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8 彼女は魔物をペットのように扱う (勇者視点)



「こっちよ」


 アンが草原を駆けてゆく。


 そよ風が草原の草を揺らし、陽光が草の葉を輝かせる。


「ふふふふふ」


 アンが笑う。


 俺はその後を追いかけた。


 時折アンは振り返りながら、笑顔を見せ、両手を少し上にあげてお嬢さん風に振りながら走る。


 はたから見たら恋人同士がじゃれあって追いかけっこをしているようだろう。


 なんだか天国にいるような光景だ。


 だが、これは夢ではなく現実で、しかもギルドのクエストの遂行の最中だった。


 その証は、アンの前を走っている魔物のホーンラビットだ。


「もうすぐよ」


 アンは走るのが速く、どんどん先に行ってしまう。


 俺はモブらしく、少し遅れてハアハアしながら、アンを追った。


 ついに草原の奥にある森まで来た。


 すると、ホーンラビットが止まった。


 そして、草むらに顔を埋めた。


「ほら、言ったとおりでしょう。あのウサちゃんは、薬草が大好物なの」


 薬草があたり一面に生えていた。


        ☆ ☆ ☆ ☆ ☆


 服屋を追い出された後、俺はアンとギルトに戻ると、クエストが張り出されている掲示板の前に立った。


 Fランク冒険者向けのクエストは内容が限られていた。すぐに受けることができるのは薬草採取だけだった。


「これしかないのか」


 薬草採取の報酬だと、2人分の今夜の宿代に足りそうもなかった。


「単価が安くても、たくさん採ればいいんじゃない」


「ああ」


 だが俺は自信がなかった。日本にいた時に植物採取などやったことはない。こちらの世界に来てからは勇者様だ。Fランタスクの薬草採取などしたことは当然ない。


「でも薬草がどこに生えているかも、どの草が薬草かも、やったことがないから分からないよ」


 二人でクエストを受けて日銭を稼ぐことを提案したが、いざ、実際に仕事の内容を見ると、そう簡単なものではないことを実感した。


「どうする」


 するとアンはキラキラした目で俺を見た。


「大丈夫。私に考えがあるの」


 アンに言われるまま、草原に出た。


 しばらくすると魔物のホーンラビットが一匹出てきた。


「あれを狩るのか」


 薬草より魔物の討伐の方が単価が高い。依頼は出ていないが、ホーンラビットなら弱い魔物だから、Fランクの冒険者が狩っても問題ないかもしれない。


 だが、アンの考えは違った。


「あのウサちゃんは、草食で、しかも薬草が好物なの。薬食同源って言うのかしら」


 アンはよくわからない言葉で説明する。


 それにホーンラビットはうさちゃんではなく、れっきとした魔物だ。油断していると頭の上に生えた角で刺される。場合によっては命を落とすことだってありうるのだ。


「あのウサちゃんについてゆくわよ」


「はあ?」


「きっと、私達を薬草のあるところまで案内してくれるわ」


 半信半疑でついて行ったところ、本当に薬草の群生地にたどり着いたのだ。


 俺達は薬草を採取することにした。


 驚いたことに、アンはナイフを2つ取り出した。


「それはどこから」


「内緒だけど、実は魔法ポーチを持っているの」


「魔法ポーチって、異空間収納の?」


「我が家に伝わる家宝なの。誕生日のお祝いにおじいちゃんからもらったの」


「そうだったのか」


「でもこれは秘密にしてね」


 異空間収納の魔法と、その魔法による魔道具は貴重だ。最高レベルの魔法の一つだ。異空間収納ができる魔道具のバックは、小さいものでも高額で取引されると聞いている。


 もちろん、勇者である俺は異空間収納の魔法を使えるし、勇者パーティは大容量の魔道具のバックを装備していた。


 だが、彼女のような駆け出しの冒険者が持っているのは異例だ。確かに他人に知られたら、強盗に遭う可能性が高い。


「大丈夫だよ。絶対に言わない」


 その後、あたりに生えていた薬草を全部刈り取ると、彼女の魔法収納のポーチに収めた。


 ギルドの手前でポーチから薬草を取り出して、路地裏に捨ててあった麻袋に詰めてギルドのカウンターに向かった。


 俺が麻袋から中身を出すと、ギルト職員は目を丸くしていた。


 こんな大量の薬草を一度に採取してきたのは、このギルドが始まって以来のことだと騒がれた。


 俺は質問してくる職員に適当に受けこたえてごまかした。



「お疲れ様」


 ギルドを出ると、そう言いながら俺は薬草代の大半を彼女に渡した。


「どうして?」


「薬草を見つけたのも、刈るナイフを提供してくれたのも、ここまで運ぶための魔法の収納のポーチも、みんな君のおかげだ。僕は何もしていない」


「そんな! このお金は全部、あなたのものよ」


「何を言っているんだ。それじゃあ君の宿代はどうなるんだ」


 押し問答の末、半分ずつに分けることで決着した。


 その頃にはもうあたりはすっかり暗くなっていた。


 すると俺の腹が鳴った。


 彼女が、それを聞いてクスッと笑った。


「そういえば、今日はまだ何も食べていなかったな」


「ご飯にする?」


「ああ」


 そのまま、成り行きで、俺達は夕食を共にすることになった。








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