限界オタクが報告会をしてみたら
聖女降臨祭から一夜明け……。
明星寮の会議室にて、報告会が行われた。
まずは、火の都の被害状況を知らされた。
魔呼びのライアーの音色に引き寄せられた魔物によって、数十名が怪我をしたが、命に別状はなかったようだ。
他にも、建物に傷をつけられたり、食物が食い荒らされたりしたが、直ぐに日常へ戻れるだろう、と。
「良かった」とイオリはホッとした。
次に、侵入したゾンビの対処にあたったリブラが報告を始めた。
ゾンビは皆、【墓場の森】に戻したこと。
そして、魔王軍幹部が二名現れたこと。
幹部の話が出た時、会議室内に緊張が走った。
彼らはレオ達援軍が来たことで撤退していった、と伝えるとホッとしたようだった。
壁が一部壊されてしまったので、修復しなければならないことを伝え、リブラは報告を終えた。
「ご苦労だった、リブラ殿」
ベリエがリブラに労いの言葉をかける。
「殿下……」
リブラは両手をベリエに差し出した。
ベリエはきょとんとした顔をする。
「この手はなんだ?」
「私を捕縛するのでしょう?」
リブラはそれが当然とでも言うように言った。
そういえば、ヒナがライアーを弾いた直後、ベリエは「リブラを捕えろ」と命じていた。
今更その話を蒸し返すのか、とリブラ以外の人間は思ったが、リブラは妙に誠実な男なのだ。
「……その言葉は撤回する。今回、リブラ殿には助けられた」
ヒナが魔物に攫われそうになったとき、リブラはいち早くヒナを助けた。
突然の出来事に呆然としていた【星の守護者】に指示を出し、鳥の魔物を制圧した。
その後、国内に侵入したゾンビの対応にも当たった。
「殿下の寛大なお心に感謝致します」
リブラは胸に手を当て、頭を下げた。
「礼を言うのは私の方だ」
ベリエは目を伏せる。
「こうなったのには、私にも責任がある。私がもっと、ヒナの言葉に耳を傾けていれば……」
ヒナの不信感に気づき、対応出来たはずだ。
「【聖女降臨祭】の準備に追われ、後回しにしてしまっていた……。すまない、ヒナ」
「王子様は悪くないわ! 全部、ヒナのせいだもの!」
ヒナは首を横に振った。
「誰も予測出来なかったことです。被害を最小限に抑えられたことを良しとしましょう」
リブラの言葉に、「そうだな」とベリエは頷いた。
「──さて」
リブラは鋭い眼光でヒナを見た。
「ヒナ様には話して頂かなければなりません。あの魔呼びのライアーの出所について」
「あのライアーは貰ったの!『こいつを鳴らせば、魔物の本性が暴かれる』って!『聖女降臨祭のとき、みんなに見せつけてやれ』って言われて!」
ヒナは焦ったように答えた。
「それは誰ですか?」
「え? えーと、顔と名前はちょっと覚えてないけど……」
ヒナは指先をつんつんとして、視線を彷徨わせる。
「思い出しなさい。重要なことです」
「うう……。横文字の名前ってなんか覚えにくくて……」
ヒナは頭を抱えて唸りながら、思い出そうとしている様子だ。
「ゾンビではないんだな?」
ベリエが尋ねる。
「ノヴァだったなら、わざわざ思い出す必要もないでしょう。はっきりと『ノヴァだった』と言うはずです。ヒナ様はノヴァを毛嫌いしているようですから」
「念の為だ」
「どうだ」とベリエは再度ヒナに聞く。
「うん。そこのゾンビじゃなかったわ」
「身体的特徴は?」
「真っ白な服を着てて……あ!」
ヒナはぽん、と手を叩いた。
「【星の守護者】だったのは間違いないわ!」
会議室内の温度が一気に下がった。
この会議室内にいるのは【星の守護者】達だ。
自分達に容疑を向けられ、良い気はしないだろう。
それと同時に、この中の誰かが魔物と内通しているのか、と周囲の人を疑い始める。
「……それは、この中にいる人ですか?」
リブラが声を低くして尋ねる。
「いないと思う……。見たことない人だったし。【星の守護者】会議にも、聖女降臨祭にもいなかったわ」
その二つの行事に不参加だった【星の守護者】はたった一人だけだ。
「【牡牛座の守護者】トローか……」
リブラはフゥー、とため息をつく。
「トローは聖女召喚の儀以来、行方知れずとなっています。魔王軍の内通者となっている可能性はないとは言えません」
「しかし、彼奴が寝返るとは到底思えん。変な奴じゃが、良識はある」
シュタインボックは否定した。
リブラは頷く。
「私もそう思います。トローの顔写真さえあれば、ヒナ様に確認出来るのですが……」
リブラとシュタインボックは困り果てていた。
トローに話を聞こうにも、今は連絡が取れない状況だ。
「トロー? そんな名前だったっけ、あの人……」
ヒナはうーん、と頭を捻った。
──私も、あのトローさんが黒幕だとは思えない……。
「ヒナ、どうして【星の守護者】だと思ったの?」
イオリは出来るだけ、優しい口調で聞いた。
「明星寮の廊下で会ったのよ。明星寮は【星の守護者】のための寮なんでしょ?」
「明星寮の廊下なら、他の人でも入ることが出来るでしょ」
「でもでも、【星の守護者】って名乗ってたし!」
「【星の守護者】と名乗るだけなら誰にでも出来るし……。本当に【星の守護者】だったの?」
「本当よ! だって、星座が体に刻まれてたもの!【星の守護者】は星座が体にあるんでしょう!?」
ヒナの証言に、リブラは身を乗り出した。
「その、星座は体の何処にあったんですか」
「え?」
「星座の位置は【星の守護者】によって違います。その人物を特定する重要な情報です。よく思い出して下さい」
「よく覚えてるわ! 頬よ! 左頬に【星の守護者】の証があったわ!」
そう言って、ヒナは左頬を指差した。
「その位置は──」
皆、一斉に白衣の男を見た。
──【水瓶座の守護者】アクアーリオだ。
彼の左頬には、水瓶座の星座が刻まれていた。




