限界オタクが乙女とお茶をしてみたら
それから、待てど暮らせど、リブラが顔を見せることはなく……。
細かいところまでピッカピカに掃除し、まるで新居のように生まれ変わったリブラの家を、家主に見て貰えることも当然なく。
ただただ日々が過ぎて行った。
予定といえば、食事係のヴァルゴと昼食後にお茶会するくらいだ。
「あのぉ、ヴァルゴ姉。ここ、本当にリブラさんのお家なんですよね……?」
お茶会のとき、イオリはヴァルゴに恐る恐る聞いた。
「本当の本当よん」
ヴァルゴは自分で淹れた紅茶の香りを楽しみながらそう答える。
「別の家とかあります?」
「ないわ。強いて言うなら、教会の執務室のソファかしらん?」
「そこで寝泊まりしてるんですね……。だから、帰って来ないんだ……」
イオリはがっくりと肩を落とす。
「イオリちゃんは、リブラちゃんと直接話がしたいみたいね。残念だけど、暫くは難しいかもしれないわ」
「え。どうしてです?」
「今、教会は大忙しだから」
「大忙し……。もしかして、私とノヴァくん関連でですか?」
「それもあるけれど、大した問題じゃないわね。たかがゾンビ一匹。どうとでも出来るもの」
「どうとでも……ですか」
イオリはノヴァが王国に入った直後、乱暴に扱われていたことを思い出す。
──私が止めなかったらそうなってたんだろうな……。
「今までだって、魔王軍を捕虜にしたことがあるしねえ。……まあ、牢屋以外の場所に拘束しておくのは滅多にないけれど」
「やっぱり、そうなんだ……」
ノヴァは魔王軍の捕虜だ。
……表向きは。
普通は牢屋で拘束しておくものだろう。
人の家で、口枷だけ嵌められて、自由に動けているのはあり得ない。
イオリの望み通り、ノヴァは『丁重な扱い』をされている、ということだろう。
──リブラさんに感謝しなきゃね。
「私達関連じゃなければ、何で大忙しなんですか?」
「大体は【聖女降臨祭】の準備ね」
「【聖女降臨祭】……」
【聖女降臨祭】とは、その名の通り、異世界から召喚された聖女の降臨を祝う祭りだ。
聖女と【星の守護者】の顔見せと、これからの明るい未来を願う意図がある。
本来は、聖女が召喚されて直ぐに行われるべきだが、姉聖女・イオリ誘拐事件が発生し、開催が見送られていた。
──メインストーリーでもそうだったな……。
メインストーリー第一部では、この【聖女降臨祭】開催までの奮闘が描かれている。
【星の守護者】同士で揉めたり、魔王軍が邪魔してきたり……。
色々あったが、無事、【聖女降臨祭】を開催出来るのだ。
「ヒナが残っているから、予定通り開催したものだと……」
「そんな訳ないじゃない! イオリちゃんも立派な聖女なのよ」
ヴァルゴは頬を膨らませる。
「なのに、他の守護者達ったら、『姉聖女は聖女に相応しくないから、【聖女降臨祭】に出すな』って言うのよ」
「ああ……。私、あまりよく思われてなさそうですからね……」
イオリは笑って誤魔化す。
「アナタを嫌ってる訳じゃないの。アナタより妹聖女ちゃんの方がわかりやすいから。みんな、コミュニケーションが楽な方に行っちゃうのよ」
「う……。やっぱりヒナみたいに愛嬌があった方が良いんですかね」
「妹聖女ちゃんには妹聖女ちゃんの、アナタにはアナタの良さがあるわ。妹聖女ちゃんには人に愛される愛嬌があって、アナタは人への気遣いがあるの。どちらも美点よん」
「ヴァルゴ姉……」
イオリは目頭が熱くなった。
「欠点でもあるけどね。妹聖女ちゃんは自分本位だし、アナタは自分のことを話さな過ぎ」
「う。ご、ごもっともです……」
ぐうの音も出ない、とはこのことである。
「だから、アタシ達は困ってるの。イオリちゃんはそこのゾンビちゃんを庇っているでしょう?『魔物に魅入られた聖女は【星の聖女】に相応しくない』って言われ放題よ」
「……皆さんの言う通りだと思います。私は【星の聖女】として、何の役にも立ってないですし」
「そうかしら?」
「え?」
ヴァルゴは手のひらを上に向けながら手を前に出し、イオリの方を指した。
「イオリちゃんは聖女の力を使いこなしているじゃない」
「聖女の力……」
イオリは自分の手のひらを見つめる。
願いを込めると、キラキラと星が瞬く。
──このキラキラした力は聖女の力なんだ……。
「対して、妹聖女ちゃんは聖女の力を使えないことがわかったわ」
「……やっぱり、ヒナは……」
ヴァルゴは頷いた。
「ええ。妹聖女ちゃんは嘘をついてた。王国民にも、アタシ達にも、ね」
ヒナの聖女の力のからくりはこうだ。
ヒナはまず、自分側の【星の守護者】を使い、イオリの作ったポーションを安価で買い取っていた。
怪我をした者達にイオリのポーションを吹きかけ、それっぽい詠唱をし、ヒナの聖女の力が本物だと思い込ませていたらしい。
ヴァルゴは「困ったちゃんよね」と首を振る。
「魔物に傾倒している姉聖女ちゃんか、聖女の力が使えると言って、みんなを騙していた妹聖女ちゃんか……意見が分かれているわ」
「そんな話になってたんですね……。それに、私の味方をしている人がいるってことも驚きです」
「あら、少なくともアタシとリブラちゃんはイオリちゃんの味方よ?」
ヴァルゴは微笑む。
「え。そうなんですか?」
「気づいてなかったの? 好きじゃなかったら、毎日お茶しになんて来ないわよ」
「ヴァルゴ姉は優しいですね……。リブラさんも味方なんだ。いや、私じゃなくて、ノヴァくんの味方?」
ちらり、とイオリが視線をノヴァに向けると、「オレじゃないだろ」と手を振って否定する。




