9 彼との初めての共同作業は薬草摘み(魔王の娘視点)
(初めての共同作業よ~)
私は歌劇のヒロインのように、ギルドのホールで踊りながら歌いたい気分だった。
(二人のクエスト~♪)
サビの部分はこれで決まりだ。
笑みが止まらない。
愛が止まらない。
(ドント、ストップ、ミー、ナウ!)
人族の読む異世界恋愛譚に出てきた言葉を心の中で口ずさんだ。
ふと、横にいる彼を見ると、掲示板を見上げて固まっていた。
「どうしたの」
「いや、クエストなんだけど、薬草採取しかない」
「何か問題でも」
「報酬が安いんだ。これじゃあ宿代にもならない」
私は掲示板の張り紙をよく読んだ。
確かに単価は安い。しかし納品は無制限と書いてある。さらに状態がよいもの(引きちぎったのではなくキレイに茎を切り、しおれたりしていないもの)は報酬を割増して買い取るとあった。
(いい状態のものを大量に納品すればいいだけじゃない)
「実はボクは薬草採取はしたことがないんだ」
私の王子様が自信なげに言った。
(そんな顔をしないで! 私が辛くなるから……。平気よ私が何とかするから)
何といっても私は次期魔王、全能の王だ。
私の辞書に不可能という文字はない。
どうしたらいいか考えた。
そしてひらめいた。
(ドント、ウォーリ、マイ、ダーリン)
また異世界語で心の中でつぶやく。
「大丈夫。私に考えがあるの」
私は自信満々にダーリンに言った。
町を出て、平原にダーリンを連れてきた。
「ちょっと待っていて」
「どうしたの」
「ふふふふ、お花摘みよ」
「あっ、あああ」
「覗き見とかしちゃダメよ」
そう言って私は小走りに樹の裏に行った。
(さあ、魔王モードよ)
魔力で探索をする。
(いた)
ホーンラビットだ。
ホーンラビットは薬草を食べる。きっとこのあたりの薬草にも詳しいはずだ。
私は魔力をホーンラビットに当てた。そして隷属した。
これが魔王の力だ。
魔物というのは、魔力が強い動物にすぎない。しかし、人間にとっては野獣よりも脅威のようだ。その魔物を隷属し、自由に使役できるのが魔王のスキルだ。これができるから魔王なのだ。ただの魔族は魔物を使役することは普通はできない。できても数体だし、出せる命令も限られている。
その点魔王は、数万でも数十万でも一度に隷属できる。さらに詳細な命令を出し、念話で意思疎通もできる。
そうしている間にも、平原の彼方からホーンラビットが駆けて来た。
『魔王様、お呼びですか』
『ああ呼んだ』
私はまだ魔王ではないが父と同じスキルを持ち、しかも魔力は父以上なので、魔王と勘違いしているようだ。でも、細かいことは気にしない。
ところで、普通は、魔物は喋れない。意思疎通もできない。
しかし、私が隷属すると、魔王の力と同期化して、一定の知能を有し、こちらと意思疎通でき、細かい命令を下すことができるのだ。
『いかなるご命令でも』
配下になったウサちゃんが平伏する。
『薬草だ。質のよい薬草が大量に生息している場所に我を案内せよ。ただし、あまり遠くはダメだ』
『御意』
ウサちゃんが駆け出した。
私は木陰から出て、ダーリンのところに戻った。
「お待たせ」
ダーリンの顔を覗く。
「覗き見なんてしてないわよね」
ダーリンが赤くなる。
私はその初心な反応に胸キュンで、思わず鼻血が出そうになる。
ダーリンが覗き見していないのは、もちろん承知している。背後にも探索をかけていたから。
「あら、あんなところにウサちゃんがいる」
私はわざとらしく、先程隷属したホーンラビットを指さした。
「ねぇ、ウサちゃんは草食で、しかも薬草が好物らしいわよ。薬食同源って言うのかしら。だからあのウサちゃんについてゆけばいいんじゃない」
そう言って、ダーリンの顔色を伺った。
(大丈夫、バレていないみたい)
「きっと、私達を薬草のあるところまで案内してくれるわ」
そう言って私は駆け出した。
ダーリンも後ろからついてくる。
「ふふふふふふふ」
私は時々振り返り、ダーリンに笑みを送る。
『おい。薬草の群生地はまだか』
『魔王様、もう少しでございます』
『うむ』
そんな風に走りながらも、ホーンラビットと念話する。
しばらくして薬草の群生地に着いた。
私はホーンラビットとの隷属を解き、ちょっと威嚇して追い払った。
ダーリンは簡単に大量の薬草が見つかって喜んでいるようだった。
ダーリンはしゃがむと薬草を引きちぎろうとした。
(だめ、それじゃあ、買取価格が安くなる)
考えてみれば、薬草を持って帰るバックもない。
このカンカン照りのなか、そのまま手に抱えて持って帰ると萎れてしまう。
(しかたない)
私は先祖伝来の魔法のポーチと偽り、少しだけ異空間収納の手の内を彼にばらし、薬草を刈るためのナイフを出した。
薬草採取のためには必要なことだった。
薬草を十分に採取すると、私達は手ぶらで町まで帰った。
ギルドの近くで収納から薬草を取り出した。
薬草は高く売れた。
ダーリンの喜ぶ顔を見れたのが何よりだった。
代金を山分けした後、ダーリンのお腹が鳴った。
それがきっかけで、なんと二人でお食事に行くことになった。
(ついにきたー、お食事イベントー)
デートと言えばお食事、お食事といえばデート。
いよいよ夢にまでみたお食事のデートが始まろうとしていた。
【作者からのお願い】
作品を読んで面白い・続きが気になると思われましたら
下記の★★★★★評価・ブックマークをよろしくお願いいたします。
作者の励みとなり、作品作りへのモチベーションに繋がります。