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限界オタク聖女が敵の拗らせゾンビ男子を溺愛してみたら  作者: フオツグ
限界オタクと推しと聖女降臨祭。

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限界オタクが【聖女降臨祭】で行進してみたら

【聖女降臨祭】──聖女召喚の儀にて召喚された【星の聖女】を歓迎する祝祭である。

 魔王討伐の期待を込め、盛大に行われる。

 青空にはバルーンが浮かび、紙吹雪が舞っている。

 沿道には数々の屋台が立ち並んでいる。

 聖ソレイユ王国で獲れた作物や伝統的な料理、工芸品などを販売している。

 異世界から来た【星の聖女】に聖ソレイユ王国の文化を感じて貰うためだ。

 他にも、【星の守護者】の似顔絵が彫られた記念コインなどが店先に並んでいる。


「いつにも増して凄い人だなあ」


 祭りを楽しむ民衆の一人が辺りを見回して言った。


「今回は開催が遅れただろ。たっぷり準備する時間があったんだ。みんな気合い入ってるよ」

「確か、姉聖女様が行方不明になったんだっけ?【墓場の森】で見つかったとか……」

「ゾンビに魅入られたって聞いたけど、あれからどうなったんだ?」

「姉聖女様も参加されるんだろ? 何とかなったんじゃないか?」

「──おーい!【星の聖女】様と【星の守護者】の行進が始まるそうだぞ!」


 何処からか聞こえた大声に、祭りを楽しんでいた人々は足を止めた。


「行進だって!?」

「行こう行こう!」


 魔王に挑む勇者達を一目見ようと、城門の前に人が殺到する。

 国の治安を守る流星騎士団が道の端に立ち並び、【星の守護者】の行進する道に人が入らないように見張っている。


「【星の聖女】様、【星の守護者】のお目見えです!」


 王城の門扉が開き、二人の【星の聖女】が姿を現す。

 その後ろに、【牡牛座の守護者】を除く、十二人の【星の守護者】が続く。

 民衆は大きな歓声を上げた。

 十四名は道を進んでいく。


「妹聖女様! 怪我を治してくれてありがとう!」


 青年がヒナに感謝を伝えた。

 ヒナがイオリの作った回復ポーションの効力を聖女の力と偽って、傷を癒した人の一人だろう。

 彼はヒナが聖女の力を使えないことを知らないらしい。

 ヒナは騙した罪悪感などまるでないように、笑顔で小さく手を振った。

 わあ、と感動の声が上がる。


「きゃー! ベリエ王子ー!」


 若い女性がベリエに向かって手を振った。

 ベリエは慣れたように爽やかな笑顔で手を振り返した。

 黄色い歓声が上がる。

 ベリエはこの国の王子ということもあり、人前に出る機会が多い。

 ベリエの甘いマスクに惚れた女性は多数いることだろう。


「レオ騎士団長ー! この国の未来を託したぞー!」


 騎士団長・レオに野太い声で激励の言葉をかけられる。

 レオは胸に手を当て、「任せろ!」と答えた。

 男性陣は雄叫びを上げた。

 ベリエに対して、レオは男性人気が高い。


「【星の守護者】様! 頑張って、魔王を倒して!」


 子供達がぴょんぴょんとジャンプしながら、「頑張れ」と小さい手を必死に振っていた。

 イオリは「誰か答えるかな?」と後ろを見たが、イオリ以外に気づいている人はいないようだ。

 イオリは子供達に目を合わせ、「頑張るよ」と口をパクパクと動かし、両手を胸の前に持ってきて、拳を作った。

 子供達はぱあ、と表情を明るくさせ、更に激しく手を振った。

──私、意外と受け入れて貰えてる?

 イオリの耳に、悪口は聞こえてこない。

 むしろ、【星の聖女】を歓迎する声ばかりだ。

──ノヴァくんの方は大丈夫かな……?

 イオリは【星の守護者】の列の末尾にいるノヴァのことが心配だった。


 □


 ノヴァは【星の守護者】達の一歩後ろを歩いていた。

 両脇には監視のため、リブラとヴァルゴがいる。

 出来るだけ良い印象を皆に与えられるよう、背筋をしっかりと伸ばし、目を前に向けて歩く。


「あれが、噂のゾンビ……?」


 民衆はノヴァを訝しげに見る。


「顔色は真っ白だけど、ゾンビに見えないなあ。ゾンビってもっと怖い顔してるんじゃないのか?」

「知性があって、会話が出来る、初めて確認されたゾンビなんだって」

「本当に人間の味方なのか……?」


 民衆達はそう噂する。

 ノヴァは平静を保つ。

 どんな目で見られようと、何を言われようと、動揺してはいけない、と自分に言い聞かせる。


「──きゃあああああ!」


 歓声のような女性の悲鳴が聞こえて、ノヴァは思わず肩を飛び上がらせた。

 何か、怖がらせるようなことをしてしまっただろうか、と不安になる。

 彼女達に視線を悟らせないように、横目で悲鳴の聞こえた方を見る。

 沿道に集まる民衆の少し離れたところに、ドレスを着た淑女達が集まっている。

 日傘を差し、ハンドル付きのオペラグラスでノヴァの方を見ている。

 ノヴァは恐怖を感じた。


「見て! あれが『神キャロ』のモデルになった……!」

「──ゾンビ様!」


 淑女達は声を合わせて言う。


「リブラ様の弟君で、現在従属契約中だとか……!」

「リブラ様と並んでいるのを見ると、お顔、似てらっしゃるわね……! あの話は本当だったんだわ!」


 淑女達はきゃっきゃっと内輪で盛り上がっている。


「きゃー! リブラ様ー! ゾンビ様ー! こっち向いて下さいましー!」

「狡いわ、貴女! わたくしも手を振って頂きたい! お二方ー! わたくしにもー!」


 淑女達は我先にとリブラとノヴァに手を振っている。


「……なんか、思ってたのと違う反応……?」


 ノヴァは動揺した。


「イオリ様が描いた本の影響でしょう」


 リブラはそちらに一切目を向けず、冷静に答えた。


「何が描いてあったら、あんな反応になるんだよ」

「一通り本に目を通したのですが、史実を元に構成されていました。悲しい内容のはずなのですが、何が彼女達を興奮させるのやら……」


 ノヴァとリブラにとって、彼女達の言動と行動は理解出来ないものだった。

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