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限界オタク聖女が敵の拗らせゾンビ男子を溺愛してみたら  作者: フオツグ
限界オタクと推しとメインキャラと。
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限界オタクが聖女勉強会に参加してみたら

 イオリが明星寮への引っ越しを終えた翌日。

 第一回目の聖女勉強会が開催された。

 場所は明星寮の会議室。

 机を並べ、イオリとヒナが離れて座っている。

 二人の前に、【蟹座の守護者】キャンサーが立った。


「さあて、聖女のお二方。お勉強のお時間ですよ〜」


 キャンサーはニコニコと笑いながら言った。


「よろしくお願いします!」


 イオリは緊張した面持ちでキャンサーの顔を見る。

 ヒナは勉強会が嫌なようで、ずっと不機嫌そうな顔をしている。


「小生、本日の教師役を担うこととなりました。【蟹座の守護者】のキャンサーと申す者です」


 キャンサーは胸に手を当て、頭を下げた。

 イオリが首を傾げる。


「あれ? 風の都の人が教師役をするって言ってたような……」

「初日ですからな。基礎知識を教えるぐらいならば、小生で事足りると。一応、風の都の高等教育は一通り習っておりますので、教師役として不足はないかと思います」


 キャンサーは微笑む。


「小生のことは『キャンサー先生』と呼んで下さいな」

「はい! キャンサー先生!」


 イオリは食い気味に呼んだ。


「おやおや、素直なことで」

「まさか、キャンサー先生を堂々と『先生』と呼べる日が来るとは思いませんでした……」


 作家先生ではなく、教師という意味だが、イオリは感慨深かった。

 キャンサーは自称・作家である。

 ユーザーからは『先生(笑)』と揶揄われることが多い。

──ちょっと悲しかったのよね。


「何だか、失礼なことを言われているような……まあ、良いでしょう」


 キャンサーは指揮棒を手に取り、横に振る。

 指揮棒の先から、白い線が現れて、空中に留まっている。

 わあ、とイオリは声を上げた。


「それ、錬金術具ですか!? 凄いですね!」

「ええ。空中に文字や絵を描ける便利な品です。絵を描くには、まだ色が少ないのですがね」


 キャンサーは空中に絵を描いていく。

 

「ではまず、【星の聖女】について話していきましょうな」


 キャンサーは今描いた絵を指揮棒の先で指した。

 目を吊り上げた角の生えた大きな生物と、剣を持った人間達が戦っている。

 戦う人間達の後ろで、祈っている人間がいた。


「【星の聖女】とは、魔王軍と戦うために、聖女召喚の儀にて召喚された異世界人のことです」


 キャンサーは祈っている人物を丸で囲った。


「この世界を救いたい気持ちが強い者が、聖女として召喚されると言い伝えられております」


──実際は、ノヴァくんを救いたいという気持ちだった訳だけど。

 イオリは、はは、と乾いた笑い声を出す。

 キャンサーは説明を続けた。


「【星の聖女】は絶大な癒しの力を持っており、魔王軍と戦うためには必要不可欠。ですから、貴女方が呼ばれたのです」


 聖女召喚の儀を行うには、十三人の【星の守護者】が必要だという。

【星の守護者】とは、星の導きの元、【星の聖女と共に魔王軍に立ち向かうため集められた、精鋭達のことを言う。

【星の守護者】に選ばれる際、体の何処かに星座の証が浮かび上がる。


「小生の場合は、舌に蟹座の証があります」


 べ、とキャンサーは舌を出した。

 舌の表面には、【星の守護者】の証である、蟹座の星座が刻まれている。


「この【星の守護者】の証は、その部分切り落としても、皮膚を剥いでも、消えることはありません。【星の守護者】を降りることは出来ないのです」


 イオリの頭には、先日の【星の守護者】会議にて、自身の星座の証を削ぎ落としたリブラの顔が浮かんだ。

──リブラさんのあれ、パフォーマンスだったんだな……。それにしては、本気に見えたけど。


「暫くの間、【牡羊座の守護者】が現れなかったのですが、ベリエ王子がそれになったことで、十三人の【星の守護者】が揃いました」


 そして、聖女召喚の儀が行われ、イオリとヒナがこの世界に召喚された──。


「どうやら、この聖女召喚の儀では、召喚される際、近くにいた人も巻き込むようです。お二人のどちらかは『召喚に巻き込まれた可哀想な人』ということですな」

「巻き込まれた方は偽物の聖女ってこと?」


 ヒナが尋ねる。

 キャンサーは首を横に振った。


「いいえ。そうではありません。どちらも本物の聖女──本物の異世界人であることに、違いはありません」

「じゃあなんで、ヒナは聖女の力が使えないのよ」


 ううむ、と唸りながら、キャンサーは腕を組んだ。


「小生、【星の聖女】については文献でしか知らないので、はっきりとしたことは言えないのですが……。聖女の力は、強い願いによって、発現すると言われております」

「はあ? 強い願い……?」

「願いは力。力は願い。人々の固有スキルも、願いに基づいて発現するようです」


 キャンサーはイオリに笑いかけた。

 イオリは身構える。


「姉聖女殿は聖女の力を使うとき、何を願うのです?」

「え?」

「後学のためにも是非、教えて頂きたいですな。妹聖女殿の参考にもなるでしょう」


 イオリはううん、と唸る。

──私の願いはノヴァくんを幸せにしたい……なんだけど。


「……私の願いはかなり俗物的で……」

「人の願いとはそういうものでしょう。『お金持ちになりたい』、『名声が欲しい』、『あれが欲しい』、『これも欲しい』……人間の欲に際限はない。言いたくないようでしたら、ふわっとでも教えて頂ければ」

「ある人の幸せを願っている……感じです」

「ほほう。〝愛〟ですな……」


 あはは、とイオリは愛想笑いをする。

──愛と言っちゃあ、愛だけど……。純粋な愛じゃないんだよなあ……。いや、推しへの純粋な愛ではあるんだけど。


「歴代の聖女殿も、誰かを愛することで、聖女の力を発現したとされています。いずれ、妹聖女殿も、愛する人と出会えば、聖女の力を発現出来ることでしょう」


 そう言って、キャンサーはヒナに笑いかけた。

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