表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
限界オタク聖女が敵の拗らせゾンビ男子を溺愛してみたら  作者: フオツグ
限界オタクと推しと聖女降臨祭。
74/84

限界オタクがライアーの正体を知ってみたら

「落ち着いたふりかもしれないだろう。またいつ我々に襲いかかってくるか……」


 ベリエは訝しげにノヴァを見る。


「拘束するなら勝手にしたまえ。ボクは彼に話を聞く」


 アクアーリオはノヴァとイオリに歩み寄り、二人を見下ろした。


「……さて、生ける屍よ。キミは何故、妹聖女クンに襲いかかったのかね?」


 イオリはハッとして、ノヴァから離れる。

 ノヴァの答えを聞くため、ノヴァの顔をじっと見つめた。

 ノヴァは表情を暗くした。


「ライアーの音を聞いたときから……ある言葉が頭から離れなかった……」


『人間共を根絶やしにせよ』


「気分が昂って……理性ではどうにも出来なくて……。音を止めないとと思ったんです。それで、妹聖女様に……」


 掴みかかった、ということだろう。


「魔物の本能は恐ろしいな」


 ベリエはノヴァを鼻で笑った。


「なるほど」


 アクアーリオは納得したように頷いた。


「では、魔物が来るとわかったのは何故だ?」

「あの音を聞くと、何故だか音の方向に向かいたくなりました。おそらく、他の魔物も同じだろうと思ったんです」

「魔物が人間を襲うように仕向ける音……。興奮状態に陥らせる作用……。ふむふむ。どうやら、このライアー……魔呼びの楽器のようだな」


 アクアーリオは鞄の中から、ヒナの持っていたライアーを取り出した。

 板にはヒビが入り、弦は切れ、無惨な姿になっている。


「貴様、ライアーまで持って来たのか!」


 ベリエは顔を真っ赤にして、アクアーリオに怒鳴りつける。


「安心したまえ。落下した衝撃で弦は切れている。もう、これに魔物を呼ぶ音は出せん」

「だとしてもだ!」

「あー、あー。あまり大声を出すな。頭が痛くなるだろう」


 アクアーリオが両手で耳を塞ぎ、ベリエに悪態をついた。


「博士、魔呼びの楽器って……?」


 イオリが尋ねると、アクアーリオは耳から手を離した。


「魔呼びの楽器とは、魔物に音色を聞かせることで、身体能力を一時的に向上させ、興奮状態にさせる錬金術具のことだ。主に、魔王軍が開戦の際に魔物を鼓舞するために使われる」

「なんで、興奮状態にするんですか? 敵も味方もわからなくなるのに……」

「戦闘への恐怖心を薄れさせるためだ。弱い魔物は臆病になりやすいからな。そういう奴らにこそ、魔呼びの楽器は有効だ」

「魔呼びの楽器を使うことは、魔王軍にとって、メリットしかないんですね……」


 アクアーリオは首を横に振った。


「いいや、デメリットもある。魔物は音の聞こえた方向に向かっていってしまうのだ。つまり、魔王軍側から音を出しても、高い効果は得られない」

「だけど、今回はヒナが音を鳴らしたから……」

「ああ、そのデメリットはなくなったと言える」


 イオリとアクアーリオはヒナに目を向ける。

 ヒナは肩を飛び上がらせ、怯えた顔をする。

 アクアーリオはそんなヒナを鼻で笑った。


「ここから追い出すべきのは、ボクでも、ゾンビクンでも、ライアーでもないだろう。これを所有し、魔物を呼んだのは他でもない──妹聖女クンだ。もう一つや二つ、魔呼びの代物を隠しているやもしれん」

「か、隠してなんて──!」


 ヒナは慌てて否定する。


「ハン! どうだかな」


 アクアーリオはヒナから視線を逸らし、ベリエに目を向けた。


「殿下、妹聖女クンがライアーを持っていたことは知っていたか?」

「……いや」


 ベリエは俯いて、否定する。


「今の今まで、ライアーの存在を明かさなかったのも、良からぬことを考えていたからに違いない。──魔物に魅入られたのは……姉聖女クンだけではないのやもしれんな?」


 アクアーリオはくく、と笑う。

 ヒナは首を横に振る。


「ち、違う! ヒナは知らなかっただけ!」

「本当に?」

「本当よ! ヒナは魔物の味方なんかじゃないわ!」

「魔物の本性を民衆の前で引き出す……それがどれほど危険な行為か想像出来ないほど、キミは愚かなのかね?」

「うっ……!」


 ヒナはばつが悪そうな顔をする。


「愚かなキミは知らないだろうが、魔呼びの錬金術具は錬金するのも、所有するのも違法だ。無知は罪だよ、妹聖女クン。ボクは妹聖女クンを国に置いておく方が、余程危険だと思うがね……」


 ヒナは顔を青ざめさせた。

 ヒナは「魔物に魅入られたイオリを追い出せ」とずっと言っていた。

 その言葉が今、自分に返ってきている。


「ひ、ヒナ、追い出されないよねえ!? ヒナは聖女だもんね!? ねえ! 王子様ぁ!」


 ヒナはベリエに泣きつく。


「こ、これが、魔呼びのライアーとは限らないだろう」


 ベリエは苦し紛れの言い訳をした。

 アクアーリオは呆れた顔をする。


「往生際の悪い愚物め。このライアーを錬金術具の解析にかければわかることだ。今直ぐに解析してやろうか? なんだったら、賭けるか。このライアーは魔呼びの代物か否か。ボクは魔呼びの楽器、殿下はそれ以外に賭ける。ボクが勝ったら、妹聖女クンが城を出る。殿下が勝ったら、ボクとゾンビクンが城を出る。どうだ?」

「今は……賭けをしている場合ではないだろう……」


 ベリエの声は徐々に小さくなっていく。

 錬金術師・アクアーリオが判断したのだから、ヒナのライアーは魔呼びの楽器に違いない。

 ベリエはヒナを庇いたいが、術が見つからないようだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ