限界オタクが明星寮へ引っ越ししてみたら
聖ソレイユ王国王都にある明星寮。
そこは、ゲーム【よぞミル】にて、ユーザーの化身【星の聖女】が【星の守護者】と暮らすこととなる場所だ。
キャラクター達と交流したり、修行したり、会議をしたりなど、様々なストーリーの舞台となる。
イオリは少量の私物を持ち、ヴァルゴと共に、明星寮へとやってきた。
「凄い……」
──明星寮の外観や内装が、ゲームの背景そのまま……!
イオリは感動して体を震わせた。
「イオリちゃん、こっちよ」
「あ、はい!」
ヴァルゴに呼ばれ、イオリは慌ててヴァルゴの後ろを歩く。
明星寮内を隅々まで見て回りたい気持ちを抑えつつ、イオリは割り当てられた部屋の前までやってきた。
「ここがイオリちゃんの部屋よ」
ヴァルゴがイオリの部屋へ案内する。
「お洋服はここに置いておくわね」
「ありがとうございます、ヴァルゴ姉。案内までして貰って」
「これぐらい良いのよ」
ヴァルゴは笑顔で答える。
「何かあったら、アタシの部屋に来てねん。隣の部屋にいるから」
「え。ヴァルゴ姉の部屋、隣なんですか?」
「嫌かしら?」
ヴァルゴは悲しそうに眉を下げた。
「い、いえ! 部屋が近くて、嬉しいです!」
イオリは慌ててそう言った。
──【よぞミル】では、聖女の部屋も、ヴァルゴ姉の部屋も違うんだよね。なんで、部屋割りが変わってるんだろう。聖女が二人だから?
「……もしかして、私のために部屋割りを……?」
ヴァルゴは微笑んだ。
「リブラちゃんが気を遣ってくれたの。アタシが隣の部屋にいた方が、イオリちゃんを手助けしやすいんじゃないかってね。自分は弟ちゃんのために入寮出来ないからって」
イオリは目がじんわりと熱くなった。
「優しい……」
「優しいのよ、リブラちゃん。わかりにくいけれど」
「知ってます。ヴァルゴ姉も優しいことも勿論」
「あら、嬉しいこと言ってくれるじゃない」
イオリとヴァルゴはうふふ、と笑い合う。
「もう入寮している【星の守護者】はいるんですか?」
「シュタちゃんはずっと住んでいるわね」
シュタちゃん──【山羊座の守護者】シュタインボックのことだ。
彼は【山羊座の守護者】に選ばれてから、ずっと【星の守護者】である。
そのため、【星の守護者】のための寮である明星寮に定住している。
「あとは、シュタちゃんの監視が必要なスコルピちゃん」
【蠍座の守護者】スコルピオンは受刑者であり、シュタインボックに監視されている。
そのため、シュタインボックの目の届く明星寮に住まわされている。
「サジタちゃんとキャンサーちゃんあたり?」
【射手座の守護者】サジタリウス、【蟹座の守護者】キャンサー。
イオリは彼らの名前を聞いて、あることに気づいた。
「中立派ばかりですね……」
山羊座・シュタインボック、蠍座・スコルピオン、射手座・サジタリウス、蟹座・キャンサー。
この四人は姉聖女派と妹聖女派のどちらにも味方をしていない、所謂、中立派だった。
「まさか、これもヴァルゴ姉達が……?」
「それは偶然」
ヴァルゴは笑った。
「あ、そうですよね」
イオリは推測が外れて、恥ずかしくなり、笑って誤魔化した。
「妹聖女ちゃんの部屋は遠くにして貰ったから大丈夫よ。彼女もわざわざこっちに来ないでしょうし」
「ヒナ……」
イオリはヒナのことを思い出して、気分が沈んだ。
「ヒナも今日、入寮するんですか?」
「妹聖女ちゃんはもう既に入寮しているわ」
──入寮の日も被らないようにしてくれたのね……。
イオリは頭を下げた。
「迷惑かけてすみません……」
「何言ってるの! もっと迷惑かけても良いのよ。アタシ、迷惑かけられるの大好きなの。可愛い子はお世話したいじゃない?」
──可愛い子……。流石、ヴァルゴ姉。乙女心がわかってるなあ。
女の子は『可愛い』と言われると嬉しい。
そのことを知っていて、イオリを『可愛い子』と呼んだのだろう。
「ありがとうございます、ヴァルゴ姉」
イオリは微笑んだお礼を言う。
ヴァルゴも微笑みを返した。
「でもね、どうしようもならないこともあって」
ヴァルゴは唇を前に出して、不満そうに言う。
「どうしようもならないこと?」
「聖女勉強会なんだけど、妹聖女ちゃんと顔を合わせることになりそう」
イオリの体が強張る。
「ヒナと一緒に勉強会を?」
「教師役の【星の守護者】のスケジュールを組むのが難しくてね。一人なら、余裕を持ってスケジュールが組めるからって」
イオリとヒナ、別々に勉強会を行うのならば、一度に二人の教師が必要になる。
それはかなり困難だ。
ならば、同時に、同じ部屋で勉強会を行なった方が、【星の守護者】の負担が少ない。
「アタシ達の都合でごめんなさいね」
「いえ! ここまで気を遣って頂いて、申し訳ないです!」
イオリは両手を左右に振った。
「安心して。トラブルにならないよう、アタシ達が目を光らせておくから」
ヴァルゴは力こぶを作り、腕っぷしの強さをアピールした。
「頼もしいです」と口では言いつつ、イオリは不安だった。
──ヒナと一つ屋根の下。しかも、一緒に勉強会か……。何も起こらない……訳ないよね。
イオリの嫌な予感は直ぐに的中することになる。




