表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/61

18 私は出張娼婦じゃないですからね! (魔王の娘視点)



「ここがトロンペ村ね」


 思っていたよりも栄えている村だった。


 家も立派で、村人たちはそこそこ豊かな暮らしをしているようだった。


「こんにちわ」


 私は村人に挨拶をした。


 ガッチリとした体格の初老の男は、私達を上から下まで舐めるような視線でみた。


「こんな、昼間から、踊り子が何をしに来た」


「踊り子?」


「誰だ、こいつらを呼んだのは」


 男は他の村人に言った。


「俺じゃない」


「おらでもないぞ」


「それにしてもべっぴんさんで、高そうな踊り子だな」


「あの若い方の子も踊り子なのかな」


「ねぇ、なんのことを言っているの?」


 ローザが顔を真赤にして、私の裾を引いた。


「ローザ、何?」


「村人たちは私達のことを出張娼婦だと勘違いしてるようです」


 か細い声で言った。


「出張娼婦?」


「娼館の娼婦が村に出張するサービスです」


「それが踊り子っていう言葉の意味なの?」


「はい。隠語です。元々は宴会に娼館の娼婦が出張して踊りを披露して、宴会の後にそういうことをしたそうです」


「はあ~」


 私はため息をついた。


 村人の方を向いた。


「私は娼婦じゃないですからね」


 村の男達はギクリとした顔をした。


「じゃあ、何をしに来た」


「そうだ。手ぶらだから商人でもあるまい」


「冒険者です」


「冒険者だと!?」


「武器は、武器はどうした?」


「私達は魔法職ですから、武器はいりません」


「ランクは?」


「Eです」


「Fです」


「それで他のパーティのメンバーはどこにいる?」


「いません」


「なんだ、聞き間違えか。もう一度言ってくれ」


「他にはいません。私たち二人だけです」


「なんてことだ」


 初老の男は天を仰いだ。


「だから言わんこっちゃない」


「やりすぎたからだ」


「でも昨日から魔物の数はシャレにならない数になっている」


「追加依頼を出そう」


「いや、救援要請の方だろう」


 村人たちは真剣な顔で話し始めた。


「あのう、それでクエストですけど」


「いや、お前たちは帰っていい」


「そういうわけには行きません。私のEランク昇格がかかっていますから」


「なんと、お前、Eランクではなかったのか」


「暫定Eランクです。このクエストを成功させると昇格します」


「じゃあFなのか?」


「暫定Eです」


「帰れ」


「えっ?!」


「状況が変わった。昨日から異様な数の魔物が出てきている。ランクもBランクレベルになった。まさかギルドがFランクを送ってくるとは思わなかった」


「最低でもCランクも含めたチームで来ると思っていた」


「お前らでは無理だ」


「騙すようなことした俺達が悪かった。いいから早く帰れ、ここは危険だ」


「そういうわけにはいきません!」


 すると悲鳴が轟いた。


「まさか」


「村まで来たというのか」


「こんなことは初めてだ」


「助けてー。誰か。私の子が」


 女性の金切り声がする。


「行くぞ」


 私はローザに声を掛けると、助けを呼ぶ声の方へ駆け出した。


 すぐにその場所が見えてきた。


 オークの戦士に子どもが囲まれていた。


 その子に母親らしい女性が駆け寄り、抱きかかえる。


 オークの手が振り上がる。


 振り下ろされたら、親子の頭はスイカのように割れるだろう。


『待て!』

 

 オークの動きがビクッとして止まる。


 ローザが両手を前にかざし、私が教えた魔法を発動する。


「エイム。シュート」


 氷の矢がオークの胸に当たる。


 しかし、威力が弱く、胸の筋肉に阻まれてしまう。


 おそらく私がローザに前回の時のように同期化してアシストしていないので、まだ魔法攻撃に不慣れなローザは潜在的に持てる力の100分の1も発揮できないでいるのだろう。


『我に隷属せよ』


 私はオークに命じた。


 全てのオークが隷属した。


「ローザ、アシストするから火炎魔法を花火のように打ち上げて」


「はい」


 私はローザの魔法を支援した。


 花火のような火炎が打ち上がる。


「私たちが魔物を引き付けている間に、皆さんは逃げて下さい」


 さっきオークに囲まれていた女性は子どもを抱きかかえて走った。


「ありがとうございます」


「まて、それではおぬしらは」


 追いついてきた初老の男が言う。


「私たちは冒険者です。魔物は私たちが征伐します」


「お前らに始末できる数でもレベルでもないぞ」


「それでも依頼ですから、やります。早く逃げて下さい」


「本当に申し訳ないことをした。お金をケチったばかりに」


「今は、そんなことを言っている場合ではありません」


 私とローザは森に向けて駆け出した。


 迫りくるオークたちの頭上に火炎弾を炸裂させながら。


『お前たちよ。我に続け』


『『『『魔王様、承知!』』』』


 オークたちは私の行く方向についてくる。


 それを見た村人が叫んだ。


「神様、どうかあの勇気ある冒険者に加護を」


「私たちが間違っていました」


 すすり泣きの声も聞こえる。


「案ずることはありません!」


 それは気休めでも無く、事実だった。


 周りを取り囲んでいる魔物の群れは、今や、私の軍勢だったからだ。


 村から少し離れたところに魔物たちを誘導すると、リーダー格のオークが寄ってきた。


 ひざまずこうとしたので、止めた。


『それはよい。何だ』


 私は念話で話した。


『魔王様にご報告があります。我らがこの人里まで降りてきたのには理由があります』


『言ってみろ』


『はははっ。実はバーサーカー状態のアース・ドラゴンに追われて、ここまで来ました』


『アース・ドラゴンだと?』


 アース・ドラゴンは普段は魔族領の奥深くに生息しており、こんな人族の人里には絶対に出てこない。


『どういうことだ』


『それに狂っていて、みさかいなく動くものを襲ってきます』


 アース・ドラゴンは翼のない竜だ。だが、その戦闘能力は高く、おそらくSランクに分類される魔物だ。


 地響きがする。


 スタンビートのように魔物の群れが森の奥から逃げてくる。


「まずいな」


 横にいたローザも数百を超える魔物が押し寄せる地鳴りに青くなっていた。


『お前たちで、討てるか?』


『わかりません。どういうわけか、あのアース・ドラゴンは戦闘能力も通常の倍のような気がします』


(まさか)


 私には一つ心当たりがあった。


 私の周りには数百の魔物が集まってきた。


 その向うからアース・ドラゴンが姿を現した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ