13 どぶさらいはもう卒業よ! ランクアップに挑むわ(魔王の娘視点)
「どうしたの?」
彼が冒険者ギルドのクエストを貼ってある掲示板を見て、難しい顔をしていた。
「いや、お金になるクエストが無いなって」
「どうして? あのアース・ドラゴンなんてどう? 100万Gよ」
「あれはAランク以上で無いと受けれない」
「強い魔物は私達のランクではまだダメってこと」
「ああ」
「なら、そこのオークなんて手頃じゃない?」
オーク討伐のクエストを指さして言った。
オークなど雑魚中の雑魚だ。
「だめだ」
「どうしてなの?」
「僕たちは二人ともFランクだからだ。最低でもEランク以上の冒険者と一緒でないとオーク討伐も受けることができない」
「なら私達にできることって……」
「薬草採取、どぶさらい、あとはゴブリン討伐くらいだ」
だが、薬草は私たちが取りすぎて、在庫過剰になり、今のところ需要はなく、掲示板にクエストが貼られていない。
「ゴブリン退治のクエストもなしか」
「そうすると私達でできることは……」
「ああ、どぶさらいしかない」
彼は伸びをすると「今日は休みにするか」と言って出ていってしまった。
彼が困っているのは私のせいだ。
薬草の採取でも彼は報酬を私に多めにくれる。それに毎晩のように勇者食堂で奢ってくれる。どんなに私が断っても「いいから」と言って聞かない。
彼は自分の宿代と2人分の食事代を出した上に、分前も多く取ろうとしない。だから、毎日がギリギリで、今日のように仕事がないと、すぐにお金も尽きてしまうはずだ。
これに対しては、私は食費だけでなく、宿代も実はかかっていない。
一度宿に泊まったが、薄っぺらいドアと壁、ちゃちな鍵に、これなら野宿の方が安全で快適だと思い、宿に泊まるのはやめた。
今は、使われていない塔の隠し部屋に住んでいる。
隠し部屋を魔法で発見し、自宅にしたのだ。ドアも階段も無いので出入りは移転魔法でしている。
魔法で掃除をして、異空間収納から家具等を取り出し、快適な生活だ。
それにカーゴイルを召喚して警護にあたらせ、何重にも結界を張ってもいるからセキュリティも万全だ。
だから、お金は全く使わないで生活できている。
(でも、このままではダメ、彼のために何とかしないと)
私はどうしらいいのか考えた。
(私の貯めたお金を彼にあげたらどうかしら?)
だめだ。
そんなのは彼の気持ちを傷つけるだけだ。
要は彼が稼げるようにすればいい。
それには冒険者ランクを上げて、よりお金になる魔物を討伐することができるようになればいい。
私は、ギルドのカウンターに行った。
金髪の受付の女の子に訊いた。
「ねぇ、FランクからEランクにランクアップするのってどうやったらいいの?」
「クエストをこなし、ギルドに貢献すればランクはあがります」
「あとどれぐらいでEランクになれる?」
「お待ち下さい」
彼女は私のギルドカードを確認した。
「まだまだですね」
「薬草はかなり納めたわよ」
「薬草採取だけなら、今のペースでもあと半年はかかります」
「そんなに!!!」
「それに薬草は今在庫過剰ですから、持ってきてもらっても受け入れかねます」
「その場合、ランクはどうなるの」
「過剰な薬草の納付はランクアップには、カウントされないので無効です」
「そんな……」
失望する私の顔を見て、受付の女の子が続けた。
「ランクアップに一番直結する成果は魔物討伐です」
「でもゴブリンしかだめなんでしょ」
「冒険者の命を守るためです。力が伴わないのに無謀なことをさせられないからです」
オークなど敵でない。
微塵の危険すらない。
私に歯向かうのなら瞬殺だ。
どこが無謀で危険なのかと言いたいが、現魔王以上の実力を有する魔族だとはカミングアウトできない。
「ゴブリンだったら何匹倒したらランクアップできるの」
「100匹です」
私は絶句して言葉を失った。
(たったそれだけなの)
受付の金髪娘はそんな私を見てため息をついた。
「分かります。動揺するのは。新人の冒険者にとって、いくら相手がゴブリンでも100匹は途方もない数ですよね。半年間薬草を採取し続けた方が正直言って早いと思います」
私は彼女の言葉を聞いていなかった。
ゴブリン討伐のことで頭は一杯だった。
「そうそう、さっき、ゴブリン討伐の依頼がギルドにありました。西の方にあるコレド村の付近の西の森にゴブリンが出たそうです」
そう言うと、新しいクエストの紙を見せた。
私はそれをひったくるように手にした。
「受けるのは自由ですが、一人で行ってはいけませんよ。必ず、いつも一緒にいるあの男の人か、先輩冒険者と一緒に行って下さい。それから装備も最低限は揃えてからにしてくださいね」
「ねぇ、討伐証明っていうのがいるのよね」
「もちろんです」
「ゴブリンの場合は?」
「右耳です」
「それだけでいいの? 頭蓋骨とかは」
「いりません。右耳だけで結構です。下手に頭とか持って来ないで下さい。使いようがないので処分に困ります」
「わかったわ」
私は、ギルドを出た。
(これで、明日から彼とお金になる魔物の討伐ができるわ)
私は路地裏に入り、人がいないのを確認すると、転移魔法で西の森に移動した。
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