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7 お泊りですって? えっ、それ、展開が早くない?(魔王の娘視点)


「これなんてどう」


 私は、ジョンの肩にライトブルーの服を当ててみた。


「すごく似合うわよ」


「うん」


(これこれ、これをやってみたかったのよ)


 人族の恋愛小説では、恋人とショッピングするシーンがふんだんにある。


 私は、このシチュエーションに酔っていた。


 ジョンは戸惑っているような様子だったが、私が勧める服を大人しく試着してくれた。


「どれも似合うわね。全部買いたいわ」


 魔王城で王女をしていた時、城に商人が新しい服を売りに来ていた。その時、私は気に入ると全部その場で買い上げていたものだった。


 最後に試着したグレーの服は、動きやすそうで品もよく申し分なかった。


「これにしなさいよ」


「うん」


「こちらでよいですか」


「はい」


「では30万Gになります」


 ジョンが何か言いかけたのを私は制した。


「この服は私にプレゼントさせて。せめてものお礼よ」


 さらりと自然に言えた。


(やった! 初回プレゼントイベント完了よ。恋愛経験値ゼロの私としては、上出来じゃない)


 私は店主に労いの言葉をかけて店を出ようとした。


「お客様」


「はい?」


「お代を」


「お代って?」


「洋服の代金ですよ」


「ああそれは」


 私は周りを見渡した。代金の支払いは執事やメイドの仕事だ。彼らがサボっているのか。


 そこでハタと気がついた。


(まずい。今は王女じゃない。それに私は人族のお金は持っていなかった!!!)


「いかがされました」


(またやっちゃったよ。ああああああああああああああああああああ。)


「あ、あとで使いの者にもたせるわ」


 店主がジットっとした目で私を見る。


「使いの者?」


「え、まあ、その」


「ここで支払って下さい」


「ボクが払います」


 王子様が助け舟を出してくれた。


「ごめんなさい。後で必ずお返ししますね」


(これはこれで、立て替えてもらった服の代金を返す名目で彼にまた会う口実ができるから、よしとしましょう)


 ジョンが財布を出そうとした。


「あれっ?!」


 すっとんきょうな声をあげた。


「すいません。お金を持っていませんでした」


「お前たち、なんのつもりだ」


「いや、本当にお金のことを忘れていました」


「それを返せ」


 店主がジョンの手から買ったばかりの服を奪った。


「出てけ。商売の邪魔だ」


 私達は店の外に追い払われた。


 

 店を出ると私は頭を下げた。


「本当にごめんなさい」


 ジョンはキョトンとした顔をした。


「私がプレゼントするつもりだったのにお金を持っていなくて。それにジョンに恥までかかせてしまって……」


 私は本当に落ち込んでいた。


 ところが、ジョンは可笑しそうに笑った。


「何が可笑しいの?」


「だって、僕らはお金のことをすっかり忘れて買い物をしていたからだよ。なんだか浮世離れしていて面白くないかい」


「それもそうね」


 二人で笑った。


 しかし、最後の方は笑い声が空虚になった。


「ところで、アン、どこかにお金を預けているのではなくて、本当にお金を全く持っていないの?」


「ええそうよ」


「それで今晩、どこに泊まるの?」


「えっ?!」


(いきなりお泊りの話なの? すこし急すぎない? まだ心の準備が。それに下着だって勝負下着じゃないし)


 私は羞恥心で真っ赤になった。


「ごめん。失礼なことを訊いて。でも君のような美しい人が野宿をするのは危険だ」


(危険? なんのこと?)


 ようやく私は、彼が私の宿代のことを気にしてくれているのだと理解した。


 考えてもみなかった。


 それに、どこで寝ようが危険などない。


 寝る時は何重にも結界を貼るし、その気になれば、夜に強いアンデット系のモンスターたちを召喚して、警護にあたらせることもできる。私の異空間収納には、ちょっとした建物や家具も収まっている。


 お金を払って宿などに泊まらなくても、魔王城まではいかないが、十分なセキュリティのもと、快適に睡眠はとることができた。


(寝込みの私を襲えるとしたら……。 うん。あの勇者くらいだろう。あとは、襲った方の生命が危険だ)


 だが、それを彼に知られるわけにはいかない。


 そんなことができるのは魔王レベルの人外の存在だ。


 私はか弱き平凡な乙女という設定だった。


「この町に来たばかりで、何も考えていませんでした」


 私はしおらしく言った。


「実は僕もお金がありません。そこで、提案なのですが、これからギルドに行って二人ですぐにお金になるクエストを受けませんか。宿代くらいは稼げると思うんです」


「えっ?!」


(なに、それ、まさか初めての二人の共同作業ってやつなの)


「やっぱり、マズイですよね。初対面の僕と二人でクエストとか。あつかましい申し出をしてすみませんでした」


 彼は立ち去ろうとした。


 私はその彼の服の袖をつかんだ。


「いえ、やりましょう。二人だけのクエスト」


「いいんですか」


「もちろんです。ふつつか者ですがよろしくお願いいたします」


(こういう時は、こう言えばよかったんだったけ……)


 そうして私達はクエストを受けるために冒険者ギルドに戻った。





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