17 アンが嵌められただって?! 少し本気を出すしかない(勇者視点)
俺は冒険者ギルドに行けばアンに会えるかと思い、行ってみた。
昨日からアンに会っていない。
(まだ、来ていないのかな)
掲示板を見ると、久しぶりに薬草採取の依頼が貼ってあった。
(また、アンと薬草採取にでも行くか)
待っていればそのうち来るだろうと思い、俺は併設されている酒場の椅子に座った。
「エールを」
注文を取りに来た獣人のウェイトレスに言った。
ミニスカートの後ろからのぞいている尻尾が可愛かった。
エールが来ると、俺はそれを一気に半分ほど空けた。
(うーん、美味い)
手持ち無沙汰なので、なんとなく周りで飲んでいる冒険者たちの会話を聞いた。
「それにしてもよ、さっきの若いネーチャンたちは可哀想だな」
「ああ、ヤバい、ヤバすぎる」
「だって、あの村はよ。曰く因縁のあるアレだろ」
「ああ、ヒデェ話だ」
「それを分かっていて、あんな新人二人で行かせるなんてよ。無茶だよ」
「あのキレイなネーチャンが死んだらどうするつもりだよ」
「いや、冒険者は自己責任だからよ。どうもなりもしないよ」
新人の綺麗な女性というのが引っかかった。
(まさか、アンのことじゃないだろうな)
だが、アンには俺の他にパーティを組むような知り合いはいない。それにFランクだから薬草採取くらいしかできないはずだ。
俺はお代わりのエールを頼もうとした。
「あのFランクの新人冒険者、名前は何ていうんだったけ」
「確か、アンだよ」
「そうそうアンだ」
俺は凍りついた。
(何だ? 何のことだ)
「大きな声じゃいえないが、ギルド長も副ギルド長も戦闘職だから魔法職に嫉妬しているんじゃないか」
「つまり、あれか、これから伸びそうな魔法職の卵は、先に潰しておくということか」
「ああ、剣士こそが最高で、魔法職は剣士の補助に過ぎないというが持論だからな。剣士よりも目立つ魔法職などはいらないという考えの持ち主だ」
俺は席を立つと、話をしている二人のところに行った。
「なんだお前?」
「その話を詳しく聞かせてもらえないか」
俺はギルドを飛び出して通りを走っていた。
(なんてことだ)
二人の冒険者に酒をおごり聞き出したところ、アンは登録したての冒険者の少女とEランクの魔物の調査に行ったのだという。
しかも依頼主の村は、ギルドのブラックリストに載っている村だ。
いつも、依頼内容は過小評価して出し、依頼料をケチる。
だが、実際に依頼を受けて行くと話が違い、強い魔物がいて苦労するのだという。だが依頼主は、自分たちは知らないの一点張りで、偶然遭遇した魔物扱いになり、村は追加報酬は一切支払わないのだという。
なので、ギルドもその村からの依頼は放置するか、暇な高ランク冒険者がいたら、リスクを告知の上、魔物を倒したら素材はギルドが買い取るからということで、冒険者を派遣するのだという。
今回、依頼はEランク相当で、魔物の調査依頼だが、実際は数ランク上の魔物が出てきて、調査だけでは済まない可能性が高いのだという。
そこに新人の魔法職二人がろくな装備もなしに行けば、最悪命を落としかねない。
しかし、アンはどういうことか、ゴブリンの耳100個を討伐証明として出し、Eランクへのランクアップを申請したらしいが、それがギルド長には気にいらなかったらしく、Eランク昇格の条件として、その村のクエストに行かせたのだという。
同行した少女は、誰もこれまで見かけたことのない子で、全くの新人だという。
(まずい。アンの身が危険だ)
俺は、走りながら路地裏に古い木剣が捨ててあるのを見つけた。
(無いよりはマシか)
ゴミ箱から木剣を拾うと、先を急いだ。
町を抜けたところで、魔法で木剣を強化した。
(鋼の剣程度にはこれでなった)
アンはおそらく魔族との混血なので、少しは魔法が使えるかもしれないが、本格的な魔物討伐などしたことが無いはずだ。
(アン、頼む無事でいてくれ……)
俺は身体強化の魔法をかけ、トロンペ村を目指して倍速で走った。
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