ゾンビ男子、新しい服を披露する
【聖女降臨祭】当日。
王宮内は朝から【聖女降臨祭】の準備で慌ただしかった。
【星の守護者】達は式典服に着替え終え、一時的な控え室である応接室に集まっていた。
式典服は【星の聖女】並びに【星の守護者】に倣って、白を基調としたものである。
星型の装飾が至る所に散りばめられ、式典服にはそれぞれの【星の守護者】の証が刺繍されている。
そして、出身国ごとにテーマカラーも決まっていた。
火の都は赤、風の都は緑、水の都は水色、土の都は黄色……といったように。
服の造形にもこだわられている。
騎士団長のレオは騎士団の服をアレンジしたようなものとなっており、神官のリブラはキャソックのような形をしている。
皆の式典服はそれぞれの職業のイメージしたデザインとなっていた。
「わあ~! 皆様、お似合いですぅ!」
式典服を着た【星の守護者】達がずらりと並んでいるのを見て、ポワソンは目を輝かせた。
彼らの式典服を一つ一つデザインし、繕ったのは、他でもないポワソンである。
「夜鍋した甲斐がありましたぁ!」
「お疲れ様でした、ポワソン」
リブラがポワソンに労いの言葉をかけた。
「全員分の式典服を作るのは、さぞ大変だったでしょう」
「大変だなんてそんな! とても楽しかったですぅ! 皆様、スタイルが良いですから、腕が鳴りましたぁ!」
ポワソンは疲れを感じさせない笑顔で答えた。
「心配いりませんよ、リブラ殿」
ポワソンの親友・キャンサーがリブラに笑いかけた。
「創作者という人種は、作り上げたものが完成すると、疲れが吹き飛んでしまうものです」
【蠍座の守護者】スコルピオンは「へっ」と笑う。
「一作も完成させたことがない奴がよく言うぜ」
「実は一冊出来たんです」
キャンサーは得意げに言った。
「何!? お前の本が出来たのか!?」
「ええ。翻訳者として名前が乗りました」
キャンサーは懐から、イオリとの共同作『神官とゾンビのキャロル』を取り出した。
そして、「ほらここ」と表紙の自分の名前を指差した。
「なーんだ。てめえが書いたんじゃねえのか。驚いて損した」
「『なーんだ』とは失敬な。これも立派な小生の本です」
キャンサーは本を高く掲げて本を自慢をした。
リブラは自身の式典服を眺め、首を傾げる。
「……私の式典服、前に見たときと少し変わっているような」
「お気づきになられましたかぁ!」
ポワソンはぱあ、と表情を明るくさせた。
「実は、リブラ様とイオリ様の式典服なんですが、少々手直しをさせて頂きまして……」
荘厳な雰囲気になるように、短いケープ・モゼッタやストラを追加し、裾が広がるようにスリットも入れてある。
「私とイオリ様だけですか?」
「はい! ノヴァ様の式典服と合わせたいところが出来まして……!」
ポワソンはハッとした。
「……あっ。すみません。許可も取らずに勝手なことを……。『神官とゾンビのキャロル』を読んでから、思いついたものですから」
「いいえ。素敵だったものが、更に素敵になりました」
「本当ですかぁ!? そう言って頂けて嬉しいですぅ……!」
ポワソンは赤くなる頬を手で押さえて照れる。
「ノヴァの服も楽しみです」
リブラの言葉にポワソンはハッとした。
「ノヴァ様のお着替えもそろそろ済む頃合いかと! 声をかけてみましょうか」
ポワソンは応接室の隅に設置されたカーテンに近寄る。
「ノヴァ様! お着替え出来ましたか?」
ポワソンがカーテンの向こうで着替えているノヴァに声をかけた。
「は、はい! 今出ます!」
ノヴァは返事をして、カーテンを開いた。
白い神官の服。
テーマカラーはリブラと同様、緑色。
リブラとお揃いのストラ。
シルエットはボリュームを抑え、【星の守護者】との違いを出している。
【星の守護者】の式典服よりシンプルだが、しっかりとした作りになっている。
「あの。この服、オレが着ても大丈夫なんですか……?」
ノヴァは顔を下に向け、自信がなさそうに視線をきょろきょろと彷徨わせた。
「お、お気に召しませんでしたか……?」
ポワソンが眉を下げて聞く。
ノヴァは首を横に振った。
「そうではなくて! こんな素敵な服……オレには相応しくないんじゃないかって」
「何をおっしゃいます! とってもお似合いですよぉ! ね、リブラ様!」
ポワソンはリブラに感想を聞いた。
「ノヴァ……よく似合ってます」
リブラがノヴァにをかける。
「そりゃどうも──って、なんでお金手渡してくる?」
「今日は沿道に出店が立ち並んでいます。【星の守護者】行進のあと、このお金で好きなものを買いなさい」
「『ゾンビです』って紹介された後に? 何考えてんだよ、お前」
ノヴァは呆れた顔をして、リブラに硬貨を突き返した。
「ノヴァ様、こちらに来て貰えますか? キャンサー坊ちゃんにもノヴァ様のお洋服を見せたいので!」
ノヴァはポワソンに手を引かれ、キャンサーとスコルピオンの前まで連れて行かれた。
リブラは少し寂しそうに立ち尽くした。
「本当に、ノヴァを【聖女降臨祭】に参加させるんじゃな」
シュタインボックがリブラに近寄ってそう言った。
「本気で【星の守護者】と並んで行進させる気か?」
「はい。そのつもりです」
「いやはや、思い切ったことをするのう……。ゾンビが【星の守護者】と共に沿道を歩くなど、前代未聞じゃ」
「そうですね」
「人々はノヴァを受け入れんじゃろう。心無い言葉を浴びせされるだけなら良いが、暴動が起こり、【聖女降臨祭】が台無しになる可能性もある。それでも強行するのか?」
リブラはノヴァに目を向ける。
ノヴァはポワソンとキャンサー、スコルピオン、そして、ヴァルゴに囲まれて、困惑していた。
ノヴァを取り囲む雰囲気は和やかなものだった。
「台無しにはさせません。力づくでも」
リブラは力強くそう言った。
シュタインボックは息を吐きながら言う。
「……なら何も言わん」




