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限界オタク聖女が敵の拗らせゾンビ男子を溺愛してみたら  作者: フオツグ
限界オタクと推しと聖女降臨祭。
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限界オタクが手を取ろうとしたら

「違う……。違う……!」


 ノヴァは頭を抱え、首を振っている。


「ぼくは化け物じゃない……! 信じて……! お父様……! お母様……!」


 ノヴァはイオリに手を伸ばす。

 五年前、ゾンビになった日も、ノヴァはこうやって手を伸ばしたのだろう。

 それを、ノヴァの両親は容赦無く斬り捨てた。

──私なら。

 イオリはノヴァの手を取ろうと、手を伸ばす。


「イオリちゃん!」


 ヴァルゴに体を抑えられ、倒れそうになりながらも、イオリはノヴァの手をしっかりと掴んだ。

 ノヴァの瞳に光が灯る。

 へにゃり、と口元を歪ませて、イオリに笑いかけた。

 ぼとり、とノヴァの右腕が胴体から離れた。

 イオリの手にノヴァの右手がぶら下がる。


「ひいっ!」


 それを見て、ヒナが小さい悲鳴を上げる。


 ノヴァの右腕は、ゾンビ化した直後、父親に斬り落とされていた。

 それを自身の固有スキル《死霊の指揮者(ネクロマンス)》で胴体に取り付けていたに過ぎない。

 おそらく、頭がパニックを起こして、スキルが維持出来なくなったのだろう。


「あ……」


 ノヴァは絶望的な顔をする。

 そそくさと自分の腕をイオリの手から奪い、隠すように抱き締めた。

 その姿はまるで、隠し事がバレた子供のようだった。

──ああ、きっと、父親に腕を切り捨てられたときもこうだったんだね……。

 イオリの胸が酷く痛んだ。




「……今はそんなことしてる場合じゃない……」


 ノヴァが声を振り絞って言った。

 先程までの幼さはなりを顰めていた。

 少しだけ、冷静さを取り戻したらしい。


「何……?」


 ベリエが訝しげにノヴァを見る。


「……魔物が来るぞ……」

「……は?」


 噴水広場に、無数の影が落とされる。

 空を見上げると、そこには大きな鳥の魔物の群れがいた。


「え──」


 皆が驚いている間に、ヒナが巨大な鳥に掴まれ、空へと持ち上げられた。


「きゃあああああ!」


 ヒナの手からライアーが手から滑り落ち、堕ちた衝撃でライアーの弦が切れた。


「ヒナ様っ!」


 ベリエがヒナに手を伸ばす。

 しかし、もう既に空高く飛び立っており、全く届かない。


「《正義の秤(ユースティティア)》」


 リブラの召喚した剣がヒナを攫った魔物に突き刺さり、ヒナが空に投げ出される。


「いやあああああ!」


 ヒナは背中から落下する。

 無意味だと知りながら、空に向かって手を伸ばすしか出来なかった。

 落ちた衝撃を感じ、ヒナは目をぎゅっと瞑った。

 しかし、感じるはずの痛みは全くない。


「ご無事ですか、ヒナ様」


 ヒナは恐る恐る目を開ける。

 目の前には、涼しい顔をしたリブラがいた。

 リブラがヒナを受け止めてくれたのだ。


「リブラさん……。リブラさあん……! う、うああああん! 怖かったよおおお!」


 ヒナは泣き叫びながら、リブラに抱きついた。

 リブラは一瞬、体を硬直させた。

 しかし直ぐに、やんわりとヒナを引き離した。

 ヒナは顔を涙と鼻水でぐちゃぐちゃにしながらリブラに手を伸ばすが、リブラは強引にベリエへとヒナを引き渡した。

 リブラは眼鏡の位置を正し、【星の守護者】に向かって叫ぶ。


「【星の守護者】は聖女様をお守りせよ!」


 リブラの号令に、【星の守護者】は頷いた。

 先程まで敵対していたはずだが、リブラの声には従わせる力があった。



「イオリちゃん、アタシから絶対に離れないでね」

「は、はい! でも……」

「ええ。わかっているわ。この魔物達の狙いは……妹聖女ちゃんの方みたいね」

 

 ヒナは魔物に囲まれて震えている。

 ベリエに引っ付きながら、「やめて」「来ないで」「ヒナは聖女なのよ」と叫んでいる。

 彼女の近くにがリブラがいるから安心だろう。


「お城の中に避難しましょう。妹聖女ちゃんの方にはリブラちゃんもいるし、大丈夫でしょう」

「でも、ノヴァくんが……」

「今の彼は危険な状態よ。アナタが近づいたら、きっと良くないことになる。彼もアナタの安全を望んでいるはずよ」


 ノヴァはその場で蹲り、何か抗おうと苦しんでいる。

 戦いの中に置いていくのは危険だ。

 イオリが尻込みしていると、ヴァルゴは「フウ」とため息をついた。


「ごめんなさいね」

「わっ」


 ヴァルゴはイオリを抱え上げた。

 そして、城の方へ走り出す。



 鳥の魔物達が行手を阻んだ。


「魔物が……!」

「……ンフ。久々に腕が鳴るわね」


 ヴァルゴはイオリをそっと地面に下ろした。


「イオリちゃん」


 ヴァルゴはイオリに手を差し出す。


「──シャルウィダンス?」

「え? あ……。はい」


 イオリはヴァルゴの手を取った。


「ウフフ。ありがと。じゃあ、行くわよ──《視線上の戦少女(ヴァルキリー)》!」


 ヴァルゴとイオリの手を引き、くるくると回りながら、敵に向かっていく。

 ヴァルゴは近づいてきた魔物に回し蹴りをお見舞いした。

 魔物は一撃で倒された。

 それからも、ヴァルゴは踊るように魔物を倒していく。

【乙女座の守護者】ヴァルゴの固有スキル《視線上の戦少女(ヴァルキリー)》。

 踊ると自分自身を強化するスキルだ。

 しかも、踊れば踊るほど、強化が増していく。

 人類最強の男・リブラにも匹敵する強さにもなり得る。

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