狂い出すストーリー
ソレイユ大聖堂──聖ソレイユ王国にある星の神教の教会堂。
星の神の根強い信仰を思わせるほどの大きな教会がそこにはある。
【天秤座の守護者】リブラは星の神に仕える高位の神官──大神官であった。
大神官としての勤めと【星の守護者】としての役割を果たしながら、忙しい合間を縫って礼拝の時間を取っている。
それも全て、人類の安寧を願ってのこと──。
「リブラさぁん! 助けてぇ! お姉ちゃんが化け物に洗脳されて、帰って来きたくないって言うのぉ!」
静かな教会内に妹聖女・ヒナの甲高い声が響き渡る。
リブラは何も言わず、星の神に祈りを捧げ続ける。
「ねえ、ちょっと、聞いてるの!?」
尚も大声を上げ続けるヒナに、リブラはフゥー、と息を一つついて、振り返る。
「ヒナ様。お静かに。今、星の神に祈りを捧げているところです」
「ハア!? ヒナが話しかけてるのよ! 祈ってないで、ヒナの話を聞きなさいよ! ヒナは聖女なのよ! ヒナが神も同然なの!」
「ヒナ様」
リブラはヒナを冷酷な目で見下げる。
「ここは神の御前です。不謹慎な発言は慎むように」
冷たい言葉に、ヒナは肩を飛び上がらせた。
「……さて、ヒナ様。私からもお話があります。ヒナ様はイオリ様からポーションを買い占めていたようですね」
「あっ……そ、それは……」
ヒナは目を泳がせる。
事実だと言っているようなものだ。
リブラは呆れてため息をついた。
「何のために買い占めていたのか知りませんが、かなり安く買い叩いていたご様子。何かと理由をつけて」
「じ、実際、粗悪品だったのよ!」
「そうでしょうか。聖女の力と見分けがつかないくらい、高品質だったようですが……」
「なっ……!」
ヒナはイオリのポーションを使い、王国民の怪我を治していた。
それを自分の聖女の力と偽っていた。
隠し通せていると思っていたが、リブラには見通されていた。
「教会がイオリ様の作成したポーションを適正価格で買い取ることに決まりました。今までの分の返金をどうするか、イオリ様に判断を委ねます」
「何勝手に決めてるのよ!」
「イオリ様には事実を伝え、謝罪します。ヒナ様も謝罪するように」
「謝罪……? ヒナがお姉ちゃんに……?」
ヒナは拳を握り締めて、震わせる。
「お姉ちゃんは戻って来ないの! 返金する意味も、謝る意味ないのよ!」
「悪いことをしたら、謝罪をする。当然のことです。筋は通しなさい。よろしいですね? ヒナ様」
ヒナは顔を真っ赤にさせる。
「何よう! 頭でっかち!」
ヒナはぷりぷりと怒りながら、大股で教会を出て行った。
リブラは小首を傾げる。
「……私は頭が大きいのでしょうか?」
「あんた、天然だよな……」
一部始終を見てたレオがため息をつく。
彼は流星騎士団の団長であり、【獅子座の守護者】として妹聖女を支えていた一人。
レオの顔には疲労が見て取れた。
「私はどちらかと言えば養殖です。温室でぬくぬくと育ちましたので」
「そういうとこだぞ」
レオはやれやれ、と首を振る。
「礼拝の邪魔して悪いな、リブラ殿。ヒナ様を止めても聞かなくて……」
「構いません」
リブラは人差し指と親指でで眼鏡のツルを掴み、眼鏡の位置を正す。
次に、【双子座の守護者】ジェミニとポルックスが前に出た。
「リブラ様、報告があります! 僕達は姉聖女を奪還すべく、【墓場の森】に侵攻しました!」
ジェミニがそう報告する。
「しかし、姉聖女の奪還は失敗に終わりました」
ポルックスがそう締め括る。
「どうやら、そのようですね」
ヒナの怒りようを見て、リブラは察しがついていた。
「許可も取らず、数名の【星の守護者】を連れ、王国を出たヒナ様には今一度説教しなくてはなりませんね。勿論、貴方方にも」
リブラは冷たい目でレオと双子を見つめる。
双子は手を取り合い、震え上がった。
「ヒナお姉ちゃんは悪くないです!」
「ヒナ姉は姉聖女のことが心配だったんですよ……!」
「それを宥めるのも、我々【星の守護者】の役目でしょう」
リブラはそう冷たく言い放つ。
「王国の外は魔物で溢れ返っており、非常に危険なのです。軟弱な異世界人が歩くにはあまりにも過酷」
「流石、【星の守護者】の模範者。リブラ殿の言う通り、国の外に出るのは危険だ。だが、姉を助けたいなんて言われたら、手助けしたくなるのが人間だろう」
「理解は出来ます。しかし、助長するのは如何なものかと。ヒナ様は魔物の危険を正しく理解していない」
リブラの眼鏡が光を反射する。
「魔物は野蛮で醜悪。人間にとって害でしかない。卑劣で忌々しい存在……」
リブラは高ぶる感情を振り払うように、首を左右に振った。
「しかし、【墓場の森】の魔物は数が多いが、知性の低いゾンビの集まりで、強くはない。それでも、苦戦を強いられたということは、貴方方の純粋な鍛錬不足でしょう」
「ぐうの根も出ないな!」
レオは大口を開けて「がっはっは」と笑って見せた。
対して、双子は悔しそうに唸る。
「ゾンビの親玉のせいだ……。あいつがゾンビ達を操らなければ、苦戦しなかったのに!」
「あいつは強敵でしたね。確か、魔王軍幹部スターダスト七等星・ノヴァと名乗ってたかな?」
リブラは双子を鋭い目つきで見た。
「……今、何と?」
「だ、だから、【墓場の森】でノヴァって言うゾンビがかなり強くて……。レオ団長、僕とジェミニの三人がかりでも倒せなかったんです」
「姉聖女はそのゾンビに洗脳されているみたいで! ゾンビの親玉を復活させて、大変だったんですよ!」
双子は顔を見合わせて、「ねー」と言い合う。
「……フゥー──……」
リブラは深いため息をついて、眼鏡のブリッジを指で押し上げた。
「……なるほど。そんなところに……」
「え?」
「いえ。迎えに参りましょうか、姉聖女イオリ様を」
レオとジェミニとポルックスはごくり、と喉を鳴らす。
「……珍しいな。多忙なあんた自らが出向くなんて」
「イオリ様を至急保護する必要性が出て来ました」
リブラは教会を後にした。
「リブラ様が出陣するってことは、あのゾンビも終わりですね」
双子の片割れ・ポルックスがニヤニヤと笑う。
「ああ。リブラ殿は今、人類最強と名高い【星の守護者】だ。きっと姉聖女様を取り戻してくれる」
騎士団長・レオがうんうん、と頷く。
「姉聖女様が帰ってきたら、ヒナお姉ちゃんの機嫌も治るよね? 良かったあ」
双子のもう片方・ジェミニがホッと息をついた。




