限界オタクが自分の身を犠牲にしてみたら
「聖女の力……」
ウラヌスは聖女の力を目にして、瞳孔を縮小させた。
そして──
「ククッ、クハハハハハ!」
腹を抱えて笑った。
何を笑っているんだ、とリブラは訝しげにウラヌスを見る。
「それが聖女の力だって? この程度の力、魔王様が気にかける訳ないだろう!」
「……何?」
「姉聖女の方が聖女の力に目覚めたと聞いていたが……まだ〝覚醒前〟とはな。それで勝ったと思っているなんて……ククッ、人間とはやはり愚かだな」
ウラヌスはふう、とリブラに息を吐きかける。
すると、リブラの足元が石に包まれた。
リブラは足を上げようとするが、石でがっちりと固定されてしまっている。
石はだんだんとリブラの下半身を侵食する。
「石化……!?」
「あんたを石像にして、魔王様に献上してやろう。ありがたく思え?」
ウラヌスはくすくすと笑う。
「《正義の秤》!」
リブラはウラヌスに剣を振るう。
ウラヌスは空中で舞うように剣をかわした。
「クハハハ! 焦りが顔に出てるぞ、人間!」
「チッ……。小鳥が……ピーチクパーチクとやかましい……」
石化が苦しいのか、リブラの息が上がっている。
「お願い……。止まって……! リブラさんを石にしないで!」
イオリは祈るが、リブラの石化は止まらない。
リブラの膝……腰まで石になっていく。
イオリはノヴァの方を見た。
ノヴァは未だにネプチューンの攻撃をかわし続けている。
それもいつ、攻撃が当たり、致命傷を負うかわからない。
──どうしたら良いの……!? 私、二人のために何も出来ないの……!?
イオリは焦りと恐怖で手が震える。
考えを巡らせる。
イオリはハッと息を呑んだ。
──ある。一つだけ、二人を助けられる方法。
魔王軍の目的は聖女であるイオリだ。
イオリが魔王軍に行けば、二人を見逃してくれるかもしれない。
──私が……魔王軍に行けば……。
ノヴァとリブラと王国で過ごした日々はとても楽しかった。
ずっとこんな平和な日々が続けば良いと思ってた。
二人が犠牲になるくらいなら、自分の身を捧げた方が良い。
思い出だけで十分生きていける。
大丈夫、とイオリは手を握り締める。
イオリは一歩前に踏み出した──。
「──《獅子奮迅》!」
突如、大剣がネプチューンの体に振り下ろされる。
ネプチューンの硬い皮膚が剣を弾いたが、その後、スキル《獅子奮迅》のよる追撃が発生する。
獅子の覇気がネプチューンに噛みつき、ネプチューンは思わず、後退りした。
このスキルの使い手は、一人しかいない。
「レオ騎士団長!」
【獅子座の守護者】レオだ。
レオは白い歯を見せつけて笑った。
「加勢に来たぞお!」
「三人共、無事かしら?」
レオの後ろから、【乙女座の守護者】ヴァルゴが顔を出した。
「ヴァルゴ姉!」
この二人だけではない。
【双子座の守護者】ジェミニとポルックス、【射手座の守護者】サジタリウス、【蠍座の守護者】スコルピオンもいる。
「皆さん! どうしてここに……!?」
「ヒナ様に頼まれたんだ。『お姉ちゃんを助けて』ってな」
イオリの質問にレオが答えた。
「リブラ様が向かったから大丈夫だって言ったんだけど……」
「『つべこべ言わずに助けに行け』って聞かなくてですね……」
双子座のジェミニとポルックスは顔を見合わせて、「ねー」と言った。
「ヒナ……あの子が……」
──自分も魔物に襲われたばかりで、そばで護衛をして貰いたかったはずなのに……。私を助けるためにお願いするなんて。
イオリは目元がじんわりと熱くなった。
「火の都の方はどうしたんです」
リブラが尋ねる。
「アクアーリオ博士の言った通り、魔呼びの効果が切れたら、火の都に侵入した魔物は弱体化した。だから、騎士団員に任せてきたさ」
「ヒナ様は無事なんですね?」
レオは大きく頷いた。
「勿論。安全を確保した上でこちらに来た。今は我が主君がそばにいる」
その答えに、リブラはホッとした様子だった。
「こいつらは……他の魔物とは一味違いそうね」
ヴァルゴはネプチューンとウラヌスをまじまじと見る。
「こいつらは魔王軍幹部スターダスト、ネプチューンとウラヌスだ」
「あらまあ、魔王軍幹部……助けに来て正解だったわねん」
ヴァルゴは強敵を前に、舌舐めずりをした。
「ここからは、アタシ達が相手よ」
「【星の守護者】共め……俺様の邪魔すんじゃねえ!」
ネプチューンが雄叫びを上げ、突進をしようと足を大きく踏み出した。
「待て、単細胞」
ウラヌスが羽でネプチューンの顔を軽く叩いた。
「げえ! 羽がくすぐってえ! 何しやがる! ウラヌス!」
「分が悪い。一旦引くぞ」
「ああ!? 逃げんのかよ!?」
「馬鹿を言うな。戦略的撤退だ。頭数の差があるこの状況、地の利もない場所で、わざわざ戦う必要はない。僕達は賢い種族なのだから」
「確かに……。俺様達は愚かな人間とは違う」
「そうだろう? どうせまた、戦うことになるのだ。決着はその時につければ良い」
「チッ……」
ネプチューンはノヴァを睨みつけ、指を差した。
「ノヴァ! てめえは俺様が絶対に潰す! そのときまで、首洗って待っとけよォ!」
そう言い残し、ウラヌスは空を飛び立ち、ネプチューンは【墓場の森】に消えて行った。




