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2 私だって恋したい(魔王の娘視点)


「お父様、人族の世界の社交界というものにデビューしてみたいですわ」


「ならぬ」


「どうしてですか。和平が成立した今、我が国は、人族にとって単なる異国の一つ。その王位承継者の王女が、人族の国の王族の主催するパーティに出席することは外交的にも望ましいことではありませんか」


 そうは言ったが、私の本心は国益のための外交ではない。


 人族の間ではやっている恋愛小説を密かに愛読していて、年頃の自分も恋愛というものを経験してみたいというのが本心だ。


 父である魔王は過保護で、この年になるまで年頃の男とは会ったことがない。警護は女騎士で、魔法の先生は老人ばかりだ。つまり箱入り娘状態なのだ。


「いいか。人族は信用ならない」


 実は人族も魔族も同じ人間だ。簡単に言えば魔力が強いのが魔族で、魔力が弱いのが人族だ。肌の色や髪の毛の色が部族によって異なるのとそう変わらない。人族だからという理屈に私は納得がいかなかった。


「どうしてです? お父様も人族を信用したから和平協定を結んだのではなかったのですか」


「アイツらは勇者を追放した」


「はい? どうして」


「勇者に報酬を支払うのが嫌だったからだ」


「ええええっ」


「今回は、平和的に休戦した。だから、人族には戦によって得た新しい領土や宝が無い。それに賠償金もこちらが譲る姿勢を見せただけのもので、金額はとても低い額で合意できた。だから戦に勝っても勇者に分け与えるものがない。さらには民を戦の苦しみから救ったことで大人気の勇者が目障りらしい」


「それで追放したんですか」


「正確には追放される前に勇者が姿を消したらしい」


「ひどい話ですわ」


「いいか人族の王国の連中はそういう汚くてケチな者たちなのだ。そんなゲスな者たちを大切なお前に近づけるわけにはいかない」


「でも、私も年頃です。この宮殿の中だけで生活するのは飽きました」


「ならぬ。お前は第一王位承継者なのだ。何かあったら取り返しがつかない」


「お言葉を返すようですが、父上。魔力も魔法の威力も私の方が今では上です」


 それは事実だった。私は幼少期から家庭教師が驚くほどの魔力と才能に恵まれ、今ではおそらく父を凌駕して、魔法ならばこの世界で一番強い。


「うぬぼれるな。上には上がいる。お前にも敵わぬ相手はいる」


「それは誰ですの?」


 父は黙ったままだった。


「あの勇者ですのね」


 父がうなづいた。


「あれは人外だ。あれには誰も敵わぬ」


「でも、逆に言えば、勇者以外にこの私に対抗できる存在はいないということですよね」


「とにかく、ならぬものはならぬ!!」


 父は怒って部屋を出ていってしまった。



 父の気配が消えたのを確認すると私は専属メイドのシリルを呼んだ。


「お嬢様」

 

 シリルが膝まづいた。


「予定通り、決行するわよ」


「しかし……」


「いいから、言われた通りにして」


 着替えを手伝わせた。


 密かに私の配下に買ってこさせた女性冒険者が着ているような平凡な服だ。


 私は広い世界見て歩き、恋をするために、家出をして人族の国に行くことを計画して、密かに準備を進めてきた。父や魔王城の王宮魔道士が構築した結界や、出入りを監視して追跡する魔法の一切を無効化して人族の国まで転移するための魔法も習得した。


 ついに計画を決行する日が来たのだ。


 私は詠唱を唱えた。


 花火のような色鮮やかな魔法陣が部屋の中に展開してゆく。


「それじゃ、シリル、ご機嫌よう」


 私の身体は魔法陣が発する光に包まれ、そして部屋から消えたのだった。




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