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32 思わずパパ(魔王)よりすごいことやっちゃった! (魔王の娘視点)


(この魔物の魔力の感じは、アレだわ)


 魔王の隷属スキルが効かない、ゼビルゴーグが開発した禁忌の秘薬で狂乱状態になった魔物の発する魔力の波動だった。


 私は走った。


 魔力を薄く伸ばして、空間に広げ、索敵を開始した。


 中型の魔物が3体だ。


 だが、あの秘薬が投与されているとすると中型の魔物でもやっかいだ。おそらくドラゴン級の攻撃力と防御力を持っているだろう。私やシルビアや勇者クラスの実力が無いと太刀打ちできない。


 宮殿の広間に行くと、魔物たちは中庭に移動した後だった。


「ひどい」


 舞踏会も開かれるであろう宮殿の大広間は、壁は崩れ、床はくぼみ、窓は割れ、けが人が倒れて呻いていた。


 私は、割れた窓から下を覗いた。


 魔族の騎士が秘薬で狂乱化した3体のサイクロプスに囲まれていた。


 すでに何度か攻撃を受けたようで、黒のアーマーはボロボロになっていた。


(あの娘は、もしかして、メレーデ?)


 メレーデは私と同世代だ。いつか私の護衛騎士になりたいとシルビア将軍のもとで研鑽していた。


(どうしてメレーデが魔物の攻撃を受けているの?)


 父が締結した和平協定を不満に思い、勝手に人族に侵攻して来たのなら、狙うは人族の騎士であるはずであり、魔族の騎士ではないはずだ。


(メレーデが危ない)


 もう体力も魔力も限界に来ていることは一目見ればわかった。


 私は中庭に飛び降りた。


 そのまま無詠唱で魔力を凝縮した魔弾を撃った。


 この攻撃は魔力の塊で殴りつけるようなものだ。魔力が無いと一回の攻撃で魔力切れを起こすし、中途半端な魔力では威力がない。無尽蔵の魔力を有する魔王の娘だからこそできる攻撃だ。


 一定の臨界点を超えた魔力の塊は尋常じゃない威力を有する。


 集まった魔力そのものが共振して増幅して巨大なエネルギーを生み出すのだ。

2✕2は4にしかならないが、2を掛け続けていくとすごい数字になるのと同じだ。


 凝縮して共振することにより爆発的威力を増した魔力の塊が、別次元の怪物と化したサイクロプスの右腕を吹き飛ばした。


 メレーデは何を考えているのか、目を閉じて横たわった。


(まさか死んだの?)


 私は焦って魔力でメレーデの体をスキャンする。


(命に別状はないわね)


「ちょっと、あんた、何、一人だけ寝ようとしているのよ!」


 思わずメレーデを叱った。


(私が頑張っているのに、私の護衛騎士の候補のアンタが戦場で敵を前にしてお昼寝をするつもり!)


 腕を飛ばされたサイクロプスが怒りの唸り声を上げた。


 そして私の方に向かってきた。


「お前たちは私がここで処分する」


 私はサイクロプスに腕を向けた。


 凝縮魔弾を発射した。


 もちろん無詠唱だ。


 右手を失ったサイクロプスの頭が飛んだ。


「ウガマイエイイ‡、エエエエエエエエエ†‰」


 もう一体のサイクロプスが距離を詰めてきた。


 私は手をかざした。


 魔弾でサイクロプスの胴体に穴があいた。


 その後ろにいた3体目のサイクロプスの両足に魔弾を撃った。


 膝から下を失い。


 サイクロプスは地響きを立てて倒れた。


「大地よ、我に従え、我の槍となり、仇なすものを討て」


 私は土魔法を発動した。


 サイクロプスを下から、無数の大地の槍で貫いた。


 3体のサイクロプスの反応が消え、絶命した。



「ふう、なんとか倒せたわ」


 メレーデが目を丸くして震えている。


 それを見て、私は気がついた。


(まずい。思わず魔王級魔法を全開で発動しちゃった)


 こんな魔法攻撃をすることができるのは現魔王より魔力が上の私だけである。魔王レベルの魔法攻撃というよりも、魔王を超えたレベルの攻撃をしてしまった。Eランク冒険者が放てる魔法ではない。


(やばい。やっちゃったー)


 あの秘薬を投与された魔物を早く始末しなければならないと思うあまり、後先のことを考えずに戦ってしまった。


 中庭に人が集まってきた。


 上からは皇女や大臣たちが窓から下を覗いていた。


 目の前のメレーデと言えば、何やら私の後ろを指差して「アワワ」と震えていた。


「何?」


 振り向いた。


 仮面の勇者がいた。


 一瞬、私は後ろに飛びのき、構えた。


(あの秘薬を仮面の勇者が手に入れたの? そしてこれは私を討つため?)


 それならば、私の護衛騎士候補見習いのメレーデを真っ先に狙うのも合点がゆく。


 だが、私は仮面の勇者の姿に違和感を感じた。


(なんだか違う)


 よく見ると確かに仮面の勇者の格好に近いが、見慣れた別のものだった。


(なに!? これ勇者食堂で売っているコスプレの衣装じゃない)


 本物の仮面の勇者と、実際のコスプレグッズをいつも見ていた私には一瞬で分かる。

 

 これはコスプレだ。


 ところが、そのコスプレ勇者が剣を高く上に掲げた。


 剣は聖剣の輝きを帯びていた。


(あれは、勇者食堂では売ってないものね)


「見たか、勇者の力!」


 こともあろうにニセ勇者は、私の手柄を横取りしようとするではないか。


「ちょっと、あんた」


 クレームをつけようとする私の袖をシルビアが引いた。


「お静かに。あれはジョン様ですよ」


「えっ?」


 確かに背格好を見ると、ジョンと同じだった。


「でも、ジョンがなぜ?」


「姫様を守るためです」


「私を?」


「あんな魔法を衆人の前で披露したら大変なことになるじゃないですか。でも地上最強の称号を持つ仮面の勇者なら、当然のこととして、誰もが受け入れますし、問題になりません。だから姫様をかばうためにジョンさんがとっさに勇者のフリをしているんだと思います」


「そんな。でもどうしてジョンがそんなことを」


「決まっているじゃないですか」


 そう言われて、私は頬のあたりが熱くなった。


「じゃあ、私のことを」


「もちろん大切に思い、守るためです」


「……」


「とにかく、ここはいったん、目立たないように引きましょう」


 私はシルビアに連れられて建物の柱の影に身を隠した。


『姫様!』


 突然、念話が来た。


『何?』


 魔王城の執事のモーリスからだ。


『大変です。魔王城が襲われています』


『どういう事?』


 魔王城は難攻不落だ。落とせるとしたらあの仮面の勇者ぐらいしかいないはずだ。


『それが内部に裏切り者がいました。親衛隊の食事に毒を盛り、さらに内側から開城して、魔王様の隷属が効かない強力な魔物を送り込んできました。今、苦戦しているところです。一刻も早くお戻り下さい』


 そこで念話が途切れた。


『モーリス、モーリス、どうしたの答えなさい』


 だが、返事はなかった。


「シルビアにも今の念話は聞こえた?」


「はい」


「どうしたらいい」


「いったん、魔王城にお戻りになるしかないかと」


 すると、中庭で大歓声が聞こえた。


「ジョンたちのことも気になるわ」


 中庭に行くと、ジョンの前に第一騎士団長のカールがいた。


「3万の魔族の軍勢が国境を越えて侵攻してきたと今しがた報告があった。人族と魔族との和平協定は破られた」


 あたりが、シーンと静まりかえった。


「だが、我々には勇者殿がいる。今ここで見た通り、勇者殿はあの強力な魔物を一瞬で屠ったのだ! 安心して刮目せよ。このカール率いる第一騎士団と勇者殿とで、必ずや3万の軍勢を撃退してみせよう!」


「「「「「「「「オオオオオオオ」」」」」」」」


 大歓声が湧き上がった。


「では、出撃します」


 カール団長が皇女にひざまずいた。


「勇者殿、そして第一騎士団の精鋭の皆さん、私達の興廃はこの一戦にかかっています。我が国の防衛ラインを突破されると人族全体が危機にさらされます。ご武運をお祈りいたしております」


「「「「「「「武運を!」」」」」」」


 そして勇者ことジョンは、カールに引きずられ、誘拐されるように騎馬に乗らされ、あっという間に騎馬隊と共に出撃していった。


「シルビア!」


「はっ!」


「わかっているわね。ジョンを助けて」


「はい!」


「私は魔王城に向かいます」


「承知いたしました」


 そうして、シルビアは本当の勇者と間違われて戦場に連れて行かれたジョンを守るため、私は魔王城を守るため、それぞれ出発した。



エタることなく完結まで頑張ります。応援よろしくお願いします。ありがとうございます。


【作者からのお願い】


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