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4 いよいよ始まったわ。わたしの初めてイベント(魔王の娘視点)


 私は無事に人族の国境近くの町に着いた。


 人族のお金を持っていないので、ここで予定通り冒険者登録をして冒険者として稼ぎながら旅をするつもりだ。


 魔王城からは武器や装飾品のたぐいは一切持ち出さなかった。


 王宮にあった装飾品を売ればお金になるし、魔王仕様の武器があれば何にでも対処できるだろう。


 だけど、そうすると私が魔王の娘だとバレてしまう。


 それに兵卒の武器や庶民の装身具でも魔族のものであれば、魔族と疑われるだろう。


 だから何も持ち出さないで来たのだ。


 冒険者ギルトに入ると、私と同じように初めて登録をしている人がいた。そこで後ろでその様子を見た。


(あんな風にすればいいのね)


 魔王城の外の世界のことは、何もかもが初めてだった。そのやりとりは参考になった。

 

 前の人のまねをして同じように話したら、スムーズに登録することができた。


 最後に受付の人が、心配そうに武器や装備はありますかと訊かれた。


 新人冒険者が丸腰で薬草採取などで森に入り、万が一、魔物に遭遇したらどうするのかと心配してくれているようだ。


 もちろん、身体強化魔法で身体を鋼のようにして、ワンパンでドラゴンくらいはKOできる。


 そんなことをしなくても魔王の正当承継者である私は、魔物に対して威嚇と服従のスキルを使える。


 魔物たちは私の前にひれ伏し、私の手足となるだろう。


(ハッハッハッハッ)


 受付の女性が怪訝な顔をしている。


(いけない無意識に魔王モードに入ってしまった)


 私は魔王のような顔をして仁王立ちしていなかった不安になった。


 丸腰なのに大丈夫というと不信感を招きかねない。私はか弱い人族の乙女という設定だ。素手で魔物を倒せる人族の乙女などいないはずだ。ここは乙女らしく振る舞わないといけない。


「魔法が少々使えますから大丈夫です」


(うん。これなら合格ね)


 すると「そのぅ、魔法が使えるんですか?」と話しかけられた。


 その声の主を見た。


(うわ)


 私は赤面しそうになった。


 若い男、しかもイケメンだ。


 イケメンの若者に会うのは生まれて初めてのことだ。


 父があらゆる手をつかい、同世代の男を遠ざけて来たからだ。


 胸がドキドキする。


 喉が詰まるような気がする。


 めまいもする。


(いけない! どうしちゃったの私。これ何)


 必死に私は動揺を隠して冷静さを装い答えた。


「あなたは?」


(うん。分かっている。さっき冒険者登録をした新人だよね。つまり私と同期)


 同期という単語に胸キュンした。


 人族のラノベという恋愛小説には、同期の仲間と恋に落ちるというシチュエーションが溢れていた。


(彼が同級生、いや同期冒険者)


 ついに夢にまで見た同期のイケメンだ。


 彼が自己紹介をする。


(ジョン、ジョンなのね)


 私も「アン」だと答える。


 本当はアルメヒティヒキューンハイトというのが私の名だ。だが幼少期は乳母は私のことをアンと呼んでくれた。そこから思いついた偽名だ。


 彼が私のことを見つめる。


(だめ。そんな眼で見ないで)


 私は若い男性の免疫力はゼロである。


 これ以上、こんなイケメンに見つめられたら即死するかもしれない。


「それにしても魔法が使えるなんてすごいですね」


 何を言っているのだろう。魔法なんて誰でも使えるでないか。


 思わず「どうして?」という言葉が出てきた。


「だって、普通そうですよね」


「普通って?」


「いや、魔族なら別ですけど、人族で魔力がある人は少ないですから」


(あああああああああああああ。失敗したー)


 私は青くなった。


(マズイ、マズイ、マズイ、マズイよぉぅ)


 私は忘れていた。魔族と人族の違いを。


 魔王城からの出立と冒険者登録までがあまりにも計画通りにスムーズに行った上に、私好みの特上のイケメンに出会い、舞い上がっていた。


(そうだ。人族で魔法を使える者は稀だった)


 どうやってごまかそうと焦っていると、横からゴリラのような大男が割り込んできた。


 風貌は私の好みとはほど遠く、魔法をかけて魔物として使役したくなるようなゴツい奴だ。


 なんだか知らないが私の王子様(既に彼を王子様化して、恋愛による心理的結晶作用現象が始まりかけていた)にからんできた。


(チャンスだわ)


 ここはいったん撤退して、策を練り直さなくてはと思った。


 なによりもイケメン接触時間が長すぎて、もう私の耐性が持たない。


 私はその場から消えるように立ち去り、ギルドの脇の路地裏に避難した。


 ここで落ち着きを取り戻し、彼との会話の対策を練らないとならない。


「おい」


「はい」


 彼かと思い、花のような笑顔をつくり振り返ると、そこにいたのはさっきのゴリラのような冒険者だった。


「俺と付き合え」


「はぁっ~?」


 思わず冷酷な魔王モードになり、このゴリラを威嚇して平服させたくなった。


(魔王のスキルで隷属させた上で、豚の群と一緒に断崖から海にでも飛び込むように命令しようかしら)


 そんなことを考えていたらゴリラ男は、「なあ、あのうざい若造を俺が追っ払ってやったんだから、一杯くらい付き合えよ」と言ってきた。


 万死に値する。


 死の扉を開き、死神のスケルトンを召喚し、デスチェーンで縛り、しばいたろうかと思った。


 だが、通行人がいるので「やめてください」と手をひっこめてか弱き乙女を演じた。


「おい、先輩の俺が色々いいことを教えてやろうと言っているんだそ」


 ゴリラ男はますます調子に乗ってきた。


 すると背後から不思議な気配を感じた。


(まさか、父様?)


 これはまさに暗黒魔法で死神を召喚してデスチェーンを発動しようとしている気配だ。


 そんな魔法を使えるのは父と私くらいだ。


 だが、父の姿はどこにもない。


 気配はすぐに消えた。


(おかしいわね。私の発した気がなにかに反射して戻ってきたのかしら)


 まあ、いずれにせよ我慢の限界が来ていた。


(このゴリラに思い知らせてやるわ!)


 私の中でドス黒い魔力が渦を巻き始めてきた。


(フッ、フッ、フッ、愚かな人間よ。誰を相手にしたのかを思い知らせてやる)


 魔力を発動しようとしたその瞬間、私の視界に彼が入った。私の王子様のジョンだ。


(だめぇー)


 魔力発動緊急停止。


 危ういところだった。


 私は彼を横目で見ながら乙女モードに戻った。


「やめてください。困ります」


 か細い声で、涙眼になりながら言った。


(王子様助けて)


 心の中でそう叫んだ。


 乱暴者から助けてもらい、そのお礼と言いながら、お近づきになる。それは人族の恋愛小説の典型的な馴れ初めイベントだ。


 今まで何百回と魔王城の東塔の寝室で一人でもんもんと妄想していた夢のイベントがついに実現しようとしているのだ。


 私は胸の高鳴りを抑えきれなかった。




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