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27 ヘタレを演じるのも楽でない。それにしても暑苦しいぞ、騎士団長! (勇者視点)



「遅れるな!」


「はい」


 俺はハアハアしながら後を走った。


(このぐらい息を切らしていたらモブっぽいかな)


 皇女を乗せた馬車と騎馬隊を駆け足で追っていた。


(それにしても遅っ!)


 馬車のスピードは遅かった。


(まあ、皇女が乗っているからな。舗装されていないダートを上下に揺れながら飛ばすわけにはいかないのだろう。そんなことしたら皇女のケツがヤバいことになる)


 だらだらと後をついて行くのは退屈だった。


 その気になれば魔法で空を飛べる。


 な~んにもしなくても、勇者補正のかかかった身体なら騎馬隊を抜き去り、あっという間に都まで駆け抜けることも簡単だ。


 だが、ここは我慢のしどころだ。今の俺は勇者じゃない。自由気ままなリア充の異世界モブなのだ。この幸せを自分で壊すようなことはしてはいけない。


「待ってくださいよ~」


 俺は水魔法で、汗をかいたように頭を濡らし、ゼイゼイしながら、足をよろめかせて騎馬についてゆく。


 すると、時折振り返る騎兵が驚いた顔で俺を見た。


(あれ、ヘタレを演じすぎたかな)


 目が合った。


「お、お前、まだ付いてきているのかよ。マジか。化け物か」


(えー、こんなんでも驚かれるの)


「すげーな。アイツ、3時間も走りっぱなしだぞ」


 なんだか知らないが俺の評価が上がっている。


(まずいな……)


 俺は倒れるふりをした。


「あれえ~」


 地面に顔からダイブした。


 ただ反射的に受け身を取ってしまい前転してしまった。


 そのまま勢いで転がった。


(おっ、これいいな)


 くるくる回って進むのは結構楽ちんだった。


(これなら怪しまれないだろう)


 俺はアルマジロのように転がりながら進んだ。


 なんとなく周囲の目が冷たいというか変だ。


(転がる方がもっと怪しく見えるのかな)


 だが、どうせ少し変なやつと思われているのだ。だらだらと、しかも貧弱そうな演技で走るのも飽きたから、転がって進むことにした。


 しかも道はちょうど緩やかな下り坂だった。


 しばらく転がって遊んでいると前の馬車と騎馬隊が止まった。


 騎馬隊が後ろを振り返った。


「ひええええええ」


 俺は、わざと情けない声をわざと出して地面に仰向けになって倒れてみせた。


 すかさず現在位置を索敵する。


(もう都まで来たのか)


 この先にある城門をくぐれば皇国の首都カルロバーグだ。


「おい、大丈夫か? 生きているか」


「え、ええ」


 俺は苦しそうに答えた。


「よくここまで付いてこられたな。後で、騎士団の詰め所のオレのところまで来い」


「あなた様は?」


 声をかけてきた騎士は勇者時代の顔見知りだったが初対面のフリをした。


「第1騎士団長のカールだ」


「カール団長様ですか」


(呼び出すなんて何のつもりだ。まさか、根性がなっていないとか言って特訓という名のヤキでも入れるつもりか)


 皇国は魔族の国と国境を挟んで対峙し、常に魔族との戦いにおけるフロント(最前線)だった。


 そのため前線を守る騎士団長カールの体育会系気質は顕著だった。


 カールはヤバいほど押忍の精神に満ち溢れた漢だった。


 勇者の時は、コイツの暑苦しさに辟易したものだった。


 変な奴に目を付けられてしまったのかもしれない。


 城壁でかこまれた城門を抜けて都に入ると、その後はゆっくりしたペースだった。


 宮殿の前に来た。


 馬車が止まると、扉が開き、アンとカレンさんが降りてきた。


「やあ」


 俺は手を上げた。


 だが、アンの表情は硬かった。


(なんかあったのかな)


「腹減ったな。勇者食堂にでも行こうぜ」


「それが……」


 アンが曇った顔で何か言いかけた。


「ごめんなさい。私のせいで困ったことになりました」


 カレンさんがアンを遮るようにして言った。


「どういうこと?」


「それは奥で話します」


 俺たちは宮殿の中にある小部屋に移動した。


「どうしたんだい」


「3人ともしばらくここで軟禁されることになりました」


「えっ? どういうこと」


 カレンは、この国の皇女が隣国の魔族の領地の領主べギアーデが結婚を申し込まれているが、事実上は侵略であり、強引に国を併合しようとしており、明後日、べギアーデが軍勢を連れて、結婚の返事を聞きにくるのだと説明した。


「でも、それと軟禁がどうつながる」


「私は実は魔族です。魔法で人間の姿になっていましたが、本当はダーク・エルフです」


 カレンが手を顔に当てた。


 すると顔が変わった。


 長い耳が髪の間から飛び出した。


(ゲッ! 四大将軍のシルビアじゃないか)


 俺は心の中で叫んだ。


「エルフだったんですね」


「はい」


「でもどうして姿を偽ってこっちの国に来たんですか」


「それは言えませんが、人族を害するつもりはありません。プライベートとでも申しましょうか。たまたまです」


「では、今回のべギアーデの侵攻とは無関係だと」


「はい」


「でもどうして魔族だとバレたのですか」


「私が未熟だからです。この変装魔法を維持するためには魔力を発動し続けないとならないのですが、その魔力が漏れていたのです。皇女は一流の魔導士なので、私の魔力漏れを見逃さなかったのです」


(いや。俺も分かっていたよ。お前の魔力はダダ漏れだから。でもまさか四大将軍シルビアだとは思わなかった)


 俺は魔王城でシルビアと対決した時のことを思い出した。


 シルビアは確かに強いが、素直すぎるというか直線的で駆け引きには弱かった。


 ただし、魔王を除く魔王軍の中ではこと戦闘力だけは魔王の次くらいだった。


 俺はシルビアを傷つけることなく制圧した。


 力の差は歴然だった。


 魔王に次ぐ戦闘能力のシルビアを子どもでもあやすかのように制圧したのを目の前で見た魔王は、俺と戦うことが無意味だと知り、和平への決断をしたというわけだ。


(あん時、以来だな)


 負けたシルビアは「殺さないのですか」と俺に真顔で訊いた。


「ああ」と答えると、なぜかシルビアは顔を赤くしてうつむいた。


 そして、「負かされたのは初めてです。あなたが初めての人です」と意味不明なことを言って体を震わしていた。


「ショックですか」


 追憶を打ち消すかのように目の前のシルビアが言った。


「警護対象の商人がエルフだったら驚きますよね。騙してごめんなさい」


「あっ、いや、別に。それで俺たちはどうなるんだ」


「明後日のべギアーデの来訪が終わるまでは城に軟禁されるそうです」


「でも無関係なんだろう」


「私が無関係と証明できたわけではないので、しばらく監視されることになります」


「俺たちは?」


「アンさんと、ジョンさんは魔族ではないですが私の連れということもあり、念の為にべギアーデとの決着が付くまで監視下におくとのことです」


「そこまでするというのは、実はカレンさんって大物なのかな」


「えっ?!」


 シルビアが分かりやすいリアクションをした。


(やっぱり、シルビアは脳筋で、駆け引きには弱いな)


「皇女がそこまで警戒するってことはただの魔族じゃないってことでしょ」


 俺は分かっていて意地悪な質問をしてみた。


「そ、それは……」


「ともかく今は様子を見るしか無いわ」


 黙っていたアンが言った。


「そうだね皇女に逆って、本当に投獄されても困るしね」


 その気になれば転移魔法でどこにでも飛べる。


 軟禁でも、拘禁でも俺には無意味だ。


 問題は、それよりもなぜ四大将軍シルビアがここにいて、さらに魔国の辺境伯といってもいいべギアーデが、魔王の和平協定に反する侵攻と国の併合を進めようとしているかだ。


 べギアーデやシルビアは魔王の命令で動いているのだろうか。


 せっかく平和になり、モブの生活を楽しもうと思ってた矢先に雲行きが怪しくなり、俺はため息をついた。


「ジョンさん、本当に申し訳ありません」


 シルビアが頭を下げた。


(シルビアは俺の正体に気がついてないようだな)


 彼女は仮面の俺しか見ていない。


 それに俺は完璧に自分の魔力を隠蔽していた。


(どうなるかわからないが少しこのイベントに付き合ってみるか)

 

 俺はそう決めた。



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