19 こんなのがいるなんて聞いていない!(魔王の娘視点)
魔物が森から溢れ出てくる。
その後ろからアース・ドラゴンの巨大な頭が出現した。
「グアオオオオオあ‰†―」
私は『隷属』を命じた。
(だめ。効かない)
アース・ドラゴンは隷属しない。
私は仕方がないので新たに出てきた魔物たちを隷属すると命令を下した。
『皆のもの、あのアース・ドラゴンを討て!』
『『『『『御意』』』』』
オーク戦士が向かうが、尻尾の一振りで吹っ飛んでしまう。
他の魔物が噛みついたり爪をたてるが、全く効かない。
アース・ドラゴンが炎のブレスを吐いた。
魔物たちが一掃された。
(おかしいわ。アース・ドラゴンは、確かにドラゴンの一種だけど本来はこんなに強くないはず。だとしたらやはり……)
私は父と最新兵器の実験に立ち会った時のことを思い出した。
それは、私が家出をする少し前のことだった。魔王軍の戦力強化につながる禁忌の秘密兵器の開発に成功したとのことで、練兵場に私は父と赴き、そのテストに立ち会うことになった。
宮廷魔道士長で、魔導兵器開発の責任者もしているゼビルゴーグが恭しく頭を下げた。
「魔王様、ご機嫌麗しく存じます」
「秘密兵器を開発したそうだな」
「はい」
「それはどのようなものだ」
「魔物の戦闘能力を倍増させるクスリです」
「ほお」
「これを投与すれば、その力は何倍にもなります」
ゼビルゴーグは薄紫の液体の入った瓶をかざした。
「では、さっそく見せてみろ」
ゼビルゴーグが合図をすると、同じ種類の魔物が2体、練兵場の闘技場に出てきた。
「これは同じ程度の力の魔物です。一方にだけこの試薬を投与します」
ゼビルゴーグが一体にだけ試薬を打った。
「ぐああいおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
試薬を投与された魔物が雄叫びをあげた。
「よし、戦わせよ」
試薬を投与された魔物は、相手に近づくと一瞬で引き裂いた。
「ぐああああああああああ」
「他の魔物とも戦わせよ」
闘技場に魔物を次々と入れる。
試薬で狂戦士状態になった魔物は、それを全て瞬殺する。
「いかがでしょう。ただの雑魚の魔物が、軍団長並の戦闘能力を発揮できるのです」
「うぬ。面白い発明だ」
父は満足げにうなづいた。
「もうよかろう。あの魔物を下がらせろ」
「承知」
ところが、魔物は言うことをきかず、暴れ続けた。
「おかしい。どうしたんだ」
「どうなっている?」
「言うことをききません」
「仕方ない」
父が『隷属』のスキルを発動した。
しかし、魔物は警護の兵士に襲いかかる。
「どういうことだ。我が命に逆らうというのか」
父の表情が変わった。
魔物がこちらを向いた。
そして牙を向いて私に襲いかかろうとした。
即座に電雷が走り、魔物は黒焦げになった。
父が魔法で攻撃したのだ。
「ゼビルゴーグ、これはどういうことだ」
「申し訳ありません」
ゼビルゴーグはひれ伏した。
「まさか、副作用で魔王様の隷属が効かなくなるとは思いもしませんでした」
「このクスリの開発は中止だ。全て廃棄しろ。制御できない武器は武器でない」
「はははあっ」
そんなことがあった。
私は、アース・ドラゴンを見た。
あの時の実験台の魔物と同じだ。魔王の隷属の命令を寄せ付けず、手当たり次第に暴れている。
問題は、相手がドラゴンだということだ。実験の時は弱い魔物だった。強化されたと言ってもたかが知れていた。だが、今暴れているのは普段でもSランク相当のアース・ドラゴンだ。それが何倍もの力になっている。
(この私でさえも、手強いと感じる)
私の命令を受けた魔物がアース・ドラゴンに挑みかかるが、ことごとく殺られる。
はたから見たら単に、魔物同士が争っているようにしかみえないだろう。
アース・ドラゴンが私の方を見た。
(まずい。ターゲットにロックオンされた)
その時、後ろから、「おねいちゃん!」という声がした。
見るとさっき助けた少年が木剣を持って駆けてくる。
「おねいちゃんはボクが守る。ボクは勇者になるんだ」
(だめよ)
アース・ドラゴンがブレスを吐こうと息をためている。
(いけない)
とっさに私は少年をかばおうとして、後ろをむいた。
少年と私を結ぶ直線をアース・ドラゴンの炎のブレスが走る。
ドカーンドドドド
火炎が炸裂して柱になった。
私は少年を抱きかかえるようにしてシールドを展開したのだ。
だが、少年を守るための行動により、後手に回ってしまった。
(この状況はマズイわね)
誰も傷一つ付けず、自分が魔王の娘であることを隠して、トリプルSランクの狂戦士状態のドラコンを倒すのは、けっこう難しい。
ローザを見た。
今のブレスで腰を抜かしたようで、少し離れたところにしゃがんでいる。
私は魔法を発動させるために魔力を練り、魔法陣を展開し始めた。
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