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限界オタク聖女が推しのゾンビ男子を溺愛してみたら  作者: フオツグ
プロローグ 私を連れ去って、私の推し!
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限界オタクが推しに連れ去られてみたら

 伊織と陽菜が【よぞミル】の世界に来てから、数週間が経った。


「妹聖女ヒナ様! 傷を癒してくれてありがとうございます!」

「聖女の仕事だもん! ヒナに任せて!」

「ああ、妹聖女様はなんて慈悲深い……!」


 陽菜──ヒナは早くもこの世界に打ち解けていた。

 持ち前の明るさとコミュニケーション能力の高さのおかげだろう。

 笑顔の人々にいつも囲まれていて、温かい雰囲気を纏っている。


「それに対して……」

「姉聖女様は暗いな」


 一方、伊織──イオリは煙たがられていた。

 憧れの世界に来たは良いものの、イオリは初対面の人間と話すのが元々不得手である。

 つまり、人見知りをしてしまっていた。

 知らない人に話しかけられても、一言二言で話が終わってしまう。

 そして、徐々に話しかける人はいなくなっていった。


「噂によると、元の世界で妹聖女様に意地悪をしていたとか?」

「あり得そうだ……」


 どうやら、ヒナは姉のイオリを悪者にしたいらしい。

──私が何を言っても無駄なんだろうな……。

 イオリはため息をつく。

 昔からそうだった。

 明るく社交的な妹と暗く内向的な姉。

 どちらが一般に好かれるかなんて一目瞭然だ。

──周りの人は全員ヒナの話を信じて、私の話を聞こうとしない。

 だから、妄想の世界に浸るしかなかった。

 そこでは見たくない現実から目を逸らせる。

 好きなキャラが幸せそうにしていれば、自分まで幸せな気持ちになれる。

 恋とかじゃない。

 幸せのおこぼれが欲しいだけだった。


「イオリ様」


 一人廊下を歩くイオリに話しかけたのは眼鏡の神官・リブラだった。

 彼は【星の聖女】と戦う【星の守護者】の一人。

 そして、この王城の中で唯一、イオリに話しかける人物だった。

──私に好意的、というよりは、【星の守護者】として義務感なんだろうなあ。

 ストーリー上の彼は真面目で理知的な人間として描かれている。

 人一倍【星の守護者】としての責任感があり、個性豊かな【星の守護者】のまとめ役でもある。

 しかし、ただお堅いだけではなく、ちょっと抜けていたり、多様性に寛容だったりと、可愛い部分もある。

 根強い人気を誇るキャラクターだ。


「リブラさん、私に何かご用ですか?」

「イオリ様はポーションの製造に精を出しているとお聞きしました。それは事実でしょうか」

「はい。【水瓶座の守護者】アクアーリオさんに作り方を教えて頂きまして」


【星の守護者】の一人、【水瓶座の守護者】アクアーリオは優秀な錬金術師だ。

 彼にお願いして、ポーションと呼ばれる魔法薬の作り方を教えて貰った。

 聖女の癒しの力は、ヒナだけでなく、イオリにも備わっていたらしい。

 直ぐにポーションの作り方をマスター出来た。

──でも、なんでそんなことを聞くんだろう……?

 質問の意図がわからず、イオリは警戒してしまう。

 リブラはいつも無愛想で何を考えているかわからない。


「大釜のある魔法研究所に訪れたのは二、三度だと聞いています。今はどちらで製造を?」

「自室でも作業が出来るように大釜をセッティングして貰ったんです。ですから、今は自室でポーションを作ってます」


 イオリが毎日、自室に引きこもってるのはポーション作りのためである。

【よぞ、ミル】はソシャゲ。

 強くになるには課金が一番手っ取り早いが、イオリ達はこの世界に来て日が浅い。

 金策やレベル上げのため、曜日限定クエストに挑もうにも、【星の守護者】の大半はヒナといる。

 イオリ一人でお金を稼ぐには魔法ポーションを売り、コツコツと稼ぐ他ない。


「作ったポーションは今どちらに?」

「え? 【双子座の守護者】の二人に渡して……」

「……フゥー──……。そうですか」


 リブラは悩ましげにため息をつく。


「あの、何か私、変なことしてました……?」

「いいえ。……イオリ様が製造したポーションは我々が買い取ります。次からは、私を通すようにして下さい」

「は、はい。ありがとうございます」


 リブラは眼鏡のつるを人差し指と親指で掴み、眼鏡をよく見える位置に戻す。


「イオリ様、この世界で後ろ盾のない貴女方が生き延びる術は順応するしかありません。これからも我が世界のために励むように」


 そう言うと、リブラは踵を返し、その場を後にした。


 □


 イオリの自室。

 イオリは今日のポーション作りを終え、背伸びをした。


「ふう……。今日の分はこれで終わり」


 窓の外を見ると、もうすっかり暗くなっている。

 電気もつけず、作業に没頭していたらしい。

 イオリは暗い部屋の窓から夜空を見上げた。

 空を覆い尽くすような星々が藍色の夜空に浮かんでいる。

 星の輝きで、夜なのに明るい。

 プラネタリムでさえ、これほどの大量の星は見られないだろう。


「やっぱり、ここって異世界なんだなあ……」


 イオリはぼんやりと星空を見上げた。


「ノヴァくん……。この世界が【よぞミル】の世界なら、貴方はこの世界の何処かにいるのよね」


 ストーリー序盤、主人公の聖女は一度、魔王軍幹部に連れ去られる。

 その連れ去りに来るには、魔王軍の幹部の末席、イオリの推しのノヴァだ。

──ヒナが本物の聖女ってことになってるし、ヒナの方を攫いに行くんだろうな。


「あ……流れ星」


 私は流れ星に手を伸ばす。

──出来るなら、ヒナの方じゃなくて──


「私を連れ去って、ノヴァくん──」


 イオリは自虐的に笑って、手を引っ込めた。


「……なんてね」


 窓辺から離れる。

──出来るなら、私を選んで欲しい、なんて。妄想も大概にしないと。


「──あんたが妹聖女様?」

「……え?」


 聞き覚えのある特徴的な声に、イオリは振り向く。

 ふわふわの黒髪。

 ぐるぐると渦巻く金色の瞳。

 目の下にある十字のアザとニヤニヤ笑い。

 サングラスとピアス。

 そこにいたのは、イオリが待ち望んでいた人。


「俺は魔王軍幹部スターダストの一つ、ノヴァ。妹聖女様、貴女を迎えに参りましたぁ」


──ノヴァくん(推し)だ──っ!?

 溢れ出た涙がだーっと頬に滝を作る。


「はい! 私が妹聖女です!」


 イオリは自分を迎えて欲しくて、本能赴くまま大嘘をついた。


「抵抗すんなよ? ちょっと痛めつけなきゃなんなくなるんでな……」

「抵抗なんてしません! 良いから早く……私を連れ去って──!」


 その夜、姉聖女・イオリは事実から姿を消した。

 部屋はもぬけの殻。

 穀潰しがいなくなって清々したと思われるだろう。

──追って来ない、きっと。


「わー! 本物! 生きてる! イケメン!」

「おい! 止めろ! 大人しくしろ! 落とされてえのか!?」

「髪の毛ふわふわ! 目ぇ綺麗! 腰ほっそ!」

「うるっせえな、てめえ!」


──いや、追って来られても困る!

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