39 地獄に堕ちるのはどんな気分かい? (勇者視点)
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7秒で敵を倒し、振り向くとゼビルゴーグが腰を抜かして震えながらアンのそばから離れてゆくところだった。
俺は上着を脱ぎながらアンの元に行った。
そして半裸のアンに上着を着せた。
俺の背は高く勇者の上着は大きいサイズだったので、裾はアンの膝まで達し、ワンピースを着たような形になった。
俺はアンの首輪に手を回した。
すると追い詰められたはずのゼビルゴーグの口元がニヤリと笑うように曲がるのが見えた。
俺は首輪を外した。
そして、アンの体を魔法でスキャンした。
どこにも損傷はない。
「よかった。怪我はないようだ」
俺はアンにかけられていたゼビルゴーグの魔法もすべて解除した。
「な、なぜだ」
ゼビルゴーグの震える声がした。
「その魔封じの首輪は私の魔力を流さないと解除できないはずだ。無理やり外せば、首輪を付けられた者の脳が燃える仕組みになっている。そんな風に無傷のまま外せるわけがない」
俺は鼻で笑った。
俺の力をもってすれば、こんな玩具を無効化するなどわけない。
まだ、このクズは自分の置かれた状況を理解していないようだった。
「どうする?」
アンに訊いた。
「どうするって?」
「親父さんの敵だろ。自分で敵討ちをするか。それとも俺に任せるか」
「どちらがゼビルゴーグにとって悲惨なの?」
「分からないが、多分、俺の方じゃないか。もし、見ていて手ぬるいと思ったら遠慮なく言ってくれ」
「分かったわ」
俺はゼビルゴーグに向き合った。
「ということだ。俺が担当になった」
「お、お前は誰だ。魔王レベルの闇の戦士を素手の一撃で葬り去り、俺の自慢の魔道具を一瞬で無効化するなど、人間ではありえない」
「だから言ったろう、仮面の勇者だって」
「仮面の勇者なら手合わせもしたし、研究もした。確かに魔王や姫と同じくらい強い。だが、仮に仮面の勇者であってもさっきのようなことをするのは不可能だ」
「悪い。じゃあ、もっと正確に言おう。俺は元仮面の勇者だ。だが今はあの時とは別モノだ。あの頃の自分をはるかに凌駕している。これでいいか」
「……」
「それでお前の処遇だが、生かしておくことにする。安心しろ決して殺さない」
ゼビルゴーグが驚いたように顔を上げた。
「それは……」
「そうだ。お前はひとおもいに殺すには惜しい人材だ」
「そ、そうですか!」
ゼビルゴーグは顔を輝かせた。
「勇者殿も私の才能をお認めになられたのですね。そうか。勇者殿は今、魔王も凌ぐ地上最強の力をお持ちだ。つまり世界征服ですね。世界の頂点をめざされるおつもりですね。そのために人材が必要なんですね。分かりました。何なりとお申し付け下さい。忠実な下僕としてご協力いたします」
アンが呆れた顔をして俺とゼビルゴーグを見比べている。
「いや~ゼビ君。チミは面白いね~」
俺は満面の笑みを浮かべてゼビルゴーグの前に立った。
ゼビルゴーグもそんな俺を見て、愛想笑いを浮かべる。
「はははははははは」
俺は笑った。
ゼビルもつられて笑った。
俺達二人の笑い声が、死体が横たわる魔王城の謁見の間に虚ろに響いた。
「な、わけないだろう」
俺はすごく軽く魔力を当てた。
ゼビルゴーグは壁面に吹っ飛び、四肢が逆向きにねじれ、内蔵が破れた腹から飛び出し、顔の半分が潰れていた。
「殺さないように、少し魔力を当てただけなのになぁ」
俺は、遅延性激痛性の回復魔法を唱えた。
今、作ったオリジナルだ。できるだけゆっくりと壊された時以上の激痛をもって回復する魔法だ。
骨がきしみ、内蔵がかき回され、飛び出した眼球や歯を直接手で押し込められる感じの魔法だ。
イメージすれば何でもできるものだ。
「うあああぎゃあああいあいかいいいい」
死ぬ寸前に止められ、そこから破壊されるような激痛でゆっくりと回復してゆく。実にゆっくりとだ。
途中、ゼビ君が意識を失うと、覚醒の魔法をかけて起こしてあげた。
(過敏という魔法も作れるかな?)
簡単に言うと痛覚が1000倍になり、さらにその痛みで意識が飛んで失神することなく覚醒している状態を保つ魔法だ。
初めてなので、コードを整え、魔法陣も描いてみる。
俺の前に出現した魔法陣を、一度飛び出したが眼窩に戻ったばかりの充血した眼球で天才のゼビ君は読んだ。
「や、やめて、くれ。そんな魔法。ありえない。やめろ。早く殺せ。お願いだ。殺してくれ」
「すごい。さすがゼビ君。初めてこの世に誕生する魔法も、生成中の魔法陣を一目見ただけで、その効果を理解できるんだね。いや立派だ。よし、君を天才と認めよう」
俺はわざとゆっくりと手をかざし、ゼビルゴーグにもよく分かるように詠唱を唱えた。
絶望の色をした目でゼビ君は「やめろー」と絶叫した。
「あらあら、ゼビ君、こんな程度で絶望したらだめだよ。まだ前菜だよ。これから起きることからみたら、ほんの子ども騙しだよ」
魔法をかけ終えた。
俺はゼビ君にデコピンをした。そして飛んでゆくゼビ君に死なないようにまずは軽くヒールをかけた。
また壁に激突し、今度はスライムみたいにぐちゃぐちゃになったゼビ君はまだ生きていた。
遅効性激痛性回復魔法が、痛覚最大過敏と絶対覚醒の魔法との合わせがけで発動する。
生物の進化の過程を見るように、破壊されてアメーバ状態から粒子にまで分解される寸前から、次第に目鼻や骨格、筋肉が再構築されていく。麻酔なしの数千倍の痛覚による大手術だ。
まだ声帯はできていないので、ゼビ君の叫び声はしない。
「アン、温すぎたら言ってくれ」
アンは青い顔をしていた。
「もっとやった方がいいか?」
アンは首を横に振った。
「じゃあ、そろそろ仕上げをしてもいいか」
アンが無言で頷いた。
「ゼビ君、そろそろ終わりにするよ」
健康体にもどったゼビルゴーグはうつろな目をして反応しない。体は完全に元通りになったが、心が壊れてしまったのかもしれない。
「死ねるんですか」
「いや、違う」
俺は暗黒魔法を発動した。地獄の扉を開き、死神のスケルトンを召喚し、デスチェーンで縛り、地獄に落す魔法だ。これを受けた者は死なない。扉の向こうの地獄で永劫の苦しみにのたうち回ることになる。
地獄の扉が出現した。
「おっ?」
思わず驚きの声が出た。
これまでと違う、禍々しい大きな両開きの扉が出現したからだ。
扉が開くと、悪魔の叫びと共に、様々な邪悪な化身が出てくる。
そして何本ものデスチェーンがゼビルゴーグに絡みつく。
そして、ゆっくりとゼビルゴーグの体を持ち上げて、扉の向こうへと引き寄せてゆく。開いた扉の向こうに覗く世界はまさに地獄絵図だった。
思わず俺までめまいがしそうになった。
「嫌だ、嫌だ。行きたくない。誰か、助けてー。早く、早く私を殺してくれー」
ゼビルゴーグが絶叫してもがく。
だが、死神に囲まれ、デスチェーンは非情にも巻き上げられてゆく。
扉の中に入る時に、ゼビルゴーグの断末魔が謁見の間に響き渡る。
そして、扉が閉まると、暗黒の向こうに扉が消え、あたりは何もなかったかのようになった。
「俺の女に手を出した奴の末路はこうなる」
俺はぼそっと呟いた。
「「「「「姫様」」」」」
メイドや執事や騎士の格好の魔族が駆け寄って来た。
「ご無事で何よりです」
「魔王様をお護りできなくて申し訳ありませんでした」
「仕方がないわ。私も終わっていた。ジョンがいなければ、魔族はあのゼビルゴーグたちの支配下になっていたわ」
「そちらのジョン様というのは、初めてお目にかかりますが、どちらの魔族でいらしゃいますか」
「彼は人族。しかも、元勇者よ」
「なんと、勇者ですと」
執事が目を丸くした。
「魔王様よりも、魔王らしいです」
「ええ、どんな高貴な魔族の方かと思っておりました」
どうやらアンの召使たちは、俺のことを魔王の隠し子でアンの腹違いの兄弟かなにかと勘違いしていたようだった。
すると、アンが表情を変えた。
「どうされました?」
「シルビアがピンチよ」
アンは俺のシャツを羽織ったままの半裸の姿で駆けつけようと思っているみたいだ。
「どこにいる」
「この城の近くよ」
「なら俺が行く。シルビアには借りがある」
「借り?」
アンが首をかしげた。
「いじめられそうになっているところを助けてもらった」
俺は笑いながら、魔力を薄く伸ばし拡散した。今の制限を解除した俺なら半径100キロまで索敵可能だ。
(いた)
わずか2キロ先にシルビアの魔力を探知した。
さっき、俺が通ってきたところだ。
俺は、瞬時に転移魔法で移動した。
読者様の力で、エタらずに完結に向けてブーストしております。いつも感謝しております。
今回のお話がお口に合うかどうか心配ですが、ゲスのカス野郎に、思い切り復讐するお話しですので、そういう気分で、そういうテイストをお求めの方にはちょっとばかりスカッとするお話かと思います。
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