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限界オタク聖女が敵の拗らせゾンビ男子を溺愛してみたら  作者: フオツグ
限界オタクと推しとメインキャラと。
50/84

50ゾンビ男子、住処へ案内する

 おんぼろ橋が壊れないよう、一人ずつ橋を渡った。

 暫く森を進むと、ノヴァの住処である塔の下へと辿り着いた。

 スコルピオンは塔を見上げた。


「【墓場の森】にこんなところが残っていたとは……」

「昔はこの森も人間の領地じゃった。おんぼろ橋も、この塔も、人間の作ったものじゃ。今や、ゾンビが蔓延る地。昔の人々はこの地を打ち捨てる他なかったのじゃ」


 塔に近づくと、ボコッ、ボコッと、地面から無数の手が飛び出す。

 塔の下に住み着くゾンビ達だ。


「ゾンビ……!」


 リブラとスコルピオンが身構える。


「よーお、元気にしてたかァ? お前ら」


 ノヴァはへらへらと笑いながら、ゾンビ達に歩み寄った。

 リブラは驚いたようにノヴァを見る。


「ノヴァ? 一体何を──」

「あー、のゔぁさまだー」


 ゾンビ達は「のゔぁさま」と言いながら、ノヴァに近寄る。


「のゔぁさま、おかえりー」

「ああ、ただいま。何もなかったか?」


 ノヴァは笑顔で答える。


「なにもないー」

「あじと、まもってたー」

「はは。守っててくれてありがとうな」


 ノヴァは子供のゾンビの頭を撫でる。


「ほめられたー」

「べんきょう、おしえてー」

「勉強はまた今度な。今日はお客さんが来てるから」


 ノヴァは後ろの三人に目を向ける。


「おきゃくさんー?」

「にんげんだー」

「にんげんかむー。なかまにするー」


 ゾンビ達の無邪気で恐ろしい言葉に、リブラとスコルピオンはぎょっとする。

 ノヴァは落ち着いた様子で言った。


「噛むの駄目だぞ。大事なお客さんだから」

「おきゃくさん、かまないー」

「わかったー」


 ゾンビ達は手を上げて、理解を示す。


「……驚いたのう。知性のないゾンビでも、意思の疎通が出来るなど」


 シュタインボックがゾンビ達をまじまじと見て、そう言った。


「まあ、会話が出来るのはほんの一人握りですよ。他のゾンビはほとんど話せません」

「話せるゾンビと話せないゾンビ。一体、何の違いがあるのじゃろうか……」

「どうやら欠損が多いと、知能が低くなるみたいです。ここらへんにいる奴はみんな綺麗に残ってるでしょう?」


 シュタインボックはゾンビを眺める。

 ここにいるゾンビ達は、ところどころ体が欠けているが、四肢は揃っているようだ。


「ふむ。確かに……」

「あとは、ゾンビになるタイミングですね。生前、ゾンビに噛まれてゾンビ化すると、知性が残る確率が高いみたいです。死後、ゾンビになった奴はほとんど話せません」


 ノヴァは後者だ。

 生前、ゾンビに噛まれてゾンビとなった。

 片腕は千切れているが、他に欠損したところはない。


「……それが事実ならば、常識が覆ることになろう」


 シュタインボックは引き攣った笑みを浮かべる。


「今まで、ゾンビは話の通じない魔物じゃった。だから、我々は問答無用に斬り殺していたのじゃ」


 国内にゾンビの侵入を許さず、国内でゾンビに噛まれた者は処分してきた。

 王国にゾンビが少ないのは、そうしてきた歴史があるからだ。


「じゃが、ゾンビに知性も、記憶も、痛覚もあったかもしれないとなれば、話は別じゃ。ゾンビ化したからと、大切な人を手にかけた者はどうなる? 罪悪感に耐え切れるじゃろうか?」

「……今の話は、オレの所感です。根拠はありません」

「否、そなたは五年も実地でゾンビを観察してきた。おそらく、その感覚は間違いではない……」


 シュタインボックは手のひらで目を覆った。


「わしは甘く見ていたのやもしれん。そなただけが特別、会話の出来るゾンビであると。じゃが、特別ではないとしたなら……」

「シュタインボック様、過去のことはどうにもなりません」

「わかっておる。じゃが……」


 シュタインボックは深いため息をつく。


「……『もしも』を考えてしまう」


 シュタインボックは最古の【星の守護者】だ。

 ゾンビ化した人間を数多く見送ってきたに違いない。

 その中には、親しくしていた人達もいたのだろう。


「本当に、申し訳ありません、シュタインボック様。軽率な発言でした……」


 シュタインボックはフッと笑う。


「そなたは聡いな」

「え……?」


 ノヴァは何故今、シュタインボックに誉められたのか、不思議に思った。


「聡い? オレが? 学校にも通ってないのに……?」

「人をよく見ておる。例え膨大な知識を身につけたとしても、出来ぬ者には出来ぬことじゃ」


 シュタインボックはリブラに目を向けた。

 ノヴァはつられて、同じ方を見た。


「あやつもようやく、世界が広がったようじゃ」


 ノヴァはシュタインボックが何を言っているか理解出来なかった。


「……ノヴァ、塔の中に入っても?」


 リブラがノヴァに尋ねる。

 ノヴァは答える。


「良いけど……汚ねえぞ」


 ノヴァは塔の扉を開けた。

 続いて、住処の方の扉を開けた。


「うわ……。やっぱり、暫く掃除してねえから汚ねえな……」


 ノヴァは住処の中へと入っていき、窓を開けて空気の入れ替えを図る。


「何もねえな……。雪国監獄の方がもっと物あるぜ」


 スコルピオンは言った。

 リブラは扉付近から動けないでいた。


「こんなところで……五年も」

「……たく、調子狂う……。別に、ここでぼーっと暮らしてた訳じゃねえ」


 スコルピオンは置いてある家具をまじまじと見た。


「結構良い家具使ってんじゃん? このソファ、魔獣の皮使ってるぜ。もしかして、実家から援助して貰ってたのかあ?」


 スコルピオンは下品に笑う。

 リブラがスコルピオンを睨みつけた。

 ぴり、とその場に緊張が走る。

 ノヴァはへらりと笑った。


「援助して貰えてたら、こんなところに住んでねえよ」

「ま、確かに」

「そのソファは【墓場の森】に捨てられてた奴を拾ってきて、使えるように直したんだ」

「直したって……自分で?」

「そりゃ勿論。……あ、外のゾンビ達にも少し手伝って貰ったっけな。一人じゃ持てねえから」

「器用だな……。お前、貴族のボンボンなんだろ? あの眼鏡と同じんちの出なら」


──眼鏡……。

 ノヴァは『眼鏡』と呼ばれたリブラをちらりと見てしまう。

 リブラはまだ怒っている様子で、眉根を寄せている。


「まあ、同じ家にいたけど」

「金持ちってのは、壊れたもんは直ぐに捨てて、新しいもんを買うんじゃねえの?」

「両親はそうだったかも。オレはガキだったから、自由に使える金が少なくてなくて、買えなかったんだよな。ペンとか服とか、壊れないように使ってたし、壊れたら直して使ってた」

「あいつら……はあ」


 リブラは額に手を当てて、ため息をついた。

 シュタインボックは窓の外を見た。


「……ゾンビが襲ってくる様子はないのう。奴らはわしらをいつでも包囲出来るというのに」

「オレが『襲うな』って言ったからですね」

「そなたはスキルは使っておらんじゃろう。ゾンビ達は言葉を理解し、本能を制御しておる……」


 シュタインボックは振り返り、三人を見た。


「一度、王国へ戻るぞ。今回得た情報を精査したい」


 情報とは、知性を持ったゾンビの件だろう。

──オレを利用するかどうかの結論は、また今度出されるんだろうな……。

 ノヴァは頷いた。


「わかりました」

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