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限界オタクが推しをパワーアップさせてみたら

 イオリとノヴァは魔王城の貯蔵庫を漁り、氷魔法で冷凍保存されていた丸パンを見つけた。

 いつからあったかわからないミルクや変な臭いのする肉もあったが、「食べるべきではない」と二人の意見が一致したことで、丸パンだけを拝借した。

 庭に移動し、人間が食べても大丈夫な雑草をノヴァが選別し、切った丸パンに挟んだ。

 即席の野菜サンドイッチの完成である。

 お世辞にも「美味しい」と言えないそれを、イオリはもそもそと頬張り、井戸水で胃に流し込んでいた。

 そんな中、ノヴァは少し離れたところに立つ。


「《泥団》!」


 ノヴァがスキル《泥団》を植木に放つ。

《泥団》は凝縮した泥団子を生み出す、誰でも使える基礎スキルだ。

 戦闘ではそれを勢いよく敵にぶつけて、攻撃する。

 ノヴァの《泥団》は使い手のレベルが低いのか、はたまたスキルレベルが低いのか、木にぶつかっただけで直ぐに壊れてしまった。

《泥団》がぶつかった部分は少し凹んだくらいで、そこまで威力が高そうに見えない。


「……チッ。こんなんじゃ全然駄目だ!」


──スキルの特訓してるのかな? 行き詰まってるみたいだけど……。……レベル上げ、かぁ。

 イオリはパンに噛みつきながら、召喚前の記憶を思い起こす。

 ソシャゲ【よぞミル】内では【星の欠片】というアイテムを使って、キャラクターのレベル上げをする。

 敵と戦うことでも経験値を得られるが、【星の欠片】を使った方が得られる圧倒的に経験値が多い。

 種類は三種類あり、大・中・小と大きさで分けられている。

 勿論、大きい方が経験値をたくさん貰える。

──ノヴァくんは敵キャラだけど、この世界の住人だし、【星の欠片】でのレベル上げ出来るんじゃ? 試してみる価値はあるかも。

 聖女誘拐のストーリーまで来たら、ノヴァと【星の守護者】が戦うストーリーまで直ぐだ。

 ノヴァには生き残って貰わないと困る。

──死に際が美しいのも良いけど、やっぱり元気に生きててほしい。推しは生きててなんぼ。

 イオリはパンの最後の一切れを口に放り込むと、ノヴァに近寄った。


「ねえ、ノヴァくん。【星の欠片】って持ってる?」

「【星の欠片】ァ? 魔王城の地下にごまんとあっけど……何で、んなもん欲しがるんだよ?」

「ノヴァくんが強くなれるかもしれないから」

「強く……」


 ノヴァは腕を組み、訝しげにイオリを見る。


「……【星の欠片】があれば、強くなれんのか?」


──敵の言うこと、簡単に信じるんだ……。チョロくて心配になるよ、ノヴァくん。

 イオリはそう思って、ノヴァを心配そうに見つめる。


「何だよ?」


 ノヴァは首を傾げる。


「何でもない」


 イオリは誤魔化すように笑った。


「……んで? 強くなれんの、なれねえの」

「多分、なれる」


 ノヴァは長考した末、「ちょっと待ってろ」と言って、魔王城の中に入っていった。


 □


「ほい、【星の欠片】」


 ノヴァは直ぐに戻ってきた。

 羽織っている羽織の裾を摘み上げると、服の内側からどっさりと【星の欠片】が落ちてくる。


「はー。たくさん持って来たね」

「たくさんあった方が良いだろ。それに地下にゃ、この千倍ある」

「千倍も!?」

「魔物は死んだら、みんな【星の欠片】になんだよ。つまり、こいつらは全部魔物の死骸ってこった」


 ノヴァは【星の欠片】を一つ拾い上げた。

 金色の輝く星のような欠片。

 それが恐ろしい魔物の死体なんて信じられない。


「オレも、いつか……」


 ノヴァがポツリとそう呟く。

 イオリはハッとした。

──ノヴァくんも魔物だから……。

 いずれ、彼も【星の欠片】になるのだろう。

 そのときが目前に迫っていることをイオリは知っている。

 イオリはノヴァの手を握る。


「君を星屑にはさせないよ。絶対に」


 イオリはノヴァの目を見て言った。


「……そうかよ」


 ノヴァは顔を逸らして、ぶっきらぼうにそう言った。


「と、いうことで! これ、食べてみて!」

「食べるぅ? 【星の欠片】を?」

「そう!」


 ソシャゲ【よぞミル】では、【星の欠片】を消費して、キャラクターをレベルアップせさせる。

 では、リアルではどうするのか。

 イオリは『食べる』しか思いつかなかった。


「魔物の死体だぞ!? しかも、石みたいな材質だし……!」

「強くなりたいんでしょ?」

「う……そりゃあそうだけど」

「じゃあ、食べてみて」


 イオリは小さめの【星の欠片】を手に取り、ノヴァの手に押し付ける。

 ノヴァは唸った後、「ええい、ままよ!」と言って、一思いに噛んだ。


「かっ……てェ……」

「強くなった気する?」

「しねえ……。つか、歯が負ける」

「んー、違うか」

「違うって何だよ!? オレで試したのか!?」


 ぎゃいぎゃいと文句を言うノヴァを尻目に、イオリは別の方法を考える。

──ゲームでは、長押しで【星の欠片】が勝手に消費されてレベルアップしてたけど……。


「長押し……」


 イオリはノヴァの胸に、【星の欠片】を押し当てる。


「あ!? 何すん……」


 ノヴァはギョッとした。

 押し当てた【星の欠片】が、ズブズブとノヴァくんの胸の中に埋まっていったからだ。


「これだ! ノヴァくん、これで強くなれるよ!」


 イオリは目を輝かせて、ノヴァを見た。


「な、何だよこれぇ……。オレの体に入ってくんだけど、大丈夫なのかよぉ……」


 ノヴァは体の中に物体が入っていくという恐怖に、べそべそと泣き出していた。

 イオリはそれを見て、胸がキュンとした。


「かわいそかわいい……」

「ぐすっ。何……?」

「あ、ごめん。邪な感情が漏れ出てしまいました」


 そんなやりとりをしている間に、【星の欠片】はノヴァの体に全て飲み込まれて行った。


「あ、全部入った」

「マジでぇ……?」

「どう? 強くなった気がする?」

「わっかんねえ……」

「よおし、ものは試し! スキル。撃ってみて!」


「あそこに!」とさっきスキルを打ち込んでいた木を指差して、イオリは言った。

 ノヴァは流れ出た涙と鼻水を手で拭う。


「……わーったよォ」


 ノヴァは植木に向き、手を前に構える。


「《泥団》!」


 ノヴァの放った《泥団》が木に着弾。

 木の幹は抉れ、枝を支えられなくなった木はそのまま地面に倒れた。


「すっげー! 威力が段違いだ!」


 ノヴァは目を輝かせた。


「大成功だね! ノヴァくん!」


──推しが嬉しいと、私も嬉しい!

 イオリは自分のことのように喜んだ。

 しかし、直ぐにノヴァは真顔になった。


「どうしたの?」


 イオリが尋ねる。


「……これ、オレに教えて良かったのか?」

「え?」

「これ、聖女の力なんだろ。てめえ、オレの従属者だって忘れたのかー? オレが『この力を魔王軍のために使え』ってつったら、人間達は大変なことに……」

「ノヴァくんはそんなことしないでしょ?」

「するだろ。魔王軍だぞ」

「だったら、そんなこと言わずにさっさと命令すれば良いじゃない。私は良いよ。良いから、君に従属したんだもの」


──ノヴァくんが望むのなら、人間を敵に回したって構わない。

 そこに実の妹がいようが、人間の道理に外れていようが。


「私は頑張ってるノヴァくんを応援したいの」


 限界オタクとは推しに狂っているものだ。

 ノヴァはガシガシと頭を掻いた。


「あー……。その、今はオレだけにしとく。なんか裏がありそうだし」

「【星の欠片】、もっとあるけど。やる?」


 ノヴァはこくりと頷いた。


 □


「チッ……ノヴァの奴。元人間の癖に生意気なんだよ。俺様があの聖女を従属者にしてやる」


 そうしたら、魔王も思い直し、ネプチューンをスターダスト七等星に戻してくれるだろう。

 ネプチューンはそんなことを思いながら、棘のついた棍棒を手に裏庭へと向かう。

 ノヴァが聖女を連れて、裏庭へと向かうのを目撃していた。

 二人はまだそこにいるだろう。

 裏庭に着くと、二人がいた。

 ネプチューンは壁の影に隠れ、二人の話に聞き耳を立てた。


「こんなに大きいの入んねえって……」

「大丈夫だから、力抜いて……!」

「無理だぁ……。怖えよぉ……!」

「ノヴァくんなら出来るって! ほら、全部入ったよ……!」

「ま、マジかよぉ……」


 そして、ノヴァがすんすんと鼻を鳴らす音が聞こえてくる。


「な、何してんだ、あいつら!?」


 白昼堂々。

 空の下。

 魔物を恐れるはずの人間が、魔物に対して優位に立ち、その上で泣かせている。

──聖女、やべー……。

 ネプチューンはそれ以上踏み込む勇気が出ず、そそくさとその場を離れた。


 その後、ネプチューンはノヴァに回復薬を送った。

 ノヴァは困惑した。

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