ。

 人間を作る研究は成功しているように見えた、


「ボクは失敗作さ。固有スキルの発現が出来なかったからね」


 固有スキルがない、と聞いて、イオリはそういえば、と思い当たる。

──博士の固有スキルについて、ゲームでもぼかされていたっけ……。


「これでは聡い人間に気づかれる。ボクは処分される──はずだった」

「はずだった……」


 アクアーリオをフッと笑う。


「奴らの誤算は、ボクを人間らしくし過ぎたことだろう。ボクは死の恐怖に抗えず、研究所から逃げ出した。幸い、魔物が使う錬金術を盗み見ていたから、それを駆使して。せめてもの抵抗としてボクは──」


 アクアーリオは口を止めた。

 イオリは首を傾げる。

 アクアーリオはすっと表情を消し、話を再開した。


「……脱走する直前、ボクはアルバリに繋がれていた生命維持装置を切ってやった。奴らは研究材料がなくなって困っているだろう。ざまあみろ」

「こ、殺したってこと……!?」


 ヒナは「信じられない」「可哀想」と言って、軽蔑の目を向けた。


「可哀想……ね。生かされているのと、殺されるの、どっちが可哀想だったのだろうか。脊髄と脳だけにされ、研究のためだけに〝生かされている〟アルバリを……ボクは見ていられなかった」

「え……?」


──脊髄と脳……?

 イオリは想像出来なかった。

 いや、脳が想像することを拒否していた。


「人を人とも思わない魔物に、飼われていたらどうなるか……想像出来ない訳ないだろう?」

「そんな……」

「魔王軍はそういう連中だ。人間の大事にしている命、尊厳……その全てに興味がない。自分が上位種族であると、信じて疑わない。本当に嫌になる」

「……魔物に作られた分際で」


 ベリエが毒を吐く。


「キミ達もあいつらの元に生まれてくると良い。いつまで正気を保ってられるのやら、見ものだな」


 その後、研究所から脱走したアクアーリオは、ワープドアを駆使してようやく、人間の国に辿り着いた。

 暫くは、風の都で隠れて暮らしていたらしいが、姿を見られ、【星の守護者】の証があることを知られた。


「そうやって、王都に話が行ったのか」


 ベリエの言葉に、アクアーリオは首を横に振った。


「騙すつもりはなかった。ボクは【星の守護者】ではないと言ったのだが、誰も聞いてくれなくてね」


 出自が不明な【星の守護者】の前例があった。

【射手座の守護者】サジタリウスも空から落ちてきたと言われている。


「──さて。ボクは魔王軍から来た訳だが、国から追い出すかい? 追い出したとしても、キミ達に不利益はない。何せ、ボクは魔王軍に追われた身で──無スキルのデク人形だ。……ああ、でも、アルバリ殺害の罪には問われるか。甘んじて受け入れよう」


 リブラとベリエは顔を見合わせた。


「確認ですが、博士は魔物ではないのですね?」

「魔物だったら、魔呼びのライアーの餌食になっていた事だろう」

「……わかりました」


 リブラはアクアーリオに目を向ける。


「私は先程、イオリ様と約束しました。『真実を話す代わりに、アクアーリオ博士を拘束しない』と。ですので、貴方を罪に問うことはありません」


 アクアーリオは眉根を寄せた。


「正気か? そんなもの、ただの口約束だろう? いくらでも反故に出来る」

「魔王軍に作られたホムンクルスであろうと、貴方が錬金術によって、人類に貢献してきたのは事実」


 リブラはイオリとヒナを見た。


「このように、聖女召喚の儀も成功しています」


 アクアーリオが【星の守護者】でないのなら、二人は召喚されなかった。


「貴方は列記とした【水瓶座の守護者】です」

「……ハハッ! ボクを信じるなんて、愚かな!」


 アクアーリオは手で両目を覆って高笑いをした。


「だが、今はその愚かさに感謝しよう……」


 消えいるような声でそう呟いた。

 彼の表情は澄み切った空のように晴れやかだった。

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