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限界オタク聖女が敵の拗らせゾンビ男子を溺愛してみたら  作者: フオツグ
限界オタクと推しと聖女降臨祭。
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限界オタクが妹と喧嘩してみたら

 イオリとヴァルゴは城の廊下を走る。

 イオリは息を切らせながら、後ろを見た。

 鳥の魔物が追ってくる気配はない。

 外で戦っている人達が足止めしてくれているのだろう。

 彼らに感謝しつつも、ノヴァのことが気に掛かっていた。


 二人は【星の守護者】の控え室となっていた応接室に入る。

 そこには、先に避難していたヒナとベリエがいた。

 ベリエはイオリを見て、気まずそうに視線を逸らした。

 ヒナは涙をハンカチで拭いながら、鼻水を啜っている。

 イオリはヒナの顔を見て、顔がカッと熱くなった。

 目の端を釣り上げて、ヒナにズカズカと歩み寄った。


「ヒナ! 貴女、一体何をしたの!?」


 イオリはヒナに向かって怒鳴った。

 ヒナは涙目で、ぶんぶんと首を横に振る。


「知らない! ヒナじゃない!」

「『知らない』じゃないでしょ! あのライアー! 一体、何!? ノヴァくんが変になったのも、鳥の魔物が襲ってきたのも、あれのせいなんでしょ!?」

「わかんない!」

「わからない訳ないでしょ!? ヒナが持ってたんだから!」

「あれは貰ったの! だから、ヒナは悪くないの!」


 ヒナは声を上げて泣き出した。


「なんでこうなっちゃったの!? ヒナはただ、あのゾンビの本性をみんなに見せたかっただけなのにぃ……!」

「本性って……」

「あのゾンビが来てから、みんなおかしくなったの! お姉ちゃんはヒナに譲ってくれなくなったし、リブラさんはヒナのことばっかり叱るし! 王子様もヒナに構ってくれなくなった! 絶対おかしいもん!」


 ヒナの言葉を聞いて、ベリエは顔を歪めていた。

 ヒナに構わなかった自覚があるようだ。


「ゾンビの仕業よ! あいつが何か、悪い魔法をかけたに決まってるもん! わかってるのはヒナだけだったから、ヒナが何とかしなきゃって思ったの! ヒナこそが、本物の聖女なんだもん!」


 そう考えていたとき、ゾンビの本性を暴くライアーを貰ったと、ヒナは言う。


「あのライアーを弾けば、あのゾンビの本性を暴けるって聞いたの! だから、みんなの前で弾いてあげただけなの!」

「あれがノヴァくんの本性な訳ないじゃない! ライアーの音を聞いた後のノヴァくん、凄く苦しそうにしてた……!」


 ノヴァの悲痛の表情を思い出して、イオリは歯を食い縛る。

──あんな顔、させたくなかった……!


「ノヴァくんの本性を暴くだけなら、なんで魔物が押し寄せてきたの!?」

「わかんないよお!」


 ヒナは一際大きい声で叫んだ。


「ゾンビの危険性がわかれば、皆、ヒナのことを称賛するんじゃなかったの!?『ヒナのことを信じなくてごめんなさい』って言ってきて、ここに来た直後のように、またちやほやしてくれるんじゃなかったの!?」


 泣き叫ぶヒナを、イオリは「信じられない」という目で見た。


「ちやほやって……。そんなことのために……!?」

「そんなことって何よ!」


 ヒナはイオリを涙目で睨みつける。


「お姉ちゃんは良いわよね!? 最近、ちやほやされてるもんね!? 逆にヒナは腫れ物扱いよ!」

「それはヒナが我儘ばかり言って、みんなを困らせるからじゃない!」


 イオリは声を荒げる。


「お姉ちゃんばっかり狡いわ! ひとりぼっちの癖にいつも楽しそう! ヒナだって、何か特別な力が欲しかった!」


 ヒナはわんわんと子供のように泣く。


「お姉ちゃんはヒナの欲しいものを全部持ってる! 少しくらい、ヒナにくれたって良いじゃない!」

「何よ、それ……」


 イオリは鼻の奥がつん、となった。


「持っているのはヒナの方じゃない……」


 イオリはいつも教室の隅で本を読んでいた。

 それに対し、ヒナは友達に囲まれて、楽しそうにしていた。


「ヒナには、友達もたくさんいて、彼氏だっていた。ヒナの話を信じて、味方になってくれる人がたくさんいた」


 自分にそんな社交性はない。

 だから、一人でも楽しめる推し活に逃げる毎日だった。

 推し活は楽しかった。

 それでも、漠然とした孤独感がなくなることはなかった。


「私はずっとヒナが羨ましかった……!」


 イオリの目から涙が零れ落ちる。


「嘘よ、嘘! ヒナはいつも叱られてばかりだわ! それなのに、お姉ちゃんは褒められて! 

勉強が出来ないからって何よ! ヒナだって頑張ってるわ!」

「そこそこ勉強が出来ても、友達と恋人は出来ないのよ!」

「服だってそう! お姉ちゃんは新しい服を買って貰えて! ヒナのはお姉ちゃんのお下がりなのに!」

「ヒナが欲しがったんでしょ!?『お姉ちゃんなんだから譲ってあげなさい』って、何回言われたと思って!」

「ヒナはお下がりじゃなくて、新しい服が欲しかったの!」

「じゃあ、私の聖女服のサイズを直しても、結局着なかったんじゃない!」

「お姉ちゃんばっかり可愛い服着るの狡いもおん!」


 イオリは「ううう」と唸り、握りしめた拳を震わせる。

 頭に血が集まり、顔が熱くなる。


「ヒナの馬鹿! 馬鹿、馬鹿、馬鹿! 昔から考えなしなんだからー!」

「馬鹿って言われたあ! お姉ちゃん酷い!」


 ヒナはベリエに抱きついた。


「王子様、助けて!」

「こら! ベリエ王子に泣きつかないの! 自分がしたことでしょ! 自分で責任を取りなさい!」


 イオリとヒナに挟まれ、ベリエは戸惑っていた。

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