限界オタクが侵入したゾンビを追い返してみたら
ワープドアの間。
そこから、聖ソレイユ王国に設置されたほぼ全てのワープドアへ行くことが出来る。
イオリ、ノヴァ、リブラの三人は国内に侵入したゾンビを対処するべく、【墓場の森】方面へ繋がるワープドアを通り抜けた。
【墓場の森】方面のワープドアは監視塔の中に設置されている。
ワープドアの先には、二人の騎士がいた。
「リブラ様!」
彼らはリブラ達に気づき、敬礼をする。
「状況は」
リブラが尋ねる。
「ゾンビが次々と壁を乗り越え、国内へ侵入しています。侵入する数はどんどん増えており、我々では手が足りず……」
リブラは窓から外の様子を見た。
ゾンビ達は集団を作り、皆が同じ方向へ向かってのろのろと歩いている。
「大分、侵入されてるな……。鈍足なのが幸いか」
このスピードならば、一番近くの街に到達する前に対処が可能だ。
「ゾンビらは列を成し、目的を持って、何処かへ向かおうとしている様子です。奴らの狙いはまだわかっておりません」
「予想はついています。ゾンビが向かう方角には……火の都がある」
リブラが深刻な声で言う。
「ライアーの音が聞こえた方へ向かっているってことですね……」
イオリが言うと、リブラは頷いた。
ゾンビの目的は、ライアーを弾いたヒナの元へ向かうこと。
──絶対に、ここで食い止めないと。
イオリは強くそう思った。
「ゾンビ共がこんなに……」
ノヴァは不安そうにゾンビを見下ろしていた。
「あいつらは壁をよじ登るなんて芸当出来ねえ。これもライアーの影響か……?」
「多分そうだと思う。ライアーは能力を向上させる効果もあるって、アクアーリオ博士が言ってたから」
ノヴァは目を伏せる。
彼にとって、ゾンビは大事な部下だ。
そのゾンビ達が意識を奪われ、人間に迷惑をかけていることに、胸を痛めている。
ノヴァは覚悟を決めたように目を開く。
「固まって動いてるなら簡単だ。オレの《死霊の指揮者》でゾンビ共を【墓場の森】に押し戻す」
「一度にあの数を操れるの?」
「やるしかねえ」
ノヴァは拳を握り締めた。
「リブラ様!」
ワープドアから騎士が現れる。
「アクアーリオ博士から伝言です!『ライアーの効果時間が判明した。あと一時間ほどで効果は切れる』……とのことです!」
「流石、アクアーリオ博士だ。仕事が早い」
リブラはゾンビの軍団に目を向ける。
「ノヴァ、あと一時間、ゾンビを抑え込みますよ」
「ああ。早く、あいつらをあるべき場所──【墓場の森】に帰さねえとな」
□
ノヴァ、リブラ、イオリの三人は、監視塔を降りた。
こちらに向かってくるゾンビ達の前に、ノヴァが立ちはだかる。
ノヴァは大きく深呼吸をした。
「よし。行くぞ──《死霊の指揮者》!」
ノヴァがスキル名を叫ぶと、先頭にいたゾンビ達の動きがぴたりと止まった。
ノヴァの操るゾンビ達は踵を返し、後ろのゾンビを押し返し始める。
ゾンビの侵攻は止まったが、後退する様子は見えない。
「くっ……! 力が強ぇ……。押し返せねえ……!」
「一度、体制を立て直しますか」
見兼ねたリブラが言う。
「大丈夫だ! もっと操るゾンビを増やせば……!」
ノヴァは手に力を込める。
後ろへ押し返すゾンビの数が増えていき、ゾンビの集団は徐々に後退していった。
「凄い……。ブルドーザーみたい」
イオリは思わず呟いた。
ゾンビを押し返すコツを掴んだのか、ノヴァはゆっくりとスピードを上げていく。
不意に、数体のゾンビが横に逸れた。
「しまった……!」
ノヴァの意識がそちらに向いたことで、ゾンビの後退が止まる。
「お願い! 正常に戻って!」
イオリが興奮状態を解き、ゾンビを無力化した。
「《正義の秤》!」
すかさず、リブラが剣を振り下ろす。
「取りこぼしたゾンビは私とリブラさんに任せて!」
「お前は目の前のことに集中しなさい」
後ろをイオリとリブラに任せ、ノヴァはゾンビ達を押し返すことに尽力した。
暫く進むと、塀近くの様子が見えてきた。
塀の上からゾンビが次々と湧き出し、塀の内側へと落下している。
塀のそばにはゾンビの山が出来上がっており、落下したゾンビはその屍達をクッションにして着地し、火の都の方向へと歩き出す。
イオリは息を呑んだ。
「これ……ゾンビが塀を登ってきてる訳じゃなくて……」
「おそらく、塀に殺到したゾンビが折り重なり、ゾンビの山を作っている」
「その山を登って、塀の内側に……落ちてきてるってこと……?」
ゾンビとはいえ、人間と姿形は同じだ。
死人の山──心臓が粟立つような、とても恐ろしい光景だった。
しかも、彼らは真の死体に──【星の欠片】になっていない。
まだ、意識はあるのだ。
下敷きになっているゾンビ達は今、どんな苦しみを味わっているのだろう。
想像して、イオリは息が苦しくなった。
ノヴァもイオリと同様のことを感じていたのだろう。
眉を顰め、歯を食い縛って、死人の山を見つめていた。
「まずは、外側のゾンビの山を崩し、侵入を止めます」
リブラが淡々とした口調で言う。
彼の冷静さに、イオリは安心感を覚えた。
「……一思いに頼む」
「《正義の秤》」
リブラが大きな剣を召喚し、外側のゾンビの山を串刺しにする。
ゾンビの山は【星の欠片】となり、坂道が消えたことで、塀を乗り越えるゾンビはいなくなった。
「ノヴァ、今のうちに」
「ああ、押し戻す……!」
ノヴァはゾンビ達に内側のゾンビの山を登らせていく。
「墓場に帰れ……ゾンビ共っ……!」
ゾンビの群れは塀の外に追いやられた。
落下していくゾンビ達が少し哀れに思えた。
その後、内側のゾンビの山も、リブラが【星の欠片】にした。
ゾンビが再び山を作らないよう監視し、山を作り始めたら解体。
それを一時間ほど繰り返した。
ようやく、ライアーの効果が切れたらしい。
ゾンビは我に返ったのか、当てもなく、ふらふらと【墓場の森】を徘徊し始めた。
「お疲れ様でした。ノヴァ、イオリ様」
「疲れてんのは兄貴の方だろ。城の広場で戦闘して、ゾンビの山を崩して……」
「心配の必要はありません。私はタフなので」
「そう……」
ノヴァはホッとしたのか、リブラに呆れたのか、ガクッと脱力した。




