37 惚れた女がピンチだって?! そりゃ助けにいくしかないしょ(勇者視点)
「助けてくれて、ありがとう」
俺はシルビアに言った。
「ジョン様、ごめんなさい。実は私は……」
「いや、もう分かっているから」
カレンが実は魔王軍4大将軍の筆頭であるシルビアだということは前から知ってた。疑問なのは、どうして俺を助けたのかだ。
「だけど、どうして俺を助けてくれたの?」
「それは……、アン様を助けてくださったからです」
「助けた? 別に何もしてないけど」
「さっき、大魔法を使ったアン様をかばうために、仮面の勇者のフリをして自分が魔物を倒したように演技してくれたじゃないですか。あれはアン様が目立たないようにするためでしょ」
「それはそうだけど」
「そのご恩をお返ししただけです。それに今回のことは私達の側の不始末です。その始末を私がするのは当然です」
「そうか。分かったよ」
すると突然、シルビアの表情が変わった。
「えっ、何、アン様が。分かった。すぐに向かう」
「どうしたの?」
「いえ、こちら側のことで」
シルビアは言葉を濁したが、尋常でない顔色だ。
「アンがどうかしたの?」
シルビアの意識がまた離れた。
どうやら魔導通信をしているようだった。
俺はアンのことが気になるので、魔導通信に干渉して盗聴してみた。
『魔王城は既に制圧されています。アン様が危険です』
そう通信の相手方はシルビアに告げていた。
「ジョン様、私はここで失礼します。残してゆく魔族の軍勢は私の指揮下にありますので、ジョン様や人族には危害を加えるおそれはないのでご安心を」
そう言うとシルビアは消えた。
(転移魔法で魔王城に行ったのだな)
これまで隠していたが俺は転移魔法も使える。しかも、魔王城は一度行ったことがある。
俺はシルビアの後を追って魔王城に転移した。
ドンという衝撃で弾き飛ばされた。
(あれ? 転移に失敗したのか)
だが、眼の前には魔王城がそそりたっていた。
(おかしいな城の中に転移するつもりだったのだが……)
魔王と対峙したあの謁見の間にダイレクトに移転するはずが、城の外堀だった。
見ると城の周りには結界がはられていた。
(すごいな。転移魔法も無効化する結界か)
この結界をはったのは、なかなかの術師だと思った。
だが、もし俺が本気を出せばオブラートほどの隔絶効果もない。
俺は、異世界に召喚された時、召喚者特有のギフトで膨大な魔力と万能スキルを得た。その質も量もわかりかねるほどのものだった。召喚後最初にしたのは調査だ。何の目的で俺を召喚したのか、ここはどういうところかということだ。そして、王国の胡散臭さを嗅ぎつけた。だから得た能力を隠した。常にミッション遂行の最低限度の力しか出さず、その程度の能力しかないように偽装した。そして俺の能力隠蔽を暴けるような鑑定スキルや魔眼を持った存在はこの世界にはいなかった。
俺は自分の力で元の世界すなわち現代の日本に帰還することを模索した。しかし、俺の人外の規格の力をもってしても召喚元の日本に帰る手段を見つけることはできなかった。
だが、俺を召喚した王は、俺が魔王を倒して人類に平和をもたらしたら、元の世界に帰してくれると約束してくれた。だから、我慢して最小限使命を果たしたのだ。しかし、魔王と和解し、平和を取り戻したら、そんな約束をした覚えはないとうそぶかれ、日本に帰してくれるどころか、魔王を殺さなかったので、裏で通じているのではという冤罪で処刑か追放かという処遇を受けることになった。
そんなこんなで、この世界に来てから、俺が得た力を100%発揮して誰かのために何かをするという機会はなかった。
だが、俺は人生で初めて本当に人を好きになった。
それがアンだ。
アンのためなら何でもするし、何でもできる。
惚れた女がピンチなら能力の隠蔽を解き、持てる力を全て発揮するしかない。
俺は、侵入を阻む強力な結界の前に立った。
(限定解除)
心の中で呟いた。
いままではうっかり無意識のうちに巨大な力を人前で使ったりしないように、10分の1以下に自分の力を制限していた。それをすべて解除したのだ。
そして一歩踏み出した。
俺は中に入った。
能力を全開にしたら、詠唱も魔法陣も何もいらない。
俺が入りたいと思えば、阻むものは何一つない。
俺はそのまま歩いて魔王城に入った。
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