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3 力を隠すのも一苦労(勇者視点)


 俺は道端に転移した。


 あたりを見回す。


 特徴的な三角屋根の家屋の村が先に見える。


(成功したようだな)


 あの屋根はリンデルバーグ国の家屋の特色だ。


 リンデルバーグは脱出した王国の隣国の小国である。


 魔族の国とも国境を接しており、王国と魔族の国との間の緩衝地帯のような国だ。だが、小国とはいえ、独立国だ。王国の司法権はここまでは及ばない。


 俺は街道を歩き始めた。


 仮面をつけていないと頬撫でるように吹き抜けてゆく風が心地いい。


 それから俺は村の近くの森でのんびり過ごした。


 腹が減れば、川で魚を捕まえ、森で動物を狩り、焚き火を火炎魔法で着火し、焼いて食した。


 野宿も結界を貼って寝たので、問題無しだ。俺の結界を破れるような魔物は人族の村のそばの森にはいない。いや、世界中探しても伝説のエンシェント・ドラゴンくらいしかいないはずだ。


 これまでの疲れを癒やすかのようなゆったりとした時間が流れた。


 だが2週間もするとキャンプ生活も飽きてきた。飯屋の飯や酒が恋しくなってきた。


(そろそろ町にでもゆくか)


 ただ、町で暮らすには問題が一つあった。


 実は俺は手ぶらだ。


 武器も防具も金もない。勇者装備は全て置いてきたし、勇者として行軍している間は衣食住や必要なものは支給され、お金を使う必要がないので、金も持っていない。


 だから、まずは冒険者ギルドで登録して身分証明証をもらい、日銭を稼がなくてはならない。


 町に入ると、中心部に冒険者ギルドはあった。


 思ったよりも簡単に登録することができた。


 最低のFランクからのスタートなので、試験もないし、魔力測定もない。正直実技試験や魔力測定があった場合、どうやって実力を隠すか考えていたが杞憂だった。


「そのう……装備は?」


 最後にできあがった冒険者証を渡す時に、ギルドの受付の若い女性が心配そう訊いてきた。


「何もない」


「えっ。棍棒もないのですか」


「そうだ」


 あまりに俺が平然と言うから受付の女性は黙ってしまった。


 俺が本気を出せば、どんな魔物でも素手のワンパンで倒せる。


「すみません、冒険者登録はここでできます?」


 俺の後ろから、若い女性が来て言った。


「はい」


 俺は暇なので少し横によけて、その女性が冒険者登録するのを眺めていた。


 はっきり言って美人だ。


 この世界に来てこんな美人は見たことがない。


 見ているとさっきの俺と同じ問答を受付の女性とし始めた。


 彼女も装備が無いようだ。防具も小手も剣も、ナイフすら持っていないようだ。


「魔法が少々使えますから大丈夫です」


 おおお、魔法が使えるのかと思った。


 人族は魔力が弱い。そこが魔族との決定的な差だ。だから魔道士は人族の軍でも少なかった。


 魔法が使えるのなら冒険者などより、もっといい仕事につけるはずだ。転移者でこの世界のことに疎い俺でもそれぐらいは知っている。


「その、魔法が使えるんですか」


 女がこちらを見た。


「あなたは?」


「ジョンといいます。僕もさっき冒険者登録したばかりです」


 ジョンは適当につけた冒険者登録のための偽名だ。


「私はアン」


「アンさんよろしく」


「ええ」


「それにしても魔法が使えるなんてすごいですね」


「どうして?」


「だって、普通そうですよね」


「普通って?」


「いや、魔族なら別ですけど、人族で魔力がある人は少ないですから」


 アンは急に焦ったような顔になった。


「そ、そうよね。そうなのよ」


「どの程度の魔法を使えるんですか」


 アンは顔を赤くして黙った。


「おい、そこの兄ちゃん」

 

 横から髭面の大男が出てきた。


「冒険者に、そのスキルや力を訊き出そうとするのはルール違反だぜ」


「そうなんですか」


「当たり前だろう。誰だって切り札は隠しておくものだ。それにいつどこで誰が敵になるかだってわからないだろう。登録したてで何もしらないようだから教えておく」


「わかりました」


 俺が振り返るとアンは姿を消していた。


「あれ」


「ほら、余計なことを訊くから、女に逃げられちまったようだな。若造」


 髭面の男が笑った。


 俺は仕方なく、ギルトを出た。


(さて、これからどうするかな)


 歩き出して金が無いことを思い出した。


(手っ取り早く日銭が稼げるクエストを受けないと)


 ギルドに戻ろうとすると、ギルドの前の通りが何やら騒がしくなっていた。


 アンとさっきの髭面の冒険者が揉めているようだった。


「なあ、あのうざい若造を俺が追っ払ってやったんだから、一杯くらい付き合えよ」


 髭面がアンの手を取ろうとした。


「やめてください」


 アンが手をひっこめた。


「おい、先輩の俺が色々いいことを教えてやろうと言っているんだそ」


 髭面がアンに歩み寄る。


(うーん。ある意味お約束のイベントだな)


 俺が転移前の日本で読んでいた異世界もののラノベのテンプレイベントだ。


 俺はアンを助けたいと思った。


 しかし、一つ問題がある。


 勇者の力は使えないし、バレたくない。


 俺はこれからはモブとして楽に生きるのだ。


 そしてたのしく生きるには、可愛いい女の子と仲良くなるに限る。


 どうやって、力を使わずに、彼女を助けて好印象を与えたらいいのだろう。


 あんな男はワンパンで1キロ先に吹っ飛ばせる。


 でも、それじゃあマズイ。


 暗黒魔法で、死神を呼び出して、デスチェーンで縛ることもできるが、それも彼女から見たらドン引きだ。それはおそらく魔王級魔法だ。


 俺は固まってしまった。







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