26 政略結婚を迫ってくる魔族と怪しい三人組(カルフィジ皇国皇女ソニア視点)
「前方で異常発見」
騎兵から馬車の中のソニアに報告があった。
「いかがなされますか」
「状況は?」
「旅人が山賊に襲われているものと思われます」
「直ちに救援しなさい」
「御意」
馬車の周りを囲んでいた騎士団が前方の現場へと駆けつけてゆく。
ソニアを乗せた馬車も速度を速める。
前方の事件は囮で、ソニアの護衛騎士団を分断させて、個別撃破する作戦かもしれないからだ。できるだけ一団でいることが望ましい。
自国内ですらこのように警戒しなければならないのには事情があった。
一つは先の魔王軍との大戦で、魔王城へと続くルートにあり、国境を魔族の国と接しているソニアの国が最前線となり、多くの戦死者を出したことからだ。
兵力は半減し、国を守るにも、治安を維持するにもギリギリの戦力になってしまっている。
もう一つは国境を挟んだ向こう側の魔族の領地の領主べギアーデが結婚を申し込んでいることだ。
それはロマンチックな話でもめでたい話でもない。
強引にカルフィジ皇国を奪おうという話だ。
「状況は」
「皇女様、盗賊は制圧しました」
「被害は?」
「襲われていた旅人は無事です。我が騎士団に被害はありません。抵抗した盗賊3名を斬り倒し、4名を捕獲しました」
「その旅人たちを連れてきなさい」
「御意」
騎士が連れてきたのは、若い女性二人と男性だった。
誰も武装していない。
「お怪我はありませんか?」
「ありがとうございます」
「旅の方とお見受けしますが」
「はい。私は商会主で都に向かう途中でした」
「警護も付けないで女性が旅をするのは危険です。お恥ずかしい話ですが、先の大戦の影響で、我が国は治安にまで人が回らない状態です。これからは警護の者を付けることをお勧めします」
「お言葉を返すようで恐縮ですが、この二人が警護の冒険者です」
「は?!」
私は目を疑った。
簡易な皮の胸当てなどの防具すら付けず、武器も持っていない。
「この人たちが警護の冒険者ですって?」
「はい」
もし防具も武器も無しで、警護任務につけるとしたらSランクだ。
「ランクは?」
「Fランクです」
男の方が答えた。
私は馬車の座席からずり落ちそうになった。
「Fランク冒険者が、武器も持たず警護任務についているですって!」
あきれてものが言えなかった。
「とりあえず、女性の方は、私の馬車に乗りなさい。このまま放おってはおけません」
「でも、この国の皇女様であられますよね。私どもが乗るわけにはいきません」
「いいから乗りなさい!」
二人の女性が遠慮がちに乗ってきた。
その後に続こうとした男性を止めた。
「あなたはだめ。乗れるのは女性だけです。あなたは護衛者としてもっと自覚を持つべきです。一から鍛え直すつもりで、駆けて馬車の後を付いてきなさい」
男は馬車から離れた。
私は馬車を出発させた。
「この度は助けていただき、本当にありがとうございました」
「いいえ、視察の途中で、ちょうどあなたがたが襲われているところに遭遇したに過ぎません。それに国内の治安を守るのは為政者である皇族の務めです。それよりも本当に私たちの助けが必要でしたか?」
商会主のカレンと名乗った女と、アンという冒険者が顔を見合わせた。
「どういうことです?」
「私の騎士団が助けなくても、あなたちの身は安全だったと今、確信したからです」
「ジョンのことね」
「あの冒険者ですか……。違います」
「おっしゃられていることが分かりません」
私は馬車に乗ってきた時から気がついていた。商会主の女が人間ではないことを。
巧妙に魔力を隠しているが、魔族だ。
変化する魔法を自分にかけているはずだ。そのため魔力を隠そうとしても発動している魔法の魔力が漏れている。
そもそも変化の魔法を使える事自体がただものではない。その上、私でなければ気が付かないほど、巧妙に魔力を隠蔽できることもありえないようなことだ。
(この女、そうとうな魔力を有する魔族ね)
「はっきり言わせてもらうわ。あなた魔族でしょう」
女の顔が引きつった。
(図星ね)
「違います」
「何が目的?」
「目的などありません。商会の仕事で旅をしているだけです」
「べギアーデの手の者じゃないの?」
「べギアーデ? どういうことです?」
「本当に知らないの?」
「はい」
「べギアーデが私に結婚を求め、さらには我が国とべギアーデ領を併合して新国家を建国するという話よ。箝口令はひいているけど、もうこの国の人間ならみんな知っているわ」
女はひどく動揺した表情を見せた。
「あのべギアーデが?」
「本当に知らないのね」
「はい」
「明後日、べギアーデが、軍勢を連れて我が国に、私の回答を聞きに来ることになっているのよ」
商会の謎の女ばかりか、関係の無い女冒険者まで深刻な顔をしてなにか考え込んでいる。
「断るつもり。だけどその後どうなるか……」
私はため息をついた。
「でも、その様子だとべギアーデの指示で動いているようでもないようね」
「断じて」
「本当はあなたは何者なの?」
女は答えなかった。
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